神奈川県相模原市と山北町にまたがる蛭ヶ岳(ひるがたけ)に登りました。
丹沢最高峰にして、同時に神奈川県の最高地点でもあります。首都圏を直接見下ろす位置にあるこの山は、山頂からの夜景が素晴らしいことで知られています。
今回は1泊2日の行程で、かの名高きユーシンブルーと、蛭ヶ岳山頂からの夜景とを同時に楽しもうと言う、大変贅沢な山行きをして来ました。
2017年12月29日に旅す。
登山と言う趣味を嗜む人であれば、誰しも我が心の名山をお持ちなのではないでしょうか。平たく言うと、一番好きな山のことです。
かく言う私の心の名山はと言うと、それは丹沢の蛭ヶ岳です。
もともと私は、丹沢エリアを我がホームグラウンドだと認識している丹沢フリークであるので、その最高峰たる蛭ヶ岳にも自然と並々ならぬ愛着を感じています。
奥まった場所にある山ゆえに、塔ノ岳のようには気軽にフラッと訪れることが叶いませんが、そういった近づきがたいところがまた、この山に対する憧れの念を強めてくれるのです。見えているのになかなか行けない山代表と言ったところでしょうか。
しかし、それだけ蛭ヶ岳好きを標榜しておきながら、お恥ずかしいことに私はまだ蛭ヶ岳山荘に一度も宿泊したことが無いのです。
前々から、蛭ヶ岳山頂からの夜景はとても素晴らしいと言う情報を耳にしており、是非一度見に行かねばならぬと考えておりました。そこで今回、2017年最後の登山として、蛭ヶ岳へ夜景を見に行くことを企画しました。
1.蛭ヶ岳登山 計画編
蛭ヶ岳への登山ルートは、それこそ無数に選択肢があります。その中でも一番オーソドックスと言えるのは、塔ノ岳から丹沢主脈を辿っていくルートです。大倉スタートで距離にしておよそ13km。コースタイムは6時間30分です。
結構な距離を歩くことになりますが、道はよく整備されており、道中の危険が最も少ないコースです。
コースタイム的に山頂まで最短なのは、道志村の平丸バス停から登るルートです。こちらからだと、5時間ほどで山頂に立てます。
問題点としては、スタート地点の平丸バス停のアクセスがあまりよくない事でしょうか。鉄道駅からの直通便は存在せず、三ケ木を経由してバスを乗り継ぐ必要があります。
無難なのは今あげた辺りのルートなのですが、しかしここはせっかく一泊するのですから、ありふれたコースではなく、日帰りでは歩けないルートにしてみたいと思うのが人情と言うものです。
そこで地図上で色々物色していたところ、ユーシン渓谷から丹沢主脈上の棚沢ノ頭に接続するルートが目に止まりました。
かつてはこのユーシン渓谷にあるユーシンロッジまで、宿泊者限定の送迎車が乗り入れていた時代がありました。
その当時のユーシンロッジは、蛭ヶ岳登山のベースとして大いに賑わっていたそうです。
しかしその後、玄倉林道のトンネル崩壊が原因でユーシンロッジは無期限の休業となりました。現在のユーシン渓谷は、徒歩でしか立ち入ることの出来ない、丹沢エリアでも指折りの奥地となっています。
今ではすっかりと寂れてしまった、かつての蛭ヶ岳登山メインルートを巡る行程。これは大いに興味をそそられるではありませんか。クラシックルート大好き系ハイカーの琴線に触れまくりです。
と言うことで、ルートは決まりました。
コース
玄倉(くろくら)バス停からユーシン渓谷を通って熊木沢出合へ。そこから尾根をつたって主脈上にある棚沢ノ頭へ登り、蛭ヶ岳山頂へ向かいます。距離にしておよそ18km。標準コースタイム6時間40分の行程です。
2.蛭ヶ岳登山 出発編 玄倉林道を通ってユーシン渓谷へ
7時10分 小田急線 新松田駅
もうすっかりお馴染みの、西丹沢の玄関口へ今日もやってきました。見たところ、空模様があまり芳しくありませんねえ。
こんな年の瀬に山登りする物好きなんてあまり居ないだろうと思っておりましたが、バス停には思いもよらぬ行列が出来ていました。
およそ1時間ほどをかけて丹沢湖畔の玄倉バス停に到着です。何時もなら完全爆睡するところですが、今日は終点まで行かないので、乗り過ごさないために仕方なくずっと起きていました。
バス停前に商店があります。水や食料はここで調達可能です。尤も、定休日がいつなのかわからないので、あまりアテには出来ないかもしれませんが。
トイレと身支度を済ませて、8時30分に行動開始です。玄倉林道に向かって、道なりに歩いていきます。
道路脇の藪中に、キジのつがいが居ました。人なれしているのか、近づいても逃げるそぶりを見せません。
派手なほうがオスで、地味なのがメスです。
ここからずっと、玄倉川沿いに遡っていきます。登山道への取り付き地点のある熊木沢出合までは、およそ10kmの道のりです。
早速、青みかかった水面が姿を見せました。これが世にも名高いユーシン・ブルーでしょうか。ブルーというよりはエメラルドグリーンですね。
ここ玄倉川は、かつて13人もの死者を出した水難事故の現場です。そのためか、このような危険を知らせる警告の看板を数多く見かけました。
9時5分 小川谷出合を通過します。ユーシン渓谷に向かうにはここを右です。左に進むと石棚山稜をへて檜洞丸へと通じています。そっちにも行ってみたいな。
ちなみに、奥に見えているのがその檜洞丸です。
ゲートが出現しました。かつてはここまで一般車の進入が可能でしたが、今では駐車スペースが封鎖されています。
車でお越しの人は、丹沢湖畔にある駐車スペースを使用しましょう。
林道には不相応な規模のロックシェッドがありました。道を維持するためにこれほどの大掛かりな構造物が必要なくらい、ここは地形の険しい場所なのでしょう。
落石によってガードレールが無残に破壊されていました。地形的に一目瞭然ですが、ユーシン渓谷は落石の巣です。
路盤もこのとおり荒れ気味です。いまや工事車両しか通行しない場所なので、これで十分なのかもしれませんが。
ミツマタの花がつぼみをつけていました。開花するのは3月下旬から4月の上旬頃にかけてです。
上流のダム放水を知らせるサイレンが、至る所に設置されていました。ちょっと過剰すぎませんか。例の事故を機に増設したのか。
玄倉林道には全部で九つのトンネルがあります。まずは一つ目、境隧道です。個人的にはトンネルと言う横文字より、隧道(ずいどう)という古めかしい言葉の方が好みです。
すぐに2つ目めの新青崩隧道が現れました。旧青崩隧道に崩落の兆候が現れたこと伴って急遽掘削された、比較的新しいトンネルです。いや隧道です。
この隧道は中で大きくカーブしており、内部には光が届きません。通行にはライト必須です。
内部に旧青崩隧道への分岐が残っていました。入り口は厳重に施錠されています。
金網越しに覗いたところ、入り口の光が僅かに見えました。崩落の恐れありとして通行止めにされた旧隧道ですが、平成29年現在ではまだ閉塞はしていません。
ユーシンロッジを休業に追い込んだ直接の原因は、この旧青崩隧道の通行止めです。新しい隧道が出来た後も、結局営業再開はしなかったようですが。。
出口が見えてきました。大した長さではないのですが、真っ暗闇の中を歩くのは緊張を強いられますな。
振り返ってみるとこのようになっております。この大きな崩落地が青崩れなのでしょう。トンネルを掘る以外の選択肢がなさそうな悪地形です。
続いて現れたのは石崩隧道です。青崩の次は石崩ですか。この辺りはあらゆるものが崩れまくりですね。
3.名高きユーシンブルーとご対面
10時20分 石崩隧道を抜けたところで、玄倉ダムの目の前に出ました。ユーシンブルーが最も色濃く現れると言われている場所です。
と言うことで、これがその名高きユーシンブルーです。確かに青い。
枯れ葉がたまっているのが、ビジュアル的に少々残念な感じです。
まるでブルーハワイのシロップみたいな色ですね。
青く見える理由には諸説ありますが、これといった定説はありません。それはつまり、理由は良くわからないということです。
とりあえず私は、誰かが上流で青い絵の具を流しているから説に1票を投じておきます。
玄倉ダムの上流にある玄倉第2発電所。ここよりさらに上流にある熊沢ダムで取水した水を使用して発電を行っている施設です。
ここにはコンクリートの吹き付けすらされていません。通行中に落盤が起こったらお陀仏ですね。
通行止めになっている廃登山道の入り口がありました。位置的に檜岳あたりに通じていたのでしょうか。
続いて雨山峠への登山口です。新青崩隧道が開通するまでの間は、寄から雨山峠を越えるのが、ユーシン渓谷に侵入する最短コースだったそうです。
さあどんどん進みますよ。ここまでで既に2時間以上も林道を歩き続けており、少々ダレて来ました。
ユーシンロッジへ向かう道との分岐地点です。全く用事は無いのですが、せっかくなので寄り道していく事にしました。分岐地点からロッジまでは、往復で10分程度です。
ユーシンの森は、かながわの美林50選に選ばれています。残りの49個がどこか気になる方は、こちらをご覧下さい。
11時15分 ユーシンロッジに到着しました。ひっそりとした森の中のにあって、とてもよい雰囲気の場所です。休業中なのが惜しまれます。
神奈川県ではユーシンロッジの利活用に関する事業者を募集していましたが、最近になって西丹沢安全登山協力会という団体が名乗りを上げました。近い将来、ここの運営が再開される日がやってくるのかもしれません。
可能ならば、キャンプ指定地も併設して欲しいです。需要は結構あると思うのですが。
避難小屋として建物の一部が開放されているので、しっかりと管理はされています。この通り中は至って綺麗で、廃屋化はしていません。
このミステリーサークルチックな模様は、一体なんなのでしょう。
左端に見えている建物はトイレです。冬場は凍結防止のため使用できません。
行動再開です。ここから熊木沢出会いまでは、まだひと道あります。
再びゲートがありました。この先は林道ですらなく、治山工事のための資材運搬路となります。
山奥とは思えないほど河原がとても広い。丹沢中心部に降り注いだ雨水を一手に引き受けるユーシン渓谷は、しばし鉄砲水に見舞われる場所でもあります。
ここで正面に雲を纏ったお蛭さんの姿が。すごい速さで雲が横に流れているので、取れるのでないかと期待してしばらく待機します。
10分ほど待ったところで、綺麗に晴れました。これからあそこまで登って行かねばならないわけですけれど、こうしてみると結構な高低差ですな。
分岐までやってきました。右側に進むと塔ノ岳に到達します。蛭ヶ岳へ向かうには、左に進み河原へ降ります。
12時 熊木沢出合に到着です。蛭ヶ岳の山頂からも見えている、河原状の場所です。
河原から見上げる臼ヶ岳(左)と蛭ヶ岳(右)。この辺りは、丹沢山地の中でも最も奥深い場所です。
沢を渡ります。橋の手前の土手が崩壊しているので、脚立をつかって橋によじ登ります。
一応ロープで固定はされています。それにしたって危なっかしいですけれど。
橋を渡ってすぐのところに登山口あります。ちょっと分かり難いので要注意です。橋の先に続く土手が、河原に向かって尽きる付近にあります。
4.蛭ヶ岳登山 登頂編 ユーシン渓谷から丹沢主脈への急登
12時40分 登山開始です。10km以上も歩いた後で、スタート時点から既に結構疲れております。
「自分で選んだコースなんだから文句言わない」と、自らを奮い立たせます。
登り始めからいきなりの、急登&踏跡不明瞭な道です。ちなみに、このルート上には道標の類は一切存在しません。
一応目印のようなものはあります。ですが、危なっかしいトラバースに誘導されたりするので、あまり目印に頼らずに、歩きやすいところを登った方がよいかもしれません。
上り始めて30分ほどで尾根に乗りました。これでひとまずは安心です。この先は基本的に、尾根筋に沿って登って行くだけです。
背後に鍋割山が見えました。今頃あそこでは、多くの人が鍋焼きうどんに舌鼓を打っていることでしょう。
眼下には熊沢ダムが見えます。玄倉ダムの明るいブルーに比べると、幾分色が濃いですね。
ここで、この日見かけた唯一の下山者とすれ違いました。こんなマイナーなルートでも、一応歩く人は居る事は居るんですね。
急勾配であるが故に、短時間で見る見る高度が上がってゆきます。熊沢ダムがもうあんなに小さく見えるようになりました。
反対側には蛭ヶ岳。ちょうど両者の中間を突っ切っている感じです。
ブナ林の広がる平坦な場所に出ました。ここが地図上で弁当沢ノ頭と記載されている場所のようです。山頂プレートの類は見当たりません。
それにしても、弁当沢とはなんとも不思議な名称です。ここで弁当を使えと言うことですかね。昼食は熊木沢出合いで済ませて来てしまいましたが。
丹沢主脈の稜線が見えてきました。まだまだ結構高い所にあります。もうすっかりバテてしまっているのですが。
この辺りは棘のある登山道です。うっかり素手で握りでもしたら、悲鳴を上げることになるので気をつけましょう。
稜線に近づくにつれて、周囲に背の高い木がなくなり、背後の展望が開けてきました。
稜線までもう一息。もう一分張りと言うことで、重くなってきた足取りに活をいれます。
蛭ヶ岳との高度差も、もうあまり感じられなくなりました。
そして、この光景がこの日に見た蛭ヶ岳の最後の姿となりました。この直後に、谷底からガスが舞い上がってきて、蛭ヶ岳の姿を隠してしまいました。
15時 棚沢ノ頭に到着しました。熊木沢出合から2時間20分かけて、ようやく主脈の上に乗りました。10km歩いた後の急登は、思いのほかキツかった。
登ってきた尾根を振り返る。かなりの急勾配であったことがおわかり頂けるでしょうか。
すっかりガスに覆われてしまった蛭ヶ岳。今日は夜景を見たくてここまで来たのに、勘弁してくださいよホント。
都心方向は今のところ雲に覆われ手はいません。夜までにガスが取れてくれることに期待するしかありません。
山頂へ向かいます。この先はもう何度も歩いたことのある、勝手知ったる縦走路です。
定番の蛭ヶ岳撮影スポットである鬼ヶ岩も、この通り真っ白でとても残念な状態でした。
鬼ヶ岩の直下は、丹沢主脈コースでは唯一の危険地帯と言えなくも無い岩場です。表尾根の行者ヶ岳の鎖場と比べれば、全然簡単です。
15時45分 蛭ヶ岳に登頂しました。誰かの忘れ物と思しき自撮棒が、標識上に放置されていました。
ここは丹沢の中でも随一の好展望地ですが、この通り周囲は完全に真っ白です。突っ立っていても寒いだけなので、足早に小屋の中に逃げ込みました。
宿泊の受付を済ませます。上部にあるモニタで、山荘利用のガイダンス映像が流されます。。
2段ベットの上段を割り当てられました。両隣を気にしなくて済むので、よい場所を占められたといえるでしょう。
食事は17時からということなので、外へ夕日を見に行きました。佇んでいるのは、富士山の出待ちをしている方々。
ほんの一瞬だけ、ガスの切れ目から富士山の頭が見えました。歓声とシャッター音が一斉に鳴り響きます。
寒くてしょうがないので、私はこの一枚で満足して小屋の中に引き上げました。
そして小屋の中に戻った途端に、先ほどよりも断然よく見えていたりすると言う。これは小屋の窓から撮影しました。
やはり良い画を撮るためには、じっくりとチャンスを待つ忍耐力が必要不可欠ですね。
晩御飯はレトルトのおでんです。ご飯と副食物はおかわり自由です。
食事に関して言えば、スキヤキが出ると言う丹沢山のみやま山荘に大きく遅れをとっておりますな。しかしながら、蛭ヶ岳山荘にはメシのことなどどうでもよくなるような、当代随一の夜景があります。
と言うことで、ストーブの前でぬくぬくしながら、ガスが取れるの待ちます。
19時頃から、山荘のご主人がパワーポイントで作ったと言う、丹沢の四季の模様を写したスライドショーが上映されます。ご主人曰く、夏の蛭ヶ岳は穴場だそうです。冷房も要らないくらい涼しいので、是非来てみて欲しいとの事でした。
5.蛭ヶ岳山頂から夜景を心ゆくまで堪能する
ガスもすっかり晴れたようなので、張り切って夜景を撮りに外へ出ます。今日は気合を入れて三脚を背負って来ました。
普段はこんな重たいものを持ち歩いてはいません。初の試みです。
これが蛭ヶ岳山頂から見た7千円の夜景です。これは確かに凄い。
※蛭ヶ岳山荘の1泊2食付きの料金が7千円。
アップで見ると、東京タワーやスカイツリーのシルエットまで認識できます。
最後に、月明かりに薄っすらと照らされた富士山の姿で締めくくります。
この日の山頂の気温はマイナス4度でした。夜景を見に行かれる方は、防寒対策だけはしっかりとして行きましょう。
ユーシンブルーに夜景と、色々詰め込みすぎて長くなってしまったので、ここで一旦切ります。
ユーシンからの蛭ヶ岳に至るコースは、あまり整備はされていないようでしたが、特に荒れていると言うこともなく、安全に通行が可能な状態でした。
ユーシンロッジが再開しさえすれば、蛭ヶ岳登山のメインルートに返り咲くチャンスは十分にあるのではないかと思います。
(その前に、あの脚立を何とかしないといけないでしょうけれど)
このコースを日帰りで往復するのは相当厳しいものがあるので、素直に1泊して歩くのがベストでしょう。秘境感溢れるの渓谷歩きと、丹沢最高峰からの好展望とを同時に楽しめる、とても贅沢な山行きとなることでしょう。
丹沢の奥地には、まだまだ歩いたことの無いルートがそれこそ無数に存在します。丹沢フリークの楽しみは、この先も当分尽きることはなさそうです。
<コースタイム>
玄倉BS(8:30)-小川谷出合(9:05)-林道入口ゲート(9:20)-玄倉ダム(10:20)-ユーシンロッジ(11:15~11:25)-熊木沢出合(12:00~12:40)-棚沢ノ頭(15:00)-蛭ヶ岳(15:45)
二日目、下山編に続く
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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