笹山 白峰南嶺に静かに佇む難関の山梨百名山

笹山北峰の山頂標柱
山梨県早川町と静岡県静岡市の境界にまたがる笹山(ささやま)に登りました。
白根三山の間ノ岳より南に向かって伸びる白峰南嶺と呼ばれる尾根上にあり、山梨百名山にも選ばれている一座です。別名で黒河内岳(くろうごうちだけ)とも呼ばれています。かつては近づくことすら容易ではない人影疎らな深山でしたが、近年では奈良田からの登山道が整備されて、格段に登りやすい山となりました。
健脚な人ならば日帰りも可能ですが、無理はせずにテントを担いで一泊二日の行程で登って来ました。

2023年7月16~17日に旅す。

今回は山梨百名山の一つである笹山に登って来ました。山梨百名山の中でも特に登頂難易度が高いとされている、通称四天王と呼ばれている中の一座です。
山梨百名山四天王

笹山は白根三山から南に向かって伸びる、白峰南嶺と呼ばれる尾根上にある山です。白峰南嶺の尾根上に山小屋は存在せず、南アルプスの中でも特に歩く人の数が少ない静かなる山域です。
富士山から見た白峰南嶺
笹山はかつて、白峰南嶺の尾根上を延々と辿って行かないと辿り着くことのできない深山でした。当時は山梨百名山の中でも最難関であるとの呼び声が高く、四天王の中でも筆頭格であると見なされていました。

しかし近年になってから、奈良田から直接登ることのできる通称ダイレクト尾根と呼ばれる登山道が整備されて、以前よりは各段に登りやすい山となりました。

以前ほどにはハードルが高くなくなったと言うだけで、決して容易な山ではありません。奈良田から笹山山頂までの標高差は実に1,900メートル以上におよびます。道中は最初から最後まで、緩むことのない急登につぐ急登が続きます。
笹山ダイレクト尾根の風景
ダイレクト尾根に技術的な面での難所は特に存在しませんが、ひたすら体力勝負の山であると言えます。

健脚な人であれば、早朝の内に奈良田をスタートして日帰りすることは十分に可能です。移動が公共交通機関頼みである私は、奈良田を早朝にスタートすることのハードル自体が高いため、無理はせずにテント担いで一泊二日の行程で登って来ました。
笹山ダイレクト尾根の幕営適地

展望のない急登を登り続けた先に待っているのは、白峰南嶺からの大展望です。記録的な猛暑に苦しめられつつ、山梨百名山四天王の一角を巡って来た二日間の記録です。
笹山北峰からの展望

コース
笹山奈良田ピストンのコースマップ
奈良田バス停から笹山ダイレクト尾根を往復します。初日は標高2,335メートル付近にある幕営適地でテント泊し、翌朝の夜明け前に山頂へとアタックします。

当初は上河内岳まで縦走して大門沢コースを下る周回コースも考えていましたが、想像以上の暑さで思った以上に水を消費してしまったため、単純な往復に差し替えました。

1.笹山登山 アプローチ編 早川の奥地、奈良田への遠き道程

8時41分 JR高尾駅
笹山の登山口がある奈良田は、甲斐南部一帯の中でも特にアクセスが面倒な奥地にあります。まずは奈良田行きのバスが発着する、身延線の下部温泉駅を目指します。
JR高尾駅に入線する中央本線211系
奈良田行きバスへの乗り継ぎの時間の都合もあり、いつもよりもゆったりとした時間の始動です。え?特急あずさ?あんな普通席すらないようなブルジョワな乗り物は、始めからお呼びではありません。

10時30分 甲府駅に到着しました。早朝時間帯とちがって途中で特急列車の通過待ちが入るため、高尾から2時間近い時間をかけての到着です。
甲府駅のホーム
電車から降りるなり、尋常ならざる暑さの空気が出迎えてくれました。こんな暑さの中で山登りをしようだなんて、もしかしなくても馬鹿なのではなかろうか。そんな自問自答が脳裏をよぎります。

甲府駅で身延線に乗り換えるのですが、身延線は交通系ICカードには対応していないため、一度改札を出て切符購入してから再度入場します。
甲府駅に停車する特急ふじかわ

ちょうど良い時間帯の鈍行列車がいなかったため、めずらしく特急ふじかわを奮発しました。下部温泉までの特急券代は660円なり。されど得られえた快適さはプライスレス。
特急ふじかわの車内

11時28分 下部温泉駅に到着しました。奈良田行きの早川町営バスはお隣の身延駅発ですが、途中で下部温泉駅にも停車します。
230715笹山-010
この奈良田行きバスの時刻表設定がなかなかくせもので、始発の7時26分発の便の次は11時46分までありません。

当日の朝に都内を出発した場合、7時26分にはどうやっても間に合わないため、事実上11時46分の便しか選択肢がありません。始発便に乗車したければ、前日の内に甲府辺りにでも前乗りしましょう。

暑い。駅前はすでに眩暈を起こしそうな気温です。奈良田は下部温泉よりはずっと標高が高いため多少はマシであろうとは思いますが、しかしこの状態で山登りを始めようとは最早正気の沙汰ではありません。
下部温泉駅の駅前
笹山は山頂付近までずっと樹林帯が続く山なので、日影となる登山道は多少は涼しいだろうと望みをかけるしかありません。

あまりにもバスが少ないので、当初はお金に物を言わせてタクシーで行こうかとも考えましたが、しかし奈良田までおよそ一万五千円と言う料金の目安を見えて考え直しました。路線バスなら800円ですからね・・・
下部温泉駅からのタクシー料金目安の案内

時刻表通りにやって来た奈良田行きの早川町営バスに乗り込みます。バス車内は貸し切りとまではいきませんが空いていました。
奈良田温泉行きの早川町営バス

奈良田は富士川支流の早川を上流へ遡って行った先にあります。バスでおおよそ1時間少々の長丁場です。
230715笹山-014
早川は南アルプスの3,000メート級の山々を源頭とする河川で、その名称からして察しが付く通りの急流河川です。標高差が非常に大きいこといから水力発電の適地で、早川沿いの至る所にダムと発電所がひしめいています。

上流に遡るにつれて、次第に急峻なる渓谷の様相を呈してきます。ちなみに北岳の登山口である広河原を流れている野呂川は、この早川の源流の一つです。
早川の上流部

12時58分 奈良田バス停に到着しました。時刻は既に正午を回っており、一日で最も暑い時間帯になろうと言うタイミングで、ようやく登山口に降り立つことが出来ました。
奈良田温泉バス停
本日の行程はダイレクト尾根の途中にある幕営適地まで行けば良いだけであるため、この時間に出発してもまあ何とかなるでしょう。

2.奈良田湖を渡って笹山登山口へ

13時 身支度もほどほどに本日の行動を開始します。まずはバスが元来た方向に向かって少し戻ります。
230715笹山-017
現在の外気温はかろうじて30度を下回り29度です。下部温泉の駅前よりはいくらか涼しいと言えば涼しいですが、それでも山登りをするような気温ではないですね。

駐車場に収まりきならなかった車が、路肩に大量にあふれていました。この様子では、白根三山への入山者は相当多そうですね。
大量に路上駐車された奈良田
この大量の車の持ち主の内、白峰南嶺を歩いている人ははたしてどれくらいいるのだろうか。

やがて前方に、奈良田湖の上に架かった長ーい吊り橋が見てきました。笹山の登山口は対岸にあるため、この橋を渡ります。
奈良田湖の橋

その名も塩見橋と言うらしい。塩見岳があるのは白峰南嶺越えた先でここからは相当な距離がありますが、どういう経緯で付いた名称なんでしょう。
奈良田の塩見橋

目指す笹山の名前もしっかりと案内されていました。かつては到達すること自体が困難な山だったと言う笹山ですが、現在ではしっかりと登山道も整備されていると言う事なので、そこまで極端に身構える必要はなさそうです。
奈良田の吊り橋に掲げられた笹山の案内

これだけ長ければ当然ですが、この吊り橋は結構揺れます。縦に揺れる分には特段何とも思わないのですが、横にも大きく揺れるのには、振り落とされはしないかと言う若干の怖さを感じます。
奈良田湖の吊り橋

この奈良田湖は、水力発電用の取水を行うために作られた人工湖です。上流部を見ると既にかなりの量の土砂が堆積しており、有効貯水量はそうとう少なそうです。
土砂が堆積した

橋の対岸には発電所の施設がありました。なるほど、もともとこの施設に出入りするために架けられた橋なのでしょう。施設の端を通り抜けて進みます。
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奈良田湖沿いの、地図には記載のない道に沿って進みます。ここは一般道ではなく奈良田発電所の敷地内であるようですが、登山者の通り抜けは許されています。
230715笹山-025

道なり進むと前方にトンネルが現れますが、その手前で道標の導きに従い右に入ります。
230715笹山-026

13時25分 笹山登山口に到着しました。本日はテントの他に2日分として水を5.5Lも担いでいるため、登山を開始する前からすでにため息が出そうなくらいにズシリと荷物が重い。
笹山の登山口
もう既に汗ダラダラ状態であるし、果たしてこんな調子で標高差1,900メートルの難物を登り切れるのでしょうか。前途に不安しかない中をスタートです。

3.ひたすら急登の続く、ダイレクト尾根の死闘

登りは始めは昼間でも薄暗い杉林の急登です。日陰な分だけいくらか涼しいのは良いのですが、立ち上がりからいきなりの容赦がない急登です。初っ端から飛ばして来ますねえ。
笹山の登山道

奈良田発電所の送水パイプと並行するように道が続いています。なるほど登山道がご丁寧にも手すり付きなのは、この施設の管理道を兼ねているからなのでしょう。
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再び笹山の案内がありました。基本的にマイナーな山であるとは思いますが、それでも山梨百名山に選定されている事もあってか、入山者はそれなりに居はするようですね。
230715笹山-030

送水パイプから離れるなり、踵が痛くなりそうな急登が始まりました。先ほどから風はそよとも吹かず、いきなり灼熱地獄の様相を呈してきました。
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標高が上がってくればその分気温は下がってゆくはずなので、今はひたすら何も考えずに登り続けるしかありません。

最初の急登を登りきると、一時の安息のような平坦地が現れました。よかった、あのまま急登が続いたらどうしようかと思っていましたよ。
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14時5分 山の神に到着しました。屋根がだいぶ潰れてしまっていますが、大木の根元に小さなお社がありました。良く見ていないと見落とすかもしれません。ここがダイレクト尾根における最初のチェックポイントと言ったところです。
笹山 山の神

山の神を過ぎると、お待ちかねの急登再開です。さあ甘ったれんな。キリキリ登れ。
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このダイレクト尾根コースの恐ろしいところは、最初から最後までずっとこの調子であると言う事です。展望のない樹林帯の急登が延々と続きます。

言うなれば、鷹ノ巣山の稲村岩尾根をもっと長くしてみました的なコースです。

周囲の植生がカラマツ林に変わって来ました。恐らくは人為的に植林されたものであると思われます。この辺りはまだ、人の手が及んでいる領域だと言う事ですね。
230715笹山-034
進行方向の先にこんもりとピークらしきものが見えていますが、あそこはまだ山頂ではなくその遥か手前の名もなき小ピークです。

時よりこうした慈悲のような平坦地があらわれます。まあ一瞬だけなんですけれどね。こう言う場所で息を整えましょう。
230715笹山-035

登るにつれて、周囲の植生が次第にブナ林に変わり始めました。大きな標高差を一気に登りつめるため、こうして周囲の森の様子が徐々に変化して行く様を、まるで早送りしているように体験することができます。
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しかしこのダイレクト尾根と言う名称は、いつから使われるようになったのでしょうか。昔からそんな名前で呼ばれていた訳は当然なく、単純に笹山尾根と呼ばれていたようです。

かつてこの尾根上に登山道は無く、笹山に登りたければ大門沢コースを登り上河内岳から白峰南嶺を縦走して行くしかなかったそうです。その当時の苦労を思えば、これしきの急登くらいなんてことありません。

・・・嘘です。十分すぎるほどにしんどいです。

14時30分 水場入口まで登って来ました。ここから10分程登山道を外れた場所に、笹山における唯一の水場があります。水が足りなくなりそうならここで補充することも考えていましたが、まだまだ十分にあるため見には行きません。
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流石にだいぶ疲労がたまってきたため、ここでザックを落として一本立てました。まだまだ先は長い。

少しは疲れが取れたような取れていないような微妙な体調ですが、行動を再開します。相変わらずの容赦のない急登です。そして、登れども登れども、ちっとも涼しくはなりません。暑い、暑すぎる。
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5.5Lあった水がどんどん減って行くわけなのですが、しかし消費しないことにはいつまでも荷物が重いままなので、加減が難しいところです。

標高が2,000メートルを超えた辺りで、周囲の植生は北八ヶ岳や奥秩父の森とよく似たコメツガなどの針葉樹林に変わりました。亜高山帯の領域に入ったようです。
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しっとりと苔生した癒しの空間が広がります。しかしダラダラと滝のように汗を垂れ流しながら肩で息をしている今の私に、それを楽しむ心の余裕はありません。暑いんだってばよ。
230715笹山-040

この見上げる角度の急登とツガ林の雰囲気は、甲武信ヶ岳の徳ちゃん新道を思い出す雰囲気です。あちらも相当しんどい道でありましたな。
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こうしたテントを張れそうなフラットな地面を見かけると、「今日はもうここまでにしよう」と言う抗いがたい誘惑にかられそうになります。今ここで楽をしてしまったら、その分だけ明日の行程がより厳しくなるだけなんだぞ。
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手も使わないとよじ登れないような急勾配な道になってまいりました。ダイレクト尾根の全行程の中でも一番つらかったのは、この辺りの登りです。
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オラ泣き言を言うな。気合を入れろ気合いを。人生において直面する困難の8割5分くらいは、気合と根性と筋肉さえあればだいたいなんとなると相場は決まっているんだ。

先の見えない急登が続いていましたが、ここに来てようやくぽっかりと空が見えました。
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山と高原地図にも記載のある崩落地です。ここまで登ってくれば、初日の目標である幕営適地まではもうあと一息です。
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白河内を挟んだ向かいの尾根が良く見えました。あちらの尾根上には道は存在しないようです。この谷の急峻さと高度感は、アルプスならではの光景です。
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遠くに鳳凰三山が並んで見えました。ここまで登って来て、ようやく南アルプスらしい光景を目にしました。
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この標高2,256メートル地点の標識が現れたら、ゴールはもう目の前です。・・・厳密に言うとゴールではありませんが、ともかく今はこの背中の重荷を早く放り出したい。
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時刻はすでに18時をまわり、徐々に周囲が薄暗くなりつつありました。何とかライトを出す前にテントを設営してしまいたいところです。
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余力があったら初日の内に山頂まで登ってしまおうなどと思っていた訳なのですが、そんな余力は全くありませんでした。身の程知らずも良いところでしたね、はい。ダイレクト尾根をナメていました。

18時20分 幕営適地に到着しました。既に先客のテントが3張ほどあり、私は最後尾でした。まあ、普通は13時過ぎに登山を開始したりはしないでしょうからね。
笹山ダイレクト尾根の幕営適地
幕営適地とは言っても、フラットな地面があると言うだけで水場はありません。すべて自分で担ぎ上げる必要があるので、その点だけはご注意ください。

空きスペースに憩いの我が家を設営します。ちゃんと真面目に詰めて張れば、スペース的に5~6張くらいは行けるかな。
笹山の幕営適地
よほど疲れがたまっていたらしく、食事後に少し横になっていたら、いつまにか眠りに落ちていました。おやすみなさいZzzzz。

4.笹山登山 登頂編 白峰南嶺の大絶景が広がる頂へ

明けて7月17日 3時25分
まだ周囲は真っ暗ですが、山頂からのご来光に間に合わせるべく、ヘッドライトを装着して行動を開始します。
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踏み跡は少々心許ないですが、ピンクテープの目印が過剰なほどについています。良く周囲を観察しながら歩きましょう。目印は必ずあるので、見失ったらルートを外れています。
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倒木が多めで、少々道がわかりづらいです。本当は明るくなってから歩いたほうが安全なのでしょうけれど、ご来光に間に合わせるためとあっては致し方ありません。
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シャクナゲが咲いていました。ここまでまったくもって華やかさに欠けていた登山道上で、初めて目にした花です。
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4時5分 山頂手前にある名も無きの2,560メートルピークまで登って来ました。目指す山頂が真正面に見えます。長かったダイレクト尾根もようやくにして終わりが見えました。さあ、後はウィニングランをキメるだけです。
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東の空が茜色に焼けて来ました。夜明けは近い。
230715笹山-056

森の中も徐々に赤く染まって行き、ヘッドライトがいらない明るさになりました。あまり余裕をこいているとご来光に間に合わなくなるので、少しばかりペースを上げて行きましょう。
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山頂らしき場所が見えました。
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4時30分 笹山に登頂しました。南アルプスエコパーク仕様の四角い山頂標柱が出迎えてくれました。これで四天王の3座目を無事に踏破したのと同時に、自身の山梨百名山登頂数は98座目となりました。
笹山の山梨百名山標柱

山頂の周囲はぐるりと灌木に覆われており、展望はありません。ここから10分ほど進んだ先にある北峰の方が全方位の展望が開けているので、到着して早々ですがそちらへ移動しましょう。
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北峰に登り返すと、いかにもアルプスらしいハイマツの稜線の光景が出迎えてくれました。
230715笹山-060

左手に荒川岳(3,141m)の姿が見えます。別名で悪沢岳とも呼ばれている、何気に日本で6番目に標高が高い山です。
笹山から見た荒川岳

その先には蝙蝠岳(2,865m)と塩見岳(3,052m)が居並びます。どちらもいかにも南アルプスの山らしい、圧倒的スケール感です。
笹山から見た蝙蝠岳と塩見岳

山頂には既に寸数名の先客がおり、日の出の瞬間を待ち構えていました。笹山に登りたがるだなんて相当物好きな人だけだと思うのですが、世の中に物好きな人は結構たくさんいるものですね。
笹山北峰の山頂

山頂に着くと、まさに目の前で日が昇り始めているところでした。おっと、あぶないあぶない。蝙蝠岳の姿に見惚れている場合ではなかった。
笹山山頂からのご来光

地平線から昇ってくる瞬間こそ見逃しましたが、これはギリギリ間に合ったと言う事で良いのだろうか。
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5.笹山山頂からの展望

それではあらためまして、笹山山頂からの展望をつぶさに眺めてみましょうか。まず、振り向くとヤツがいます。相変わらずでっけえな。
笹山から見た富士山

南方向には南アルプス南部の山々がひしめきます。玄人好みの人跡疎らな深山がひしめく魔境のような一帯です。南アルプス南部の山に傾倒するようになると、山道楽もいよいよ行くところまで行ってしまった感があります。
笹山から見た南アルプス南部

白峰南嶺の雄、笊ヶ岳(2,629m)の姿が目を引きます。山梨百名山四天王の中でも筆頭格の山です。私はまだ未踏なので、近いうちに登りに行かねばなりません。結局、一番厄介そうなやつが最後まで残ってしまいましたな。
笹山から見た笊ヶ岳
笊ヶ岳のキツさ加減は笹山以上であるとの事なので、今からすでに戦々恐々です。笊ヶ岳に挑戦する際には、もう少し涼しい日と時間帯を選んで登ることにしよう。

北側には、白根三山方面へと続く白峰南嶺の尾根が連なります。本当はこの尾根を上河内岳まで縦走して奈良田に下る周回ルートを取りたかったのですが、そこまで足を延ばすには水が足りそうにも無いので今回は諦めます。
笹山から見た白峰南嶺の稜線
一見すると気落ちよく歩けそうな稜線にも見えますが、破線扱いのルートでハイマツの藪が相当惨いらしい。いずれにせよ、玄人向きのルートであることは間違いありません。

こちら側から見ると、北岳の尖がりっぷりがなかなか凄いですね。右下には八本歯のコルのギザギザが何となく見えます。
笹山から見た北岳

陽が登るにつれて、寒々しかった山頂が暖かい光に包まれて行くのを感じます。毎度の事ながら太陽はすげえと思うと同時に、今日も暑くなりそうですね。
230715笹山-071

南アルプス南部の山々も、暖かい日の光に包まれて行きます。
笹山から見た南アルプス南部の山々

それではあらためまして、荒川三山のモルゲンロートです。荒川岳はだいぶ以前より登りたい山リストの上位に名を連ねながらも、未だに訪問が叶っていない山です。
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とても日帰りでは届かない深山なのですが、コロナ渦以降は夜行バスや山小屋の予約争奪戦が激しすぎて、もはや仕事を辞めでもしない限りはとても登れそうにないと、半分諦めモードになりつつあります。

・・・いっそ仕事を辞めようか。

そして塩見岳。こちらはまあ、行程次第では何とか登れる算段は付けれそうかな。出来れば熊ノ平小屋に泊まって農鳥岳から縦走したい。
笹山から見た塩見岳

正面には蝙蝠岳。どこから登るにしても非常に遠く、南アルプスの山の中でも特に登る人の少ない静かなる一座です。
笹山から見た蝙蝠岳
・・・ええい、貴様も登りたい山リストに追加だ。果たして登れる日が来るかどうかはわからんけれど。やっぱり仕事を辞めよう。

遠くの山も眺めてみましょうか。これはどこからでも一目でわかる乗鞍岳(3,026m)です。半ば独立峰のような佇まいなので、遠目にもわかりやすい。
笹山から見た乗鞍岳

これは中央アルプスの山並みです。宝剣岳(2,931m)だけが何となくわかりますが、あとは特徴に乏しくて同定が難しい。
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こちらは北アルプスの山並みです。右端に槍ヶ岳(3,180m)らしきものが何となく見えます。そもそも白峰南嶺から槍ヶ岳が見えるとは思っていなかったので、見えたのは意外でした。
230715笹山-078

下界の富士川流域は、雲海の下であるようです。逆光なのでわかり難いですが、正面に見えているのは御坂山地の山々だと思います。
230715笹山-079

いまさらですが北峰の山頂標柱です。山梨百名山の標柱が最高地点の北峰ではなく南峰の方に立っているのは、単純に北峰は東海パルプ株式会社の私有地であるからのようです。
笹山北峰の山頂標柱
この標柱に書かれているJUZANと言うのは、東海パルプが所有する山林を管理している十山株式会社の事です。

静岡県に属する南アルプスの山林の大部分は東海パルプの私有地であり、南アルプス南部の山小屋を管理している東海フォレストも東海パルプの関連会社です。

この今見えている山の全てが一企業の私有地であると言うのも、なんだかすごい話ですよね。

素晴らしき展望を心行くまで満喫しました。名残惜しくはありますが、そろそろ撤収に移りましょう。
笹山北峰からの展望

6.笹山登山 下山編 標高差1,900メートルのダイレクト尾根を駆け下る

5時10分 後ろ髪をひかれつつも、山頂を辞去して下山を開始します。後ろ髪なんか無いけれどな!
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森の中が眩い日の光で満ちて行きます。今日も暑くなりそうです。
230715笹山-081

サクサクと南峰まで戻って来ました。以外にも多くの登山者で賑わっていた北峰とは打って変わって、こちらは人影もなく静まり返っていました。
笹山南峰

あらためてもう一度、山梨百名山の標柱を写真に収めておく。南峰の土だけを踏んで帰ってしまう人はまずいないとは思いますが、最高地点はここではなく北峰の方なのでお間違いなきよう。
笹山の山梨百名山

ああちなみに、南峰からも一応は富士山が見えます。だから何だと言う話ではありますが。
笹山南峰から見た富士山

テントという重荷がなくなったおかげであまり気にもなりませんでしたが、山頂の直下は最後まで結構な急登です。本当に、我ながら良く登ったなあと感慨深くなります。・・・今度はそれを下るのですけれどね。
230715笹山-085

真っ暗中を登っていたのであまり周りが見えていませんでしたが、山頂付近はまるで密林のように木々が密集していて、道がなりわかり辛いです。目印のピンクテープを見落とさない様に歩きます。
230715笹山-086

6時10分 あっさりとテントまで戻って来ました。
笹山の幕営適地

一夜を過ごした憩いの我が家を素早く撤収します。山頂を往復している間に、結露していたテントは良い感じに乾いていました
テントを収容したザック

再びズシリと重くなった荷物にため息をつきつつ、下山再開です。あわよくば、9時50分に奈良田を待つバスに間に合わせたいところです。
笹山の幕営適地

急勾配ではありますが、足元の土が柔らかいおかげで足に優しいトレイルです。おかげでテンポよく足早に下れます。
230715笹山-090
先を急いでいるのには理由があります。本日は昨日以上の猛暑日になると言う予報が出されており、時間がたてばたつほど気温はジワジワと上昇して状況は悪化してゆくのが目に見えています。

何とか正午前のまだ気温が上がりきる前に下山してしまいたいのです。

7時35分 水場入口まで下って来ました。水は何とかギリギリ持ちそうなので、給水はせずにこのまま下山を続行します。
230715笹山-091

危惧していた通りジワジワと気温が上昇して、再び汗だく状態となりました。標高自体も下がってきている訳ですから、気温上昇に拍車がかかります。
230715笹山-092

頭上が開けている場所を通るだけで憂鬱な気分になります。直射日光はやめて下さい。溶けちゃいます。
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8時45分 山の神まで下って来ました。あれだけ苦労して登ったと言うのに、下るのは本当にあっという間です。
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流石にだいぶ足が棒のようになって来ましたが、最後にもひと下り頑張っておりましょう。
230715笹山-095

送水パイプの上まで戻って来ました。昨日にここを通たのが、もうずっと前の事のようにも思えます。
230715笹山-096

最後にこの手すりエリアを下れば、今度こそ本当にお終いです。ああ、やっとこの苦行のような下りから解放される。
230715笹山-097

9時10分 笹山登山口に戻って来ました。ダイレクト尾根は前評判に違わぬしんどい道程でした。
230715笹山-098

この分なら、9時50分のバスには十分に間に合いそうです。しかしそうすると必然的に、奈良田温泉で一風呂浴びて行く時間は無くなってしまいますね。
230715笹山-099
奈良田温泉には日帰り入浴を受け付けてくれる宿が2軒ほど存在しますが、どちらも受付時間は10時以降です。

再び横に大きく揺れる吊り橋を渡ったらゴールです。あー暑かった。
奈良田湖の吊り橋

9時30分 奈良田バス停に到着しました。9時50分発の身延駅行きのバスが既に待機していました。大急ぎで着替えを済ませて、公共交通機関利用のための最低限の身だしなみを整えてから乗り込みます。
奈良田バス停

再び急流早川の光景を眺めながらの長距離ドライブです。途方もない奥地ですが、発電所があるおかげでこうした立派な道が出来て、バスまで走っている訳です。この辺の事情は、上高地に向かう梓川沿いの道なんかも一緒ですね。
230715笹山-102

下りでもしっかりと1時間以上かかり、11時5分に下部温泉駅へと戻って来ました。
下部温泉駅

そうそう、いつの間にか下部温泉駅の目の前に、しもべの湯と言う日帰り入浴専門の施設が出来ていました。と言う事で本日はこちらに立ち寄ります。
しもべの湯
入浴料は町外在住の場合は930円で、これとは別に入湯税が150円かかります。まだ真新しくて快適な施設ですが、利用料が少々お高めですね。お湯に関しては文句なしに素晴らしかったです。

帰りは特急ふじかわを見送り、甲府行きの鈍行列車に揺られて帰宅の途に着きました。
下部温泉駅に入線する甲府行きの普通列車

笹山ダイレクト尾根は実に熱かった。いや暑かった。
今回は明らかに訪問の時期を間違えたとしか言いようがない山行きでありました。梅雨が明けるのを待っていたら結果としてこの時期になってしまったわけなのですが、笹山は真夏に登るべき山ではありません。もう少し涼しい時期を狙った方が無難です。

胸を突くような急登がひたすら続きますが、ダイレクト尾根にこれと言った技術的な難所は無く、道標やピンクテープなども思いのほかしっかりと整備されていました。2,000メートル近い標高差を登り切れる体力さえあれば、誰にでも登れる山であると思います。

上河内岳への周回ルートを取る場合はそれなりにルートファイティング能力を要求されるようですが、いつかまた次回は白峰南嶺を通しで歩いてみたいと思います。出来ればもう少し涼しい時期にね・・・

<コースタイム>
一日目
奈良田バス停(13:00)-笹山登山口(13:25)-山の神(14:05)-水場入口(15:30~15:45)-幕営適地(18:25)

二日目
幕営適地(3:25)-2,560メートルピーク(4:05)-笹山(4:30)-笹山北峰(4:40~5:10)-笹山(5:15~5:25)-幕営適地(6:10~6:30)-水場入口(7:35~7:45)-山の神(8:45)-笹山登山口(9:10)-奈良田バス停(9:30)

笹山山頂での記念撮影

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

コメント

  1. 匿名 より:

    お疲れ様でした。
    いつもおもしろそうな山行をあげてくださりありがとうございます。

  2. しょうへい より:

    四天王の一座、登頂おめでとうございます。暑い中、テント装備を担いで急登は大変そうでした。しかし、お天気もよく、空気が透き通ってるように感じさせる早朝の山々がとても美しく感じました。ちゃんとご褒美があったようです。

    • オオツキ オオツキ より:

      しょうへいさま
      コメントをありがとうございます。

      これでご褒美一切なしだったら酷評されそうなものですが、文句なしに素晴らしい展望でした。百名山の肩書に不足ない秀峰だと思います。

  3. 野崎誠之 より:

    臨場感溢れる山行記録は大変楽しく参考になりました。
    ありがとうございました
    私も山百(96座)目指していますがコロナ禍で大分遅れ年寄りには完登難しかなってきましたが、オオツキさんのSNS を読まさせて頂きながら一つでも多く積み重ねて行きたいと思います。

    • オオツキ オオツキ より:

      野崎さま
      コメントを頂きましてありがとうございます。

      難物の四天王はやはり最後まで残ってしまいますよね。笊ヶ岳も笹山と同様に日帰りは厳しそうなので、テントを担いで登る予定でいます。

      残り僅かですから、お互い頑張りましょう!

  4. ゴト より:

    オオツキ様
    いつも楽しく読ませていただいてます。
    笹山登頂お疲れ様でした!山頂展望本当に素晴らしいのですね。
    私は2回登ってますがガスガスの山頂しかしらないので展望なんて幻だと思ってました爆
    ダイレクト尾根のたまに出てくる平坦地は本当癒しですね。
    私も『ゆっくりで良いからキリキリ登れ』とブツブツ呟きながら登ってました笑
    笊ヶ岳の記事も今から期待しております。

    • オオツキ オオツキ より:

      ゴトさま
      コメントをありがとうございます。

      笹山に2回登ったことがある人は相当珍しいのではないでしょうか。さては貴方、もの好きですね。かく言う私も白峰南嶺の稜線を歩いてみたいので、いつか再訪するかもしれません。