白毛門 谷川岳の向かいにそびえる、馬蹄形縦走路の門番

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群馬県みなかみ町にある白毛門(しらがもん)に登りました。
上越国境にそびえる谷川岳と、谷を挟んで正対する位置に立つ山です。谷川岳連峰馬蹄形縦走路の最初の一座でもあり、このルート歩こうとする者の前に、文字通り門となって立ちはだかる急峻な山です。
あわよくば、白毛門からさらに奥にある朝日岳までのピストンを目標とした訪問でしたが、そこに待ち受けていたのは想像を上回る酷暑の世界でした。

2020年6月27日に旅す。

白毛門は谷川岳の真向かいに立つ山です。谷川連峰の稜線は、湯檜曽川が刻んだ谷をぐるりと取り囲むようにして馬蹄形に連なっており、白毛門から谷川岳までは稜線で繋がっています。
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この谷川連峰馬蹄形縦走路と呼ばれるコースは、標準コースタイムが17時間にも及ぶ非常にタフなルートです。途中の清水峠か、もしくは蓬ヒュッテで一泊して歩くのが一般的です。

真夜中に土合を出発して日帰りで歩く豪脚のハイカーも、世の中には存在するようですが。。

かく言う私も、日帰りはまあ無理だとして、一泊二日の行程でこのルートを歩いてみたいと前々から考えていました。そこで今回、下見を兼ねたプレ登山として、朝日岳までを日帰りで往復する計画を立てました。
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ところがまあ、6月下旬の上越国境地帯いの山と言うのは、想像以上の酷暑の世界でありました。途中で飲み水が尽きてしまい、朝日岳までは届かず白毛門止まりで引き返しました。

そんな訳で不完全燃焼感の漂う山行きではありましたが、白毛門自体は大変すばらしい山でした。谷川連峰の大パノラマを目の前に望む、上越国境への訪問記をお送りします。
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コース
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土合橋から白毛門を往復します。本当はその先の朝日岳まで足を延ばすはずでしたが、前述の通り途中リタイアしました。

なお朝日岳まで行こうとした場合は、標準コースタイムをいくらか巻いていかないと、帰りの最終電車に間に合わなくなります。

1.白毛門登山 アプローチ編 大混雑する晴天予報の谷川岳

6時26分 JR東京駅
上越国境地帯への日帰り登山を可能としてくれる魔法の乗り物、上越新幹線で上毛高原駅を目指します。
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谷川連峰の山々にこれ程手軽に訪れることが出来るのは、すべて田中角栄先生の地元への露骨な利益誘導お力による賜物です。

7時52分 上毛高原駅に到着しました。電車内からあふれ出してきた、ハイカー達の数に面くらいました。どれだけ人気なんですか谷川岳は。
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過去の経験から、私には一つの予感めいたものがありました。「関越交通バスは臨時便を出さない」という予感が。
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という事で、トイレにも立ち寄らず小走りにバス停の列に並びました。

案の定、現れたバスは1台だけでした。早々と並んでおいて正解でした。白毛門から朝日岳まで足を延ばそうとした場合、コースタイム的にまったく余裕がないため、この始発便を乗り逃したらその時点で終了です。
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恐らくは臨時便を出さないのではなく、出せないのでしょうね。地方のバス会社はどこも赤字ギリギリか、もしくはすでに赤字で補助金の注入を受けて運行しているような状態でしょうから。

いつの間にかパスモ・スイカに対応していました。これは大変ありがたい。・・・臨時便が出てくれるとなお良いのですけれどね。
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途中の水上駅にも行列が出来ていましたが、既に満員という事で全員が置き去りとなりました。これは完全に需要を見誤りましたね。

8時46分 土合橋バス停に到着しました。終点の一つ手前のバス停になります。車内が過密すぎて降りるのにも一苦労しました。
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これでは三密回避どころの話ではありませんな。会話は控えろと言われてるのに、ベちゃべちゃと延々しゃべり続ける団体連れもいますし。

2.急登に次ぐ急登が延々と続く松木沢ノ頭への道のり

土合橋の脇には、かなり大きめの駐車場が存在します。白毛門への登山口があるのは、駐車場の一番奥です。
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谷川岳の主稜線の上には、濃厚な雲が垂れ込めてしました。日本の中央分水嶺であり、太平洋側と日本海側の大気がせめぎ合うここ上越国境は、非常に天気の気難しい山域です。
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この稜線上だけが雲に覆われている光景は、ある意味いつもの谷川岳の姿である言えます。

白毛門の登山口までやって来ました。登山届の投函ポストがあるので提出して行きましょう。用紙も筆記用具も備え付けられています。
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馬蹄形縦走路の案内が掲げられていました、そのうち歩いてやろうと思っているコースです。私の体力では日帰りは到底不可能なので、行くとしたら清水峠の避難小屋に一泊かな。
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白毛門までなら3.1kmで、朝日岳まで足を延ばすとなると片道6.5kmにもなります。この時点ではまだ朝日岳まで行く気満々であったので、往復13kmという数字を目にして気が引き締まりました。
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9時5分 橋を渡り登山開始です。手すりが変形しているのは、雪の重みに屈した形跡でしょうな。
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この沢はその名も白毛門沢と言う名です。雪解けの頃にはそれなりに水量の多い沢のようですが、この時期ともなると至って穏やかな流れです。
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登り始めは至って穏やかな道です。ですがご安心(?)ください。始めだけですから。地図を見ると良くわかりますが、この先にはエグイ密度の等高線が、山頂まで並んでいます。
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木漏れ日を浴びた若葉が光り輝いていました。圧倒的なまでに緑色の空間です。
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胸を突くような急坂が始まりました。この後は山頂に到達するまで、急登が緩むことはありません。
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標高が少し上がったところで、周囲はシャクナゲの藪になりました。シーズンには少しばかり遅かったようで、既に花は残っていません。
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表土を覆いつくすかのように、木の根が張り出した道です。歩きにくくてかないません。
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谷向に谷川岳ロープウェイが見えました。バスにぎゅうぎゅうに詰め込まれていた登山者たちの多くが、今頃はロープウェイの順番待ちをしていることでしょう。
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大人気の谷川岳ではなく、マイナーな白毛門の方を行き先に選んだのは、我ながらさえた判断だったように思えます。

天神平がまだ現在地よりも高い位置に見えます。私はこれから、あの高さをずっと超えていかなければならないのです。
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終わりかけのヤマツツジがポツポツと花を咲かせていました。彩と言えるのはツツジ位なもので、後は圧倒的な緑の空間です。
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割とあっさり、標高1,000メートル地点に到達しました。スタート地点の土合橋の標高が既に700メートルほどあるため、まだまだ序の口に過ぎません。
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木の根に支配された登山道がなおも続く。しかもピストンの予定であるため、下山時にはこの歩きにくい道を下らなければならない訳です。今から気が重いですな。
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向かいに谷川岳の姿が見えました。山頂部には相変わらず雲を被ったままです。マチガ沢にはまだまだ雪渓がたっぷりと残っておりますな。
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雪の重みに負けた木が横向きに伸びている、豪雪地帯の山特有の光景が目立ち始めました。
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岩場もちょくちょく現れます。今の所は、特に危険を感じるような要素もありません。
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10時10分 1,200メートル地点まで登って来ました。ここまでは至って順調なペースでありました。しかし、本当の苦難の始まりはここからでした。
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1,200メートル地点を過ぎると、頭上が開けて周囲が良く見えるようになりました。眺めが良いこと自体は歓迎すべきことですが、頭上を覆う木が無くなったことにより、直射日光が容赦なく照りつけて来ます。
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ありえないくらい暑いんですけどー。見る見るうちに体内の水分が失われて行きます。6月下旬の上越国境の山と言うのは、思っていた以上に過酷な環境でありました。
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再び岩場です。大きな一枚岩をよじ登る必要のあるクサリ場となっています。
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背後の眺望が一気に開けました。はるか眼下には土合駅の姿が見えます。脇目も振れずに一直線に尾根を登って来たのが良くわかる光景です。
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いつの間にか天神平の高さも超えていました。
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谷川岳は相変わらず雲の中です。今山頂にいる人たちには、ご愁傷様としか言いようがありません。
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反対側にある大きなすそ野を広げたこの山は、上州武尊山(2,158m)です。冬にしか登ったことが無いので、グリーンシーズンにも訪問してみたい気もしますが、基本的に車の無いヤツはお断りな山なんですよね。
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周囲の灌木の背が低くなってきました。森林限界が近い。
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そして暑い。暑すぎる。あまりの暑さにすっかりバテてしまい、徐々に足が前に出なくなってきました。

ここで不意に、白毛門の山頂部が目の前に姿を見えました。まだまだ結構登るんですね・・・・
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11時10分 松木沢ノ頭に到着しました。白毛門の手間に立つ前衛峰です。この時点ですでに、標準コースタイムを巻くどころか、遅延を来しつつあります。
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これは朝日岳まで行くのはムリなのかなと言う思いが、徐々に頭をよぎりはじめました。

山頂標識は抜けてしまっており、無残にも岩の上に横たわっていました。
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お隣の谷川岳の方はと言うと、いつも間にか山頂の雲が切れていました。このタイミングで山頂に到達できた人はツイていたという事です。
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3.白毛門登山 登頂編 急登の果てに待つ好展望と、朝日岳への思いが募る頂

11時20分 休憩して多少はクールダウンできたところで、行動を再開します。相変わらず直射日光に燻されているので、またすぐにオーバーヒートしそうではありますが。
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山頂の下にあるこの特長的な二つの岩は、ジジ岩とババ岩と呼ばれています。老夫婦が仲良く門を守っていると言うわけですな。
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急登はなおも続く。再び暑さにやられて、目に見えてペースが鈍って来ました。この時点で既に、朝日岳は諦める方向で決心が固まりつつありました。
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いつの間にか、ジッジとバッバがすぐ隣にいました。
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足元に咲いていたこの可憐な花はタテヤマリンドウです。小さい花なので気が付きにくいかも。
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これはキジムシロかな。バラ科に属する花です。黄色い花は全般的に識別が難しい。
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これはアカモノです。山頂付近にかなり大きなコロニーを形成していました。
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完全に雲が取れた谷川岳が、隣に屹立していました。白毛門は間違いなく最高の谷川岳の展望台です。
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この断崖絶壁が、かつて多くのクライマー達の命を奪い、谷川岳が魔の山と呼ばれる理由ともなった一ノ倉沢です。こんなところを、良く登ろうって気になりますねえ。
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ジッジとバッバの後頭部。
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ようやく山頂を視界に捉えました。最早すっかりバテバテです。暑い、暑すぎる。
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ここで初めて、朝日岳へと続く稜線が姿を見せました。これまた素敵な稜線ではありませんか。諦めかけていたのに、この光景を見てしまったら、行きたいと言う思いがむくむくともたげて来ましたよ。
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なお、山頂直下はちょっとした岩場となっています。
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割と足元が際どい場所もあるので、ここはゆっくり慎重に行きましょう。
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岩場を越えたら、あとは山頂に向かってウィニングランを決めるだけです。・・・とっくの昔に走る気力など根こそぎ奪われてしまっておりますがね。
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12時25分 白毛門に登頂しました。思った以上に厳しい行程でありました。森林限界高度が低いと言うのは、それだけ直射日光に晒される時間が長くなるという事でもあるわけです。
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山頂の様子
横に長い回廊状の頂上部です。そこそこの広さがありますが日陰は一切ありません。勘弁してください・・・
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4.白毛門山頂からの展望

周囲を遮るものの無い白毛門尾山頂からは、全方位の眺望が開けます。
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まずは東側の尾瀬方面です。右手前の山が至仏山(2,228m)で、左奥にあるのが燧ヶ岳(2,356m)です。
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その隣には、先ほども見えていた上州武尊山です。こうして見ると、本当に大きい山ですね。
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南側にはスタート地点の土合と、湯檜曽川の刻んだ大峡谷が広がります。
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望遠を覗くと、土合駅の駅舎までクッキリと視認できました。ちなみに、この後の下山はあの駅まで歩きます。
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西にはドッシリト構えた谷川岳の姿がありました。名峰の貫禄十分な堂々たる姿です。
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そして、ぐるりと回り込むようにして連なる馬蹄形縦走路の稜線です。秋の紅葉シーズンに、是非とも歩いてみたいな。
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そして北には朝日岳。見れば見るほど歩いてみたくなる魅惑的な稜線が続いています。
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この先へ進みたいと言う思いにかなり心が揺れ動きましたが、水の残量が既に1Lを切ってしまっている現状を鑑みるに、さらなる前進は完全なる自殺行為だと言えます。

まさか3.5Lあっても足りないとは・・・ぐぎぎぎ。

5.白毛門登山 下山編 急登の山の下山はあっという間

13時5分 かなり未練タラタラではありましたが、下山に移ります。この時間であれば、土合駅15時37分発の電車に間に合いそうなので、少しばかり急ぎ足で下山します。
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一直線に登って来た山は、当然ながら下りも一直線です。谷底に向かって真っすぐ降下していきます。
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天神平が真正面に見えました。当然ながら、登っている時には全く気が付かなかった光景です。
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13時40分 松木沢ノ頭まで下って来ました。倒れていた標識を、誰かが立て直していました。なるほど、その窪みにはまっていたのね。
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急な下りはなおも続く。「こんなに登ったっけか?」などとすっとぼけつつ下ります。
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森の中に入ったらあとはもう消化試合です。黙々と下山と言う作業をこなしていきます。
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登山口の橋まで戻って来ました。とりあえず大急ぎで、汗まみれの顔と言うか頭全体をザブザブと洗いました。
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15時20分 土合橋バス停まで戻って来ました。帰りはバスではなく電車を利用するので、ここから土合駅までさらに下ります。
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電車の時間が近づいて来ました。最後の方は小走りになりつつ駅へと急ぎます。
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15時30分 なんとか時間前に土合駅に辿り着くことが出来ました。
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土合駅と言えば、地下深くの清水トンネル内にホームがあるモグラ駅として有名です。ただし地下にホームがあるのは下り線だけで、水上方面行きの上り線ホームは普通に地上にあります。

殆ど待つ間もなく現れた水上行きの電車に乗り込みます。なお土合駅は無人駅で、切符の販売機も設置はされていません。車内で車掌に清算してもらいます。
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帰りは新幹線は使わず、高崎から鈍行列車に揺られて、長い長い帰宅の途に付きました。
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酷暑の谷川連峰訪問記はこれにて終了です。朝日岳まで届かなかったのは無念でしたが、白毛門自体は大変満足の行く山でありました。
本文中でも触れましたが、この山は最高の谷川岳の展望台です。当たり前な話ですが、谷川岳からでは谷川岳の姿は良く見えませんからね。混雑の極みにある谷川岳ではなく、あえてその向かいにある山へ谷川岳を眺めに行ってみては如何でしょうか。
次回の訪問はおそらく馬蹄形縦走になろうかと思いますが、まずはその前にすっかり肥えてしまったこの下腹を何とかせねばと思う今日この頃です。

<コースタイム>
土合橋(8:55)-松木沢ノ頭(11:10~11:20)-白毛門(12:25~13:05)-松木沢ノ頭(13:40)-土合橋(15:20)-土合駅(15:30)

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最後までお読みいただき、ありがとうございました。

コメント

  1. ゆり より:

    景色がよく、心情の変化などとても楽しいレポートでした。
    自分は再来週に行く予定ですが、水3.5で足りないとは、私も、覚悟していきます。ありがとうございます!

    バス情報がとてもありがたかったです

    • オオツキ オオツキ より:

      ゆりさま
      コメントを頂きましてありがとうございます。

      白毛門は豪雪地帯の山らしく中腹付近で早々と森林限界を超えてしまい、その先はずっとお日様がギラギラ状態の中を歩くことになります。そのおかげで眺めが良い訳なのですけれどね。

      まだ当面残暑は続くでしょうから、熱中症対策にはくれぐれもご注意ください。良き山旅を!