群馬県前橋市、桐生市などにまたがる赤城山（あかぎやま）に登りました。
群馬県のほぼ中心部に広大な裾野を広げる、県を象徴する極めてシンボリックな山です。ツツジや紅葉の名所であると同時に、冬期であっても比較的登りやすい山であることから、年間を通じて絶え間なく多くの登山者で賑わう人気の山であります。
湖畔が錦に染まった紅葉シーズンたけなわの、上州きっての名峰を巡って来ました。
２０１９年１０月２０日に旅す。
赤城山は群馬県のほぼ中央に位置する古い世代の火山です。関東平野の傍らに広大な裾野を引くその姿は、遠目からもひと際目立つ存在であり、群馬県を代表する象徴的な山となっています。
赤城山の山頂部には、火口湖である大沼を周囲を取り囲むように八つの外輪山が並び立ちます。最高峰は黒檜山（くろびさん）であり、赤城山と言う名のピークは存在しません。
最高地点であることから、当然ながら赤城外輪八峰の中ではこの黒檜山の人気が最も高く、多くの登山者が訪れます。しかし実のところこの黒檜山、眺望の方はイマイチであったりします。
赤城山の中でも最も眺望に優れ、かつ赤城山らしい光景を目にすることが出来るのは、大沼を挟んで黒檜山の対岸に立つこの地蔵岳のです。
山頂からは大沼を中心に連なる赤城山頂部の全容を広く見渡すことが出来ます。
この時にも、黒檜山と同時に地蔵岳訪問を画策するもの、途中で時間と気力が尽きて、結局登らず終いになっていました。という事で今回は、地蔵岳からの光景を眺めることを主目的に据えて訪問します。
かくして訪れた紅葉シーズン真っ盛りの赤城山。時間に追われる少々慌ただしい行程であったものの、前評判に違わぬ素晴らしい眺望を満喫してきました。
コース
新坂平バス停より地蔵岳へと登頂します。その後は大沼湖畔のあかぎ広場まで下り、駒ヶ岳を経由して最高峰の黒檜山へ登頂します。下山は赤城山神社方面へ下り、赤城山ビジターセンターまで歩いて戻ります。
赤城外輪八峰のうち三つの峰を縦走する、充実の行程です。
１．赤城山登山 アプローチ編 紅葉シーズン最盛期の混雑で、バスに乗り損なう波乱の幕開け
６時３５分 ＪＲ赤羽駅
両毛線直通の高崎線鈍行列車に乗り込み、前橋駅へと向かいます。この列車は長い１５両編成での運行ですが、途中の籠原で先頭５両が切り離されてしまうのでご注意ください。
せっかく気持ちよく寝ていたのに、途中で車両を乗り換える羽目になりました。
８時３５分 約２時間の乗車時間で、終点の前橋駅へと到着しました。
目指す赤城山はこの通り、駅のホームからよく見えます。・・・サンシティ前橋が邪魔だなあと思ったのは、きっと私だけではないハズだ。
視線を左に転じると、これまた群馬県の象徴的な山である榛名山（1,449m）の姿が見えました。赤城山と同様に、山頂の火口湖と複数のピークから成る外輪山を持つ成層火山です。
駅から外へ出ると、バス停にはとても一台には収まりきらないような長蛇の列が出来上がっていました。これだけ人がいるなら、当然ながら臨時便が出るよね？
はい、臨時便はありません。次の便をご利用くださいと冷たく言い放ち、８時４５分発のバスは出発してしまいました。
なんてこったい。駅のホームから赤城山や榛名山をゆっくりと眺めている場合ではなかったのです。
という事で、次の９時３５分のバスに乗車します。待ったおかげで座席にはありつけましたが、スタート時間的に、これで大きく出遅れてしまいました。帰りのバスに間に合うかな。。
１０時５５分 新坂平バス停に到着しました。正午まで残すところあと１時間と言う時間になってから、ようやく登山を開始できます。実に幸先の悪いスタートです。
ここまで登ってくる最中に車窓から見えた紅葉は、実に見事なものでした。中腹があれだけ紅葉しているという事は、山頂付近の紅葉はもう終わっているかもしれません。
新坂平には放牧場が存在します。かつては牛の放牧が行われていましたが、事業者が撤退してしまい現在はかわりに羊が放牧されています。
凄まじい獣臭がします。これだけ離れていても鼻につくとは、相当強烈ですな。
バス停の少し先に、売店兼観光案内所があります。トイレもありここで準備を整えられます。
これから目指す地蔵岳は、この通りすぐ隣に立っています。山と高原地図によれば、山頂までの標準コースタイムは１時間ちょうどです。
一見すると、１時間もかかるようには見えないくらい近くにある気がするのですが、道があまり良くないのでしょうか。
２．大沼を見下ろす好展望地、地蔵岳
身支度を整えて、１１時に登山を開始します。まずは駐車場の奥にある登山口に向かって、来た道を少し引き返します。
道路脇に茂ったススキの穂達が、これでもかと言わんばかりに秋らしさを演出してくれます。
登山道の入り口までやって来ました。登り始めは、緩やかな勾配の道です。
右手に赤城外輪八峰の一つである荒山が見えました。ツツジの名所として知られ、５月の中旬から６月の上旬にかけて、多くの登山者が訪れます。良い色に紅葉していますねえ。
やがて我らが地蔵岳の方も、見事な黄葉のトンネルが出迎えてくれました。
頭上を覆いつくすこの圧倒的黄色。赤く色づいている木はあまりなく、黄色が目立ちます。
陽の光に照らされた柔らかなオレンジ色の葉が実に美しい。
やがて道は、熊笹に覆われた急斜面となりました。ぬかるんでいて歩いにくい道です。特に下りの場合は、滑らないように注意を要します。
日当たりの良さそうな場所は、見事に赤く紅葉していました。これはまた、良い色に染まっていますねえ。
登り始めて３５分ほどで、山頂らしき場所が見えて来ました。ほらやっぱり、１時間もかからないでしょう。
とても山の上とは思えないような、広々とした場所に出ました。野球が出来そうなくらいに広大な空間です。
この広大な地蔵岳にの山頂には、テレビ地上波やら国交省の気象レーダやら、数多くのアンテナが林立しています。ここは前橋や高崎の市街地を見下ろす場所なので、隅々にまで電波を飛ばすのには好都合な場所なのでしょう。
その前橋の市街地は、厚ぼったい雲に覆われていました。山頂は快晴だけれど、下界は今くもり空であるようです。
お地蔵さんがポツンと立っていました。これが山名の由来となった地蔵なのでしょうか。
１１時４０分 地蔵岳に登頂しました。思った通り、山と高原地図の標準コースタイムは、かなり甘めの設定でした。
山頂の様子
腰掛けるのに良い塩梅の岩が散乱した、広々とした空間です。休憩をとるのにおあつらえ向きな場所だと思います。
山頂からは、目の前に大沼と黒檜山の姿を一望することが出来ます。
まさにこれぞ赤城山と言う光景なのではないでしょうか。この光景を見たかったがために、今回は地蔵岳を行程に組み入れました。
眼下には大沼と赤城山神社が見えます。
かつて地蔵岳にはスキー場が存在し、凍結した大沼に向かって滑走することが出来ました。今同じことをしたかったら、板を担いで自分で登るしかありません。
黒檜山の左奥には、尾瀬の山々の姿が見えます。
尾瀬と言うと、とてつもなく遠い場所だと言うイメージがあります。それは主に赤城山が邪魔で街道が大きく迂回を余儀なくされているからであり、直線距離で言うとそこまで遠くは無かったりします。
さらに左手には、濃厚な雲を纏った谷川連峰の山並みが見えます。上越国境地帯の山の天気と言うのは、正午になるとだいたいつもこんな感じです。
この後は一度あかぎ広場まで下り、そのあと黒檜山に登り返します。
黒檜山には過去にも一度登頂しているので、何も今から無理をして足を延ばす必要はないのかもしれません。しかしながら、最高峰の土を踏むのは、ピークハンターたる者のお勤めであります。何故ならば、そこにピークがあるから。
３．逆走ルートであかぎ広場から駒ヶ岳へ
１２時 地蔵岳山頂を辞去し、大沼湖畔に向かって下って行きます。
これは本当に道なのかと疑ってしまうような、岩の敷き詰められた歩きにくい斜面が続きます。このルートは全般的に、悪路と言ってしまって差し支えないような道です。
少し下ったところで、地蔵岳から肩のように張りだした平坦地が現れます。ここからの展望がまた実に素晴らしい。
右手に覚満淵と呼ばれる湿地帯が広がっているのを見下ろせます。
当初の予定では下山後に立ち寄ろうかとも思っておりましたが、本日はスタートで大きく出遅れてしまっているので、残念ながら寄れる時間はなさそうです。
左手には、前橋駅のホームからも見えていた榛名山の姿がありました。榛名山のちょうど真後ろに浅間山があるはずなのですが、曇っていて見えません。
これは恐らく四阿山（2,354m）かな。平たいシルエットの山です。
好展望タイム終了。ここからはひたすらストイックに、ぬかるんで滑りまくる急坂を下ります。割と酷い道なので覚悟を決めて下りましょう。
写真だとイマイチ急勾配さ加減が伝わりませんが、かなり急峻な道です。この写真を撮った直後に見事にズッコケて、ズボンの尻に「私はコケました」という印をつけてしまいました。
３５分ほどで下山が終了です。酷い目に遭いました。この道よりも、小沼を経由するルートを下りる方が良いのかもしれません。
大沼の湖畔に向かって、舗装道路をテクテクと下って行きます。
白鳥の湖。
１２時４０分 あかぎ広場へとやって来ました。黒檜山を目指す場合は、ここでバスを降りるのが最短です。
背後につい今しがた登ってきた地蔵岳です。ここから登った場合、標準コースタイムで１時間の行程です。
黒檜山への登頂ルートとしては、赤城神社側から登って駒ヶ岳側から降りてくる周回ルートを辿るのが最も一般的です。私も前回訪問時はそのルートを辿りました。
前回と同じルートを辿るのもつまらないので、今回は逆向きに行ってみようかと思います。
紅葉の登山道をゆるゆると登ります。ちょうど黒檜山から下りてくる人が多い時間帯であったため、頻繁にすれ違いが発生します。これは判断を誤ったかな。
このコースには、鉄製の急な階段が全部で三ヵ所あります。
見ての通り途中ですれ違いは出来ない幅しかないので、タイミングを見計らって一気に登り切ります。
やはり紅葉は、青空にこそよく映えます。晴れてくれて良かった。
階段エリアを登り切ったところで、外輪の稜線に出ました。ここからは気持ちの良い尾根歩きです。
下界の方は相変わらず雲の下です。まるで赤城山の山頂部だけが、何かの力に守られているかの如く晴れ渡っています。
背後に大沼と同様の火口湖である小沼が見えました。小沼の周囲は良い感じに紅葉しておりますねえ。黒檜山よりも、あちらへ行くべきだったか。
前方に駒ヶ岳の山頂が見えてきました。右側のピークが駒ケ岳で、左奥にあるのが黒檜山です。
左手には大沼が見えます。今いる場所が、大沼を取り囲む外輪山であると言うことが大変よくわかる光景です。
１３時４０分 駒ヶ岳に登頂しました。
日本全国に数多く存在する名前のピークです。駒とは仔馬のことで、残雪期に馬の形に見える雪渓が現れることが山名の由来となっています。
駒ヶ岳山頂からは、関東平野を広く見渡すことが出来ます。晴れていればね。
黒檜山が目の前に立ちはだかります。山頂付近では、もうすでに紅葉は終わってしまっているようですね。
４．赤城山登山 登頂編 最高峰の土を踏むことこそがピークハンターの務め
駒ヶ岳からは一度、鞍部に向かって下ります。地蔵岳とは違って、よく手入れがされた歩いやすい道です。
名もなき沼が出現していました。ただの雨水だまりでしょうけれど。
大ダルミとよばれる鞍部まで下って来ました。ここから山頂までの標高差は200メートルほどあります。200メートルと言うと0.5高尾山なので、だいたい３０分もあれば登頂できるでしょう。
※１高尾山＝標高差400メートル＝１時間
大ダルミから黒檜山への登りは結構な急坂です。そういえば、雪の積もった状態のこの斜面を下った時に、滑って肝を冷やしたっけか。
振り返れば絶景。麓の町を覆っていた雲が、赤城山をも覆いつくそうと立ち上ってきている最中でした。
急坂をえっちらおっちら登るうちに、稜線が見えて来ました。
黒檜山に立つ黒檜大神石碑。ちなみここはまだ山頂ではありません。山頂は少し離れた場所にあります。
山頂へ向かいましょう。最高地点はこの通り、眺望の無い樹林の中にあります。
１４時３０分 黒檜山に登頂しました。だいぶ時間が押しておりますが、これで予定していた行程はすべて踏破しました。
山頂の様子
山頂には眺望がありませんが、山頂から先へ少し進んだ場所に視界の開ける場所があるので、立ち寄って行くことを強く推奨します。
という事で、その眺望スポットへと移動します。道標には２分とありますが、実施にはもうちょっとかかるかな。
灌木帯を抜けたところで、前方の視界が一挙に開けます。
こちらは難読な山名であることで知られた武尊山（ほたかやま）（2,158m）です。とても良い山なのですが、交通アクセスに難があり、なかなかそう気軽には訪問できません。
こちらは赤城山のお隣さんとでも言うべき子持山（1,296m）です。小粒ながらも良い山であるらしいですね。一度登ってみたいな。
このまるで壁のように連なるのは、上越国境を形成する谷川連峰の山並みです。お天気の気難しい山域なので、綺麗に晴れていることはめったにありません。
これは尾瀬の至仏山（2,228m）です。まるで丘の様な、なだらかなシルエットが特徴的です。
そしてこれまた極めて特徴的なシルエットを持つ双耳峰の燧ヶ岳（2,356m）です。尾瀬ヶ原を挟むようにして至仏山と対峙しています。
北に目を向けると、左奥に日光白根山（2,578m）の姿がありました。右手前の山は、武尊山とならぶ難同山名の筆頭候補である皇海山（すかいさん）（2,144m）です。
皇海山の右手に連なるのは、栃木県は足尾地方の山並みです。公共交通によるアクセスが極めて悪い一帯であるため、この界隈の山には未だ足を踏み入れたことがありません。
大沼も少しだけ見えることには見えますが、木に邪魔されるため全容を眺めることは出来ません。赤城山そのものの光景を楽しみたい人は、黒檜山よりも地蔵岳に登った方が幸せになれると思います。
５．赤城山登山 下山編 ～往路で超満員だったバスは、帰路もまた同様であるのは必然
１５時 ピークハンターとしてのお役目は無事に果たされました。下山を開始します。
赤城神社方面のルートもまた、一直線の急な道です。標高差こそ大したことはありませんが、黒檜山と言うのは基本的にどこから登っても急登です。
風化した溶岩石が堆積した砂礫の道です。非常にもろく崩れやすいので、慎重に下りましょう。
赤城山と言うのは、実は雪の付いている状態の方がずっと登りやすい山なのではないかと言う気がしてきました。
標高が下がったことにより、周囲に鮮やかなる紅葉が戻って来ました。
途中に視界の開けた場所があり、大沼と地蔵岳を一望できました。雲が無く空気の澄んだ日には、地蔵岳の左奥に富士山の姿が見えることもあるそうです。
一部に痩せている場所もあります。取り立てて危険と言うほどでもありませんが、左側は切れ落ちているので要注意です。
下山開始からきっかり１時間で、登山口へと下りていました。
先ほども述べましたが、こちら側から登る方が一般的です。逆走してみた感想としては、道中のすれ違いが増えるだけなので、特に良いことは無いかと。
大沼湖畔をゆく赤城道路を歩いて、バス停のある赤城山ビジターセンターへと戻ります。
どんより曇ってしまった大沼湖畔から、逆さ地蔵岳をしっかりと頂きました。
大沼の辺に立つ赤城神社。一見すると島のようにも見えますが、島ではなく湖面に突き出した半島です。
優雅にボート遊びに興じる人々の姿も。なにもピークハントするばかりが赤城山の楽しみ方ではありません。・・・どの口で言っているんでしょうかね。
約４時間ほど前に登山を開始した駒ヶ岳登山口の脇を通り、赤城山ビジターセンターへと向きます。
あかぎ広場前にもバスは通るのですが、往路での温雑ぶりを思うにそもそもバスに乗れるのかが少々不安だったので、始発のバス停であるビジターセンターを目指した次第です。
１６時４０分発のバスはすでに待機していました。そして案の定、超満員でした。何とかスペースを作ってもらい乗り込みます。
最終バスはこの後にもう一本、１７時１７分発の便があります。最終便は前橋駅までは直通してくれず、途中の富士見温泉で乗り換える必要があります。
超満員のバスに立ったまま１時間以上もゆられて、前橋駅へと戻って来ました。
途中で乗客の一人が貧血を起こしてひっくり返り、救急車を呼ぶと言うハプニングがありました。そんな倒れるほど疲れているのなら、素直に最終便を待って座って帰れば良いものを。
丁度良いタイミングで、高崎線直通の快速アーバンがホームに待機していたので、そのまま乗り込み帰宅の途につきました。
赤城山のベストシーズンは何時かと問われれば、それはツツジが咲く季節か、もしくは雪山シーズンになろうかと思います。しかしながら、赤城山は紅葉もまた大変素晴らしい山でありました。赤城山のベストシーズンは「全部」と言うのが正解なのかもしれません。あらゆる季節において、異なる魅力を放ち続ける稀有な山であると言えるでしょう。
最高峰の黒檜山へピークハントしに行くのも良いですが、素晴らしき眺望の地蔵岳へも是非足を運んでみてください。絶対に後悔はしないと思います。
＜コースタイム＞
新坂平（11：00）－地蔵岳（11：40～12：00）－あかぎ広場前（12：40）－駒ヶ岳（13：40）－黒檜山（14：30～15：00）－黒檜山登山口（16：00）－赤城山ビジターセンター（16：30）
完
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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