西丹沢の大室山(おおむろやま)から畦ヶ丸(あぜがまる)に至る尾根道を歩きました。
西丹沢の奥地に静かに佇む、深いブナ林に覆われた深山です。大室山は丹沢山塊の中でも一際目を引く大きな山体を持った堂々とした山ですが、展望にまったく恵まれない上にアクセスにも難があるため、登山の対象としてはあまり顧みられる事の無い極めてマイナーな山です。
展望の期待薄な山だと言うことなので、天気予報があまり芳しくなかった捨て日にあえて訪れました。果たして梅雨時の西丹沢は、どんな表情を見せてくれたのでしょうか。
2016年6月11日に旅す。
タイムアタック登山にはコリゴリだったはずなのに。
今回は西丹沢自然教室を起点にして、大室山から畦ヶ丸へ西丹沢エリアをぐるっと回りこむように巡る周遊コースを歩いて来ました。
もともとからしてマイナーなエリアである西丹沢の中でも奥まった位置にある一帯であり、普段から歩く人はあまりいない静かなる山並みです。
基点となる西丹沢自然教室を発着するバスは本数があまり多くはなく、このルートを巡るには必然的にタイムアタック登山になる事が避けられません。
私がタイムアタック登山と称しているのは、標準コースタイム以下のペースで歩かないと、帰りの電車やバスがなくなってしまう登山計画のことを指します。
これをやる度に「時間に急かされてちっとも楽しくないし、次からはもっと余裕のあるプラニングにしよう!」と思うのに、熱さがのど元を過ぎると何故かまた懲りもせずにタイムアタック計画を立ててしまう自分がいます。
そう、私は生来せっかちなのです。
と言う訳で(?)、今回のせっかちな計画がこちらです。
西丹沢自然教室より犬超路を経て大室山へ。そこから加入道山、畦ヶ丸を経て西丹沢自然教室へ戻ります。標準コースタイムはおよそ10時間ほどです。
始発のバスが西丹沢自然教室に到着するのが8時半で、帰りのバスが西丹沢自然教室を発つのは17時5分です。標準コースタイムより1時間半ほど巻く必要があります。
1.マイナスイオンが溢れる涼し気な沢沿いを歩む、犬越路への道程
8時50分
電車とバスを乗り継ぎ、遠路はるばる西丹沢自然教室へとやって来ました。ここはツツジシーズンの最盛期にはそれなりに賑わう場所ではありますが、それを過ぎた後は至って静かなものです。
ああちなみに、ちょっとしたアクシデント(単に寝過ごした)があったため、始発バスに乗りそこない2本目のバスで来ました。ただでさえタイトな計画なのに、スタート前からすでに計画に遅延が生じております。
本日の登山は厳しい戦いになりそうです。
出発前に、帰りのバス時刻をチェックしておきます。
実のところ17時5分のバスの後にもう一本、18時58分のバスがあるんですよね。初めからこれを狙えばタイムアタックなんかする必要は無いのですけれど、しかし私はせっかちなのです。
昭文社の山と高原地図は登山愛好家の間では定番中の定番ともいえる地図です。この地図にはルートごとの標準コースタイムと呼ばれるものが記載されており、山行き計画を立てる上での非常に重要な指標となっています。
ところでこのコースタイム、地図の山域によって中の人(執筆者)が違うためか、精度には結構バラつきあります。
例えばNO23の奥多摩エリア。この地図のコースタイム設定は割とタイトで、コースタイムを巻こうと思うならかなり気張って歩く必要がありします。
NO31の富士山は逆にかなり甘めの設定で、特に急いでいなくてもコースタイム以下で歩けてしまったりします。まあ、富士山は老若男女が数多くの訪れるエリアだけに、敢えて甘めにしてるのかも知れませんが。
それで、今回歩く丹沢エリアはどうかと言うと・・・あくまで私の個人的感覚ですが、特別甘くも厳しくも無いと言う印象です。中の人の歩行ペースが自分と大体同じくらいなのかもしれません。
普通に歩いていたのではコースタイムを1時間半も巻くことは出来ないので、今日は初めから小走り気味に行く必要があると言うことです。
登山開始です。まずは舗装道路を進みます。正面奥に見えている大柄な山が、本日最初の目的地である大室山です。
ツツジ新道の入り口まで来ました。西丹沢エリアの山の中では最も多く登られているであろう、檜洞丸へお越しの場合はここが入り口です。今日はここを素通りして犬越路方向へ向かいます。
たわわに実った木苺。収穫したいけれど、高いところにあって手が届きません。
用木沢出合より登山道に入ります。ここから犬超路までの道は東海自然歩道にも指定されています。
立派な橋が架かっております。用木沢公園橋というそのまんまな名前です。
沢沿いの道を進みます。西丹沢エリアの沢は何処も非常に綺麗です。青みかかって見えるのは川底の砂の影響なのかな。
マイナスイオンが溢れ出しすぎて飽和状態になっていそうな光景です。そして、それにじっくりと浸るわけでもなく、足早に駆け上がっていく一人のせっかちなおっさん。
道が沢と分かれたところで、犬超路に向かって急登が始まります。
10時25分 犬越路に到着しました。用木沢出合からのコースタイムを25分ほど巻けた計算です。結構頑張りました。
2.西丹沢の奥地に大柄な山容を静か横たえる大室山
天気予報では曇り時々雨となっていましたが、見事な梅雨晴れの青空が広がっていました。
画面下にちょこっと写り込んでいるのは犬越路避難小屋です。大室山への登山道はこの小屋の裏手にあります。
犬越路より丹沢最高峰の蛭ヶ岳(1,673m)の頭だけが僅かに見えました。
少し登ると、今度は富士山が見えてきました。図体の大きな大室山は、八王子付近から見た時にちょうど富士展望を妨害する位置にあり、富士隠しの異名を持っています。
深い森の中を進んで行きます。一面が笹に覆われていて、大きな木はあまり生えていない東丹沢とは大分趣が異なります。
木の隙間から大室山の頭頂部だと思われる部分が見えてきました。圧倒的に森が濃いため、コース上に大室山の山容全体を俯瞰できるようなスポットは存在しません。
いいですねえ、この雰囲気。大室山のベストシーズンは、間違いなく新緑の季節だと思います。
そして何より、人が全く居ないのが良いです。
背後に犬越路を挟んだ大室山のお隣さん、檜洞丸(1,601m)の姿が見えます。西丹沢エリアの盟主とでも言うべき山です。
檜洞丸から犬越路に至る稜線は、鎖場や痩せ尾根歩きのある、なかんかアスレチックな変化に富んだルートです。展望も良く歩いていて楽しいので、とてもオススメです。
山頂直下まで来ると、道の傾斜が大きくなり視界が開けました。中腹辺りに筋雲をまとった富士山。
大室山は山頂からの展望にはまったく恵まれていない山ですが、道中にはこうして所々に視界の開ける場所があります。
西丹沢エリアの全容が視界に入ってきました。比較的市街地に近い東丹沢とは違い、非常に山深い場所にあることがお判り頂けるかと思います。
本日の最終目的地である畦ヶ丸(1,293m)。こちらも展望を全く期待できそうに無い、緑々しい見た目をしております。
12時 大室山に登頂しました。ここまで、いかにも西丹沢らしい美しいブナ森の光景を大いに楽しめました。地味であると評されがちですが、私は好きですよ西丹沢。
犬越路からの所要時間は1時間35分でした。コースタイムを15分巻いたことになりますが、これは正直イマイチな結果です。ここでもうすこし巻きたかったところ。
毎度お馴染み山梨百名山の標識もありました。丹沢と言えば神奈川県の山だと思うかもしれませんが、大室山はちょうど神奈川と山梨の県境上に位置しています。
山頂の様子
前評判通り展望は全くありません。森の中に三角点だけがポツンとありました。
休憩している時間は無いので、立ったまま握り飯を頬張り直ぐに出発します。山頂の滞在時間は、せいぜい1~2分と言ったところでした。
我ながら、一体何をそんなに急いでいたのだか・・・
3.緩やかにアップダウンを繰り返す、加入道山への道程
お隣の加入道山(かにゅうどうやま)に向かって縦走を開始します。
足元に咲いていた黄色い花。タンポポなのかと思っていましたが、改めて見ると全然違いました。
尾根道から見た北側の展望です。谷を挟んだ向かいにあるのは道志山塊の山々です。
登山の対象としては殆ど名の知れていない一帯です。今居る大室山も結構なマイナーな山ですが、道志山塊のマイナー度はそれを更に上回ります。
こちらは南側、西丹沢の展望です。見渡す限りの緑一色の世界が広がっていました。
この光景を眺めたとき「緑の地獄」と言う言葉が自然と脳裏に過ぎりました。道を外れて迷子になったが最後、永久に脱出できなさそうな感じのする深い森が広がっています。
コバイケイソウの群生地には、土壌保護のための木道がしっかりと整備されていました。マイナーエリアとはいいつつも、やはり丹沢は丹沢か。
木道脇に立つブナの巨木の樹相が実に美しい。紅葉の頃に訪れてみるの良いかもしれません。
これから歩く加入道山から畦ヶ丸に至る稜線です。それほど激しい登り返しはなさそうで、とても歩きやすそうな尾根道のように見えます。
破風口なる物々しい名前のついた鞍部を通過します。ここからは前大室に向かって登り返しです。
名前からして風の通り道なのでしょうか。鬱蒼とした樹林に覆われており、そよ風ひとつすら感じられませんでしたが。。
12時55分 前大室を通過します。特にこれと言った何かがあるわけでもない、加入道山の手前にある小ピークです。
前大室から振り返って見た大室山です。でっかい山なのがなんとなくお判りいただけるかと。
さあ、時間が無いのでどんどん行きますよ。前大室から加入道山までは10分少々の道のりです。
13時5分 加入道山に登頂です。
かなり気張って歩いていたためか、前大室からここへ至る道中の写真は一枚も残っておりませんでした。
看板に書かれた「道志の湯」が非常に気になります。とても行ってみたいのだけれど、道志村は公共交通の一大不毛地帯であり、こっちに下山してしまうと、そこから帰る手段が存在しません。
平日のみ運行のバスが1日2便だけあるみたいですけど、道志村というのは車が無ければ生きていけない場所です。
山頂の様子
大室山と同様に、深い森に覆われており展望は全くありません。
丹沢名物の机みたいなベンチが一つあります。これがあるという事はここもヤマビルが出るってことですね。西丹沢にはほとんど出没しないと言う話も耳にしますが。
山頂直下には避難小屋があります。加入道山避難小屋です。中はチェックしませんでしたが、犬超路にあっとのと同じくらいの大きさに見えました。
4.展望の無い尾根道を足早に駆け抜けて、畦ヶ丸を目指す
13時20分 白石峠を通過します。用木沢出合へ下るルートとの分岐があります。ここを過ぎると、もう途中でエスケープできるルートは存在しません。
この先は比較的平坦な道になるので、駆け足で行きます。
白石峠より望む蛭ヶ岳(左)と檜洞丸(右)のツーショットです。地味で静かな大室山とは異なり、今頃は多くの登山者で賑わっていることでしょう。
白石峠より望む大室山です。ここでもやはり、全容は良く見えません。大室山そのものの姿をじっくり眺めたい人は、蛭ヶ岳に登りましょう。
さあ、駆け足でどんどん進みますよ。13時30分に水晶沢ノ頭を通過しました。特に何があるわけでもない小ピークです。
ベンチがすっかり苔生していました。腰掛けて休息する旅人の殆ど居ない、人影が疎らな一帯に足を踏み入れたようです。
尾根が痩せて切れ落ちている場所も時折ありますが、基本的に道幅の広い平坦な道が続きます。トレラン向きな道かもしれません。
14時10分 バン木ノ頭を通過します。走り抜けたので、どんな場所だったか覚えていません。
14時30分 続いて今度はモロクボ沢ノ頭を通過します。さきほどから頭と名の付く山ばかりコースです。それだけ多くの沢がある、水が豊富な場所なのでしょう。
ここから畦ヶ丸山頂までは、砂礫の道で非常に歩きにくかったと記憶しています。息を切らせながら一気に駆け上がったので写真が残っておりません。
こちらは畦ヶ丸避難小屋。この日目にした3個目の避難小屋です。
一日で回れる範囲内にこれほど沢山の避難小屋を建てるとは、よほど予算が潤沢なのでしょう。流石は900万パワーの神奈川県です。
14時25分 畦ヶ丸に登頂しました。白石峠からずっと走りっぱなしで、流石に疲れ果てました。
セルフタイマーをセットする間すら惜しんで、右手を伸ばしての自撮り記念撮影をしました。息も絶え絶えで、実に締まりのない呆けた表情をしておりますな。もともと締まりの無い顔とか言うな!
山頂の様子
登山道の補修工事完成を記念する碑が立っています。展望は全くありません。
ウィダーinゼリーでエネルギー補充を済ませ、そのまま下山を開始します。
5.滝見物は割愛し、17時のバスに辛くも滑り込む
山頂直下の尾根道を一気に駆け下りて、15時20分に善六ノタワを通過しました。ここはかつて、滑落死亡事故の発生している場所です。慎重に通り抜けます。
この時点で、ようやくコースタイムを巻かなくてもバスに間に合う状態になりました。安堵して少しペースを落としました。
急坂を下りきったところで、沢と合流しました。この先は気持ちの良い沢沿いの道です。
道中に下棚と言う有名な滝があります。しかし、残念ながら見に行けるほどの時間の余裕はありません。ここは割愛します。
沢が増水している台風直後に訪れたれたのですが、おかげで思いがけずに幻の滝の姿を拝むことが出来ました。
吊橋を渡ったらゴールです。結局、バス発車時刻の25分前に到着できました。もう少し急げば下棚を見にいけたかも?
緑深き西丹沢の奥地を巡るタイムアタック登山は、こうして無事に終了しました。ひたすら地味な山でしたが、それゆえに原始性の高い深山の趣を存分存分に楽しむことが出来ました。もう少しゆっくり巡れたらもっと良かったのですがね。
タイムアタック登山と言うのは、何か一つでもアクシデントに見舞われた時点で、すべての計画が破綻してしまう危険性を孕んだ物です。このような忙しない登山計画は、安全性という観点からしても全くもってお勧めはしません。時計を気にしながら、景色もろくに眺めずに山中を駆け抜けるなどと言うのは、阿呆の所業です。登山は速さを競うスポーツでは無いのですから。
日常の喧騒から離れ、雄大な自然に囲まれのんびりと時間を過ごす。登山とは本来はそうあるべきものです。今後はそういう登山していきたいと思います。
・・・などと偉そうなことを言っておきながら、時間がたつとまたタイムアタックしたくなるんだろうな。。。
<コースタイム>
西丹沢自然教室(8:50)-用木沢出合(9:20)-犬越路(10:25)-大室山(12:00)-前大室(12:55)-加入道山(13:05)-白石峠(13:20)-水晶沢ノ頭(13:30)-バン木ノ頭(14:10)-モロクボ沢ノ頭(14:30)-畦ヶ丸(14:45)-善六ノタワ(15:20)-西丹沢自然教室(16:45)
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
コメント
オオツキ様
大室山は眺望が良くないと聞いていましたので中々足が向きませんでしたが、丹沢と箱根の山はほとんど登りつくしたので昨年の春に行ってきました。
6年前の登山なのでもう記憶が無いかも知れませんが「緑の地獄」というのがピッタリ当てはまっており、とってもセンスの良いフレーズだと思います。
一緒に登っていた友人にこのフレーズを使ったところ、「良い言葉を使うね!」と言われたのでオオツキさのパクリだと自白しました。
もうもうさま
コメントをありがとうございます。
確かに「緑の地獄」と言うフレーズを使っている人は、自分以外では見たことがないかもしれません。
夏の西丹沢の他に、奥多摩の戸倉三山に登った時も同様の感想を抱いた記憶があります。アップダウンの多い、何処までも緑一色な山中をひたすら歩き続ける地獄のようなルートです。大室山がお気に召したのであらば、きっと気に入ると思います!