東京都檜原村にある浅間嶺(せんげんれい)に登りました。
奥多摩主脈と笹尾根の間に挟まれた浅間尾根上に存在する静かな場所です。低山ながらも眺望の開けた場所が多くあり、手頃のコースタイムと相成って人気のハイキングコースとなっています。中でも、日本の滝100選に選ばれている払沢の滝からスタートするルートが多く歩かれています。
近場のお手軽ハイキングコースで、ゆる登山を楽しんで来ました。
2019年5月12日に旅す。
今回は東京は檜原村の浅間尾根(せんげんおね)にある浅間嶺へと登って来ました。
浅間尾根は、奥多摩の三頭山に端を発する奥多摩主脈の風張峠より派生する枝尾根です。奥多摩三山と笹尾根の間にある尾根と言えば、だいたいの位置が伝わるでしょうか。
檜原村を南北に分断するかのように、村のほぼ中央に横たわっています。特にこれと言った目立つ顕著なピークがあるわけでもなく、静かな里山そのものと言った風情の場所です。
浅間尾根は全般的にアップダウンが少なく、幅広で歩きやすい尾根です。そんな地形的特徴もあって、川沿いに街道が整備されるようになる以前の中世期には、この尾根は道として使われてきました。
尾根上には今なお、かつて人の往来が盛んであったことを偲ばせる石碑などが多く残されています。
浅間尾根を歩くハイキングコースには、いくつかのモデルコースが存在します。今回はその中でも最も一般的と言える、払沢(ほっさわ)の滝からのコースを歩いて来ました。
コース
払沢の滝バス停より時坂峠を経て浅間嶺へ登頂。その後は浅間尾根上を数馬分岐まで歩き浅間尾根登山口バス停へ下ります。
標準コースタイムおよそ5時間ほどの、お手頃な行程です。
1.浅間嶺登山 アプローチ編 路線バスで払沢の滝入り口へ
6時27 JR立川駅
五日市線への直通電車に乗り込み、檜原村の玄関口となる武蔵五日市駅へと向かいます。
7時 立川からおよそ30分の乗車時間で、終点の武蔵五日市駅へと到着しました。
これから向かう檜原村(ひのはらむら)は、東京都内では唯一の村です。村内に鉄道は通っておらず、公共交通機関はここ武蔵五日市から発着しているバスのみのとなります。
7時10分発の数馬行きのバスに乗車します。
この路線を走るバスには、払沢の滝入り口を経由するものとしないものがあるので、事前によく確認して下さい。時刻の脇に(滝)と付いているものが、払沢の滝を経由する便です。
7時35分 払沢の滝入口バス停に到着しました。
ここまでの運賃は470円です。スイカ・パスモに対応しています。
滝へ向かう道はバス停の向かいにあります。とうふ屋さんが目印です。
集落内ではヤマツツジが見ごろを迎えていました。檜原街道の標高は、おおむね500メートルから600メートルほどあります。既に山の上に居るようなものです。
振り返ればこの圧倒的なまでに山深い光景です。だてに東京都唯一の村を名乗っていません。檜原村の集落と言うのは基本的に、秋川沿いの谷底にある僅かな平地にそって連なっています。
程なく分岐地点が現れます。右へ道なり進むと浅間尾根方面で、左へ進むと払沢の滝があります。
せっかくの機会なので払沢の滝へと寄り道して行きます。分岐地点からは、片道15分ほどの距離の場所です。
2.日本の滝100選の一つ払沢の滝
滝へと続く道は、ウッドチップが敷き詰められた歩道となっています。登山用の靴を履いていなくても安全に歩けます。
なおこの沢は、付近の上水道の水源にもなっています。という事で、水の中へ入って遊ぶことは禁止されています。
7時55分 払沢の滝に到着しました。
4段に分かれており、すべてを合わせた落差は62メートルほどあります。東京都内はで唯一となる日本の滝100選にも選ばれています。
水量はやや少なめです。ゴウゴウと降り注ぐ感じの滝ではななく、飛沫のような水が優しく降り注ぐかのような印象です。
滝壺の水深は割と深めで、真下まで接近することはできません。なお先ほども述べた通り、この沢は上水道の水源となっているため、水の中へ立ち入ることは禁止されています。
滝と言う1ヵ所の出口だけではなく、周囲の岩からも滴るようにして水が染み出しています。冷たく湿った空気に満たされた、気持ちの良い空間です。
8時10分 満足が行くまで滝見物しました。分岐地点へ向かって、元来た道を引き返します。
昔来たときには、こんな手すりなどなかったと記憶しています。お金をかけて整備しておりますな。
そう、この滝を見たのは実はこれで二度目です。一度目の訪問は今から30年近く昔のことになります。小学生の時の社会科見学だったか何かで檜原村を訪問しました。たしか払沢の滝の他に、数馬分校の跡などを見学した記憶があります。
払沢の滝は冬になると凍結して氷瀑になることで知られています。そこで当時「払沢の滝がいつ凍るか予測しよう」みたいなクイズが出題されました。
斜に構えたひねくれ者のガキだった私は、空気も読まずに「凍らない」と回答しました。しかしその後、結果として私はクラスで唯一の正解者となったのでした。
地球温暖化の影響は、当時からすでにそれだけ進行していたと言うわけです。近年では、完全凍結することはほとんど無くなってしまったそうです。
かっ顔、でっかい顔!
この個性的な建物は、ギャラリー喫茶やまびこと言う名の喫茶店です。まだ朝も早い時間であるためか、営業はしていませんでした。
8時20分 分岐地点へと戻って来ました。
ここまでは言わば前座で、ようやく本日の本題がスタートします。やけに長い前座でしたが。
3.檜原村山間部の集落を通り抜け、峠の茶屋へ
登り始めからしばらくは舗装道路歩きです。道なりにゆるゆると歩きます。
途中で道から外れてショートカットできる階段がありました。当然ながら、ここは階段へと進みます。
ちなみに、この先には集落が存在します。この道も登山道と言う訳ではなく、住民のための生活道路です。
前方に民家の建物が現れました。凄いところに住んでいますねえ。足腰が鍛えられそうです。
ここで再び舗装道路と合流します。この後はしばらく道なりです。
振り返って見た集落の風景です。信じられますか、これ東京都の光景なんですよ。
眺めが良すぎて、なかなか歩みが進みません。里山の風景が好みだと言う人にとって、浅間嶺は最高の場所だと思います。
こういう野生の花が沢山咲いている、春先の畦の光景が大好きです。紅葉の季節も美しいけれど、私は新緑シーズンの山の光景が一番好きなんだなあと、あらためて思った次第です。
9時10分 時坂(とっさか)峠に到着しました。
これで尾根に乗りました。この先はしばらく間、ほぼ水平移動の緩やかな道となります。
浅間尾根が、甲州中道と呼ばれる古道であったことを示す説明が掲げられていました。青梅街道が整備されたのは江戸時代に入ってからの事ですから、それ以前の時代には山の尾根に沿って歩くしかなったわけです。
江戸と甲州を結ぶとなるとルートとして考えられるのは、大菩薩峠から牛の根通りを通り、鶴峠を経て三頭山へ。そこから風張峠へ下って浅間尾根ですかね。
古人たちは一体何日をかけて歩いていたのでしょうか。甲州中道大縦断トレイルとかやってみたくなります。
馬頭尊と思われる石碑もありました。古くから人の往来のあった場所であることを示す証拠です。
舗装道路に沿って進みます。一瞬の出来事だったので写真を撮りそこないましたが、目の前を野生のリスが横切りました。
北秋川の谷を挟んで向かいに奥多摩主脈の山並みが見えます。右奥にあるのが御前山(1,405m)で、左手間の山は湯久保山(1,044m)かな。
視界の開けた場所に出ました。左に見えている山並みが浅間尾根の主稜線です。
伐採された跡地に、新たな杉の幼木が植えられて育ちつつありました。せっかく伐採したんだから、もう杉は植えないで!(By花粉症患者)
9時25分 峠の茶屋まで登って来ました。
茶屋の営業が成り立つほどに、浅間尾根と言うのは人気の登山コースなのでしょうか。その割に、今日はまだ一度も他のハイカーと遭遇しておりませんが。
時間が早すぎたので、この日はまだ営業を開始していませんでした。
ちなみに、営業時間は土日祝日の11時から15時の間だそうです。今日の私とは反対向きに、浅間尾根登山口側から歩いてくればちょうどよい時間帯かもしれません。
有難いことに水場があります。谷底から沢水をポンプでくみ上げているようです。キンキンに冷たくておいしい。
茶屋の正面は展望台となっており、北側の奥多摩主脈を一望できます。
これは先ほども見えていた湯久保山かな。御前山は真後ろに隠れてしまって、ここからでは見えません。
これは大岳山(1,266m)です。手前の馬頭刈尾根が邪魔をして、頭の先だけが見えています。
このぴょこんと飛び出した突起は、大岳山と御前山の間の鞍部にある鋸山(1,104m)です。
4.浅間嶺登山 登頂編 富士を望む好展望の浅間尾根の頂へ(しかし富士山は見えなかった)
峠を越えた後、いったん道は谷に向かって下ります。下りきったところが林道の終点です。
この場所には、かつてここに街道があった時代と同じ場所で営業していると言う蕎麦屋さん「そば処みちこ」が存在しました。建物自体はこの通り現存していますが、2018年の11月をもって営業は終了したとのことです。残念。
古道由来の登山道らしく、この付近には石畳の跡などもあります。
木漏れ日に照らされた新緑の若葉が実に美しい。
浅間嶺には一度、真冬に訪問を思い立ったこともありましたが、新緑シーズンまで持ち越して正解でした。冬枯れの中を歩いても、ちっとも楽しくなかったことでしょう。
分岐が現れました。まっすぐ進んでも左に行っても行き先は同じ浅間嶺で、尾根沿いに出るかトラバースするかの違いです。
ここは当然、左折して尾根沿いに向かいます。その方が景色も良いでしょうから。
尾根に乗りました。街道の代わりにされていたと言うのも納得の、幅広で歩きやすい尾根が続いています。
ゆったりとアップダウンを繰り返す尾根道を進みます。歩いていて気持ちの良い道です。
展望が開けて、今度こそ完全な姿の御前山が目の間に現れました。御前山は奥多摩三山の中でも眺望に乏しい地味な山ですが、傍から見た時の山容は一番立派なように思えます。
10時35分 浅間嶺に登頂しました。
厳密にいうと、この場所は見晴らし台と呼ばれている地点で、本当の山頂は西へもう少し進んだ場所にあります。
山頂(ではない)の様子
広々としており休憩向きな場所です。ベンチやテーブルも用意されています。
北側には先ほどからずっと見えている、御前山から大岳山を結ぶ奥多摩主脈の山並みが連なります。
南側には笹尾根が横たわります。笹尾根の先には富士山の姿も見えるはずなのですが、この日は霞んでいて全く見えませんでした。
関東甲信の各地でよく目にする浅間神社(せんげんじんじゃ)は、富士山を信仰の対象としている神社です。地名に浅間の名がついている場所と言うのは、富士山が見える場所であることが多いです。
5.静かなる浅間尾根の尾根道
10時50分 行動を再開します。
このまま尾根上を数馬分岐まで歩き、そこから浅間尾根登山口バス停へと下ります。
風張峠まで浅間尾根の全行程を歩き切り、その後数馬に下って温泉によると言うプランにも心を動かされていましたが、この日は午後から天気が崩れると言う予報であったため、スパッとショートバージョンにしました。
展望台から少し下ったたところに、これまた立派な休憩所がありました。
標高1,000メートル近い山の中にこれほど立派な休憩スペースを作るとは、流石は予算が潤沢な東京の山です。
トイレまでありました。まさに至れり尽くせりですな。なお、それなりに臭かったです。
先ほどまでとは変わって、展望皆無となってしまった尾根道を登り返します。
どうやら、ここが本当の浅間嶺の最高地点のようです。展望台の方を山頂だと言い張ってしまいたくなる気持ちが大変よく理解できるような、地味極まりない場所です。
下の方まで綺麗さっぱりと刈り払われています。どうせまた杉を植えるのでしょうけれど。お願いだからやめて。もうこれ以上花粉の発生源を増やさないで。(By花粉症患者)
見える風景についてはまあ、浅間嶺の見晴らし台から見えた光景とほとんど変わりません。
伐採地を過ぎると、杉の植林の魔の手から逃れた自然林が広がっていました。そうそう、こういう光景を待っていたんです。
11時15分 人里(へんぼり)峠を通過します。
人里と書いて「へんぼり」とはまた、不思議な響きの地名ですね。ここから下山することも出来ますが、もう少し先まで行きます。
登山道は尾根筋を忠実には辿らず、トラバースしながら続いています。街道だった時代にはどうしていたのでしょうか。
再び現れた杉の植林。本当によくもまあ、これだけ隙間なくビッチリと植えたものです。
日本の林業と言うのは、主に価格競争力の問題から今やほぼ壊滅状態ですが、檜原村の山林は比較的まだよく手入れがされている方だと思います。
尾根上に一本松と言う名のピークが存在しますが、登山道は山頂を通らずに南側を巻いています。せっかくなので、道を外れて頂上を踏んで行くことにします。
道なき道を適当に歩くうちに頂上が見て来ました。これはまたとびっきり地味な場所ですな。
11時50分 一本松に登頂しました。本当に何もない尾根上の一ピークです。
山頂の様子
周囲にあるのは杉の木だけで、山名の由来になったであろう松の木は見当たりませんでした。もう失われてしまっていたのかな。
登山道へ復帰して先へ進みます。相変わらず、尾根筋を微妙に外したトラバースです。
時より視界の開ける場所があります。向かいに見えている笹尾根との距離が徐々に近くなって来ました。あちらの尾根とは、最終的に三頭山の山頂で合流します。
サル岩なる大岩の前へとやって来ました。なんでもサルの手形のような模様があるのだとか。良く探せばわかるよとのことですが。。
すまん、よく探したけどさっぱりわからなかった。この何処かにサルの手形があるそうです。・・・分かりますでしょうか?
北西の展望もちょっとだけ開けて、三頭山(1,531m)の姿が見えました。浅間尾根の完全踏破を目指すのなら、ゴール地点はこの山頂です。
午後から崩れると言う天気予報の言う通り、徐々に雲行きが怪しくなり始めて来ました。
12時15分 数馬分岐に到着です。
浅間尾根はまだ続きますが、予定通り今日はここまでにして下山します。
6.浅間嶺登山 下山編 数馬分岐より浅間尾根登山口へと下山
緩やかな傾斜の登山道を下って行きます。急な箇所は無く歩き易い道です。浅間嶺が初心者向きコースだと言われている所以ですな。
農道を兼ねていると思われる道を下って行きます。実際に使用されている道だけあって、大変よく手入れがされています。
そしてヤマツツジ。スタート地点と同じくらいの標高まで下がってきたようです。
眼下に檜原街道が見えて来ました。檜原村最奥の集落である数馬と、外の世界とを結ぶ唯一の道です。
この道が土砂災害で寸断でもされた日には、それこそ浅間尾根上を歩いて行くくらいしか、外へ脱出する手段はありません。
最後の最後で舗装路の急坂です。こういう道は、ソール固めの登山靴を履いていると、地味に足の裏にダメージを与えて来ます。
坂の途中に、その名も浅間坂と言う名の民宿があります。お食事処や、日帰り入浴可能な風呂も併設されています。なお風呂の方は、温泉ではないただの風呂であるようです。
坂を下りきった地点を流れる南秋川を渡ったところでゴールです。現代の道である、檜原街道がある高さまで下ってきました。
ちょうど目の前を、空気を満載した数馬行きのバスが通り過ぎて行きました。あれが終点まで行って折り返した来たのが、帰路の私を運んでくれる便になるのでしょう。
12時55分 浅間尾根登山口バス停に到着しました。
なお、ここを通るバスの本数はかなり少なめなので、事前に時間を確認しておくことをオススメします。
待ち時間が1時間以上あるようだったら、数馬の湯まで歩いて行って立ち寄ることも考えていましたが、20分後に次の便が来るタイミングだったので、素直にここで待ちました。
まばゆいばかりの新緑があふれる浅間尾根の訪問は、こうして大満足の内に終わりました。富士展望は少々残念な状態ではありましたが、訪問の時期としてはベストなタイミングであったと思います。
奥多摩三山などと比べると、どこか地味な存在と見なされがちな浅間尾根でありましたが、手軽に歩けて思いのほか良いハイキングコースでありました。所々に眺望の開ける場所のある浅間尾根は、延々と樹林帯が続くと言う印象を受けがちな低山らしからぬ、開放感のある山だと言えます。払沢の滝の見物と合わせて歩けば、きっと満足度の高い山行きとなることでしょう。
古の街道ロマンが詰まった東京の山奥へと、繰り出してみてはいかがでしょうか。
<コースタイム>
払沢の滝入口BS(7:35)-払沢の滝(7:55~8:10)-時坂峠(9:10)-峠の茶屋(9:25)-浅間嶺(10:35~10:50)-人里峠(11:15)-一本松(11:50)-数馬分岐(12:15)-浅間尾根登山口BS(12:55)
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
コメント
のんのんびよりの舞台のようなのどかなところですね。
あ、でも東京なのか…
私も夏休みにでも訪れてみようかな
ニャーす様
コメントを頂きましてありがとうございます。
「のんのんびより」がわからなくてグーグル先生に聞いてしまいました。数馬分校での日常と言うのは、確かにこんな感じだったのかもしれませんね。
なお浅間嶺は標高1000メートルに満たない低山であるので、夏は灼熱地獄&ムシムシ大行進状態だと思います。春か秋の訪問がオススメです。