山梨県と長野県にまたがる八ヶ岳連峰の南半分を縦走して来ました。
今回は縦走二日目の記録です。この日歩いた最高峰の赤岳を中心とする一帯は、八ヶ岳連峰の中でも最も標高が高く最も険しい、八ヶ岳の中核部を形成しています。
キレット小屋からスタートし、八ヶ岳中核部の名だたる山々を一挙に縦断してきました。
2018年9月24日に旅す。
縦走登山の二日目は、いよいよ八ヶ岳の中心部へと足を踏み入れていきます。今回の縦走のメインディッシュとでもいうべき大縦断です。
しかし、そこへ至る道のりは決して簡単なものではありません。キレット小屋から赤岳に至る道は、信州の山グレーディングにおいて、難易度D(5段階で4番目)とされている行程です。
一般登山道扱いではあるものの、決して舐めてかかれる道のりではありません。・・・もっとも、舐めてかかっても良い山などと言うものは、決して存在はしないのですがね。
初日と同様の最高の晴天に恵まれた、縦走登山二日目の模様をお届けしましょう。
コース
キレット小屋よりスタートし、赤岳、横岳および硫黄岳を縦走します。その後、下山はバス本数の多い美濃戸口へと下ります。初日よりも行動時間の長い、それなりに体力勝負となる行程です。
1.南八ヶ岳縦走二日目 キレットの険路を登り、最高峰の赤岳を目指す
5時40分 一晩お世話になったキレット小屋を後にし、二日目の行動を開始します。
そういえば何故か、キレット小屋朝ご飯の写真を撮り忘れてしましました。ご飯、お味噌汁におかずが少々と言う、極めて普通のメニューでした。特記事項として、前日に申告した出発の時間に合わせて提供してもらえます。
本日は初っ端から、八ヶ岳連峰の最高峰である赤岳へ挑みます。山頂までの標準コースタイムは2時間ほどの行程です。距離で言うとおそらく1kmもないかと思いますが、急峻な岩の斜面をよじ登ることになります。
歩きだして早々に危なっかしいトラバースの洗礼がありました。寝ぼけたまま歩いてるんじゃないぞ言う、赤岳さんからの警告でしょうか。
背後には見事な雲海が広がっていました。少々雲が多めではあるものの、これは山頂からの展望が大いに期待できそうです。
雲海に浮かぶこちらの山は、奥秩父の名峰金峰山です。山頂に五丈岩の姿がくっきりと見えおります。こうして見ると、奥秩父と八ヶ岳と言うのは意外と近いものですね。植生的にも似通っておりますし。
まるで絶壁のごとく前方に立ちはだかる赤岳。いったいどこをどう登るのか、皆目見当もつきません。
まずはガレた急斜面を上って行きます。道筋らしきものはしっかりとありますが、崩れやすくて歩きにくいことこの上ありません。特に降りるときには注意を要する道です。
進むにつれて、徐々に道とは言えない様相を呈してきました。ここ、一応は一般登山道なんですけれどね。一般登山道と言う言葉の定義が揺らぎそうな道です。
「本当にここであってるの?」と問いかけたくなるような場所に、ペンキ印が点々と続いています。信じてよじ登ってゆくしかありません。
冒頭でも触れましたが、このコースは信州の山グレーディングで難易度Dとなっています。それなりに危険地帯であると考えた方が良い場所です。周囲の登山者の半数くらいは、ヘルメットを着用していました。
急坂をグイグイと登るうちに、背後の視界が開けます。奥に見えているのは中央アルプスです。
こちらは昨日越えてきた権現岳(2,715m)です。背後には南アルプスの山々が連なります。
ああちなみに、登っている最中に下は見ない方がいいと思いますよ。足がすくみますから。
キレット小屋からも見えていたこの二つの岩は、大天狗に小天狗と呼ばれています。大天狗の方はロッククライミングの登攀の対象ともなっています。
さてこちららのハシゴ。一見するとただのハシゴに見えますが、この日一番怖かったスポットです。この何の変哲もないハシゴのどこが恐いのかと言うと・・・
この通り、崖の底に向かって伸びております。登る分には何という事はありませんが、降りるのは相当怖いのではないでしょうか。
ここがキレットルートの核心部でしょうな。特に難しい要素はありませんが、とにかく高度感が凄いです。
ハシゴを抜けると平坦になり、一時の安息が訪れました。そのかわりと言ってはなんですが、この辺りはすこし風が強かったかな。
再び岩の絶壁の立ちはだかります。この頃になるともう大分岩慣れしてきて、この程度では特に何も感じなくなります。
赤岳山頂付近の岩は、表面が非常にザラついていて装具破壊度が高めです。手袋をしていると、あっという間に指先に穴が開きます。
ちなみに私は最初からずっと素手のまま登りました。その方が、小さな突起をつかんだ時のホールドが良いので。おかげで、下山する頃にはすっかり指先が擦り切れてしまいましたが。
ようやく山頂が目の前に姿を現しました。すでに山頂に多くの人の姿があるのが視認できます。
ここで文三郎尾根ルートと合流します。こうして見下ろすと、こちらから登ってもかなりの急登ですな。
山頂直下は渋滞していました。赤岳の周囲には、それこそ無数に山小屋が存在します。それらに泊まっていた人々が、夜明けとともに一斉に山頂と言う一点を目指す訳ですから、まあ混んで当然です。
7時25分 赤岳に登頂しました。
狭い山頂を埋め尽くすかのように、多くの登山者で賑わっていました。流石は人気の百名山です。
2.八ヶ岳最高峰からの展望を満喫する
赤岳の山頂からは、掛け値なしの360度の展望が広がります。最高地点な訳ですから当然ですね。北側には、八ヶ岳連峰北端の蓼科山へと続く、主稜線のすべてが一望できます。
キレット小屋でご一緒した一人が、このあともう2泊して蓼科山まで歩くと言っていました。八ヶ岳全山縦走とは、実に羨ましい限りです。
蓼科山(2,530m)をアップで。諏訪富士の異名を持つ山ですが、富士山型に見えるのは茅野の方から見た場合限定です。
雲海の先に浮かぶのこちらの山は、東日本最大級の活火山、浅間山(2,568m)です。
いつの間にか噴火警戒レベルが1に下がって、前掛山までは登れるようですね。雪の付く頃になったら行ってみようかな。
眼下には行者小屋と赤岳鉱泉の屋根が見えます。縦走ではなく赤岳のみに登るのであれば、こちらから側登ってくるのが一般的です。
毎度お馴染み、世界遺産のアイツこと富士山。間違いなく日本の山の中で最も山同定が簡単な山です。
南に目を向けると、権現岳とここまで歩いてきたキレットの全貌とを睥睨できます。その背後には南アルプス山並み。うーん、素晴らしい。
お隣の阿弥陀岳(2,805m)の山腹に、見事な影赤岳が映っていました。
この山は主脈の縦走路からは外れた位置にあるため、残念ながら今日の行程では通りません。
阿弥陀岳の先に、うっすらと諏訪湖の姿も見えました。その背後には乗鞍岳(3,026m)の姿も見えます。
反対の東方向には、奥秩父山塊や奥多摩の山々を一望できました。この時間だと、ちょうど逆光になってしまいますが。
赤岳山頂には北峰と南峰の二つのピークがあります。北峰の方には山小屋が立っています。
その名も赤岳頂上山荘と言う、そのまんまなネーミングです。しかしまあ、よくもこんなところに建てたものです。
3.岩の屏風のごとき横岳を縦断する
8時 行動を再開します。
まずは横岳との鞍部にある赤岳天望荘へと下って行きます。本当に小屋だらけの山ですね。
こちら側もかなりの急坂です。へっぴり腰になりながらも、前を向いたまま降りている人の姿を多く見かけましたが、ここは素直に鎖を掴んで後ろ向きに降りて行く方が安全です。
目の前に、これから超えて行く横岳(2,829m)が立ちはだかります。その名の通り横長の屏風のような姿をしています。こちらもかなり急峻な山ですな。
鞍部から見た赤岳山頂。このアングルで、ガスに包まれていない姿を見たのは初めてかもしれない。
思わず毎回写真を撮ってしまうが、このヤマザキパンのコンテナ。いや本当に凄い存在感です。しかも今日は富士山とのツーショットだ。
小屋の前からは茅野の市街地が一望できます。ここに泊まったら、さぞや素晴らしい夜景が見れる事でしょう。
ヘリがあわただしく飛び交っていました。荷揚げをするような場所には見え無いので、救難中なのかな。
横から見た屏風が、ほとんど絶壁のような傾斜度で立ちはだかります。これはもしかしなくても、赤岳よりも険しいのではないだろうか。
見た目通りのなかなか急峻な道が続いておりました。赤岳同様の、装具削りなザラザラした岩肌の道が続きます。
振り返って見る赤岳。赤岳の姿としては、もっとも見慣れた定番のアングルではないでしょうか。
前方に、なにやらすごいのが見えてきました。まあ、鎖があるだけまだましとも言えますが。
手がかりは少なめです。「鎖は補助」とか格好をつけている余裕はなく、鎖をガッチリ掴んで腕力で登ってしまいました。
背後は絶景です。写真撮影が捗りすぎて、中々歩みが進みません。
屏風の上まで登って来ました。この通りギザギザのデッコボコで尾根沿いには歩けません。という事で、ここからは恐怖のトラバースが始まります。
人一人が通行する分には十分な道幅はキープされていますが、ともかく高度感が抜群です。
ようやく頂上を視界に捕らえました。赤岳のすぐ隣くらいに思っていましたが、意外と距離があります。
そして訪れる一時の平穏。今更ですが、私は手に汗握るアルペン的岩場より、こういう何も考えずに歩ける尾根の方が好みです。
左手にはのっぺりとした丘のような霧ヶ峰(1,925m)の姿が見えました。昔は茅場だったという事で、刈り払われた一面の草原が広がっているのが良くわかります。
ここまで歩いてきた道を振り返るとこんなです。屏風と言うよりは恐竜の背ビレな姿です。
そして山頂直下になって突如現れるナイフリッジ。まったく、横岳の奴は最後まで気が抜けません。
11時50分 横岳に登頂しました。
横岳なんて主脈縦走路上の単なる通り道だろうくらいに考えておりましたが、なかなか凄いやつでした。険しさで言うならば赤岳よりも上です。
目の前に、今回の縦走登山のゴール地点である硫黄岳(2,760m)が姿を現しました。横岳とは違い、一見おだやかな山容をしています。
足元にあるこちらの大岩は大同心と呼ばれています。ロッククライミングのゲレンデとして有名です。
振り返って見る、赤岳、中岳、阿弥陀岳のスリーショット。中岳の背後には、今回の縦走登山のスタート地点である編笠山(2,524m)の姿も見えます。ずいぶんと歩いてきたもんだ。
4.南八ヶ岳縦走最後の山、硫黄岳へ
先へ進みましょう。山頂からしばらくの間は、相も変わらずのナイフリッジが続きます。
目もくらむこの高度感。このルートを最初に切り開いた人間の度胸に、心から感服します。
垂直に近いような角度の上下移動よりも、こういうトラバースの方がはるかに恐ろしい。
横岳と硫黄岳との鞍部に立つ硫黄岳山荘の姿が見えました。本当に小屋だらけの山ですね。全部で何件あるのでしょう。
鞍部から見上げる硫黄岳は、まるで丘のようにのっぺりとしています。ここまで来ると、もう雰囲気的には北八ヶ岳風です。
10時10分 硫黄岳山荘に到着しました。
小腹が空いてきたので、小屋の前のベンチで一本立てて弁当を広げました。
いよいよ最後の山に向かいます。この所々に立っているケルンは、ガスった時のための目印です。この辺りは平坦なぶん、視界不良時に迷いやすい場所なのでしょう。
長いようであっという間だった縦走登山。ここまでの道のりを思い返しながら、その瞬間に向かって一歩ずつ進みます。
10時50分 硫黄岳に登頂しました。
やりきった達成感と共に、これでもう終わってしまうというのだという寂しさが同時に去来します。嬉しいんだか嬉しくないんだか、複雑な気持ちです。
山頂の様子
フットボールが出来そうなくらい広々とした空間です。
そして硫黄岳と言えばこちら。北側斜面に大口を開けた爆裂火口の断崖絶壁が眼下に広がります。
この迫力たるや、思わず大興奮間違いないです。爆裂火口が嫌いな男の子なんていません。
目の前に並ぶこの二つの山は西天狗岳(2,645m)と東天狗岳(2,640m)です。硫黄岳と天狗岳との間にある夏沢峠が、南八ヶ岳と北八ヶ岳の境界という事になっています。つまり、ここから先は北八ヶ岳です。
時間と体力が無限にあるのならば、どこまででも歩いて行きたくなるような光景です。
振り返って望む南八ヶ岳の中心部。この光景が見れただけでも、はるばるここまで歩いてきた甲斐があったというものです。
5.南八ヶ岳縦走 下山編 美濃戸口まで続く、長い長い消化試合
素晴らしい眺望の場所ですが、いつまでもここに居るわけにはいきません。翌日は普通に朝から出勤せねばならぬ身の上としては、今日中に家へ帰り着かねばなりません。
という事で、後ろ髪をひかれつつも下山を開始します。後ろ髪なんてないけどな!
眼下に山小屋が見えました。地図によればオーレン小屋と言う小屋のようですな。
この白い砂には幾ばくか火山性物質が含まれているらしく、ほのかな硫黄臭がしました。
樹林帯へと突入します。真正面にそびえる赤岳と横岳も、これで見納めです。
樹林帯に入ってしまったらもう、あとはもう消化試合です。如何にスピーディーに下山するかだけを考え、黙々と下って行きます。
所々に姿を見せる綺麗に紅葉した木々が、単純な消化試合をこなす登山の無聊を僅かに慰めてくれます。
12時 赤岳鉱泉まで下って来ました。
25年くらい昔に一度泊ったことがあるはずなのですが、四半世紀前ともなるとほとんど記憶がありません。実質、始めてくる場所のようなものです。
冬場に赤岳鉱泉名物のアイスキャンデーが作られるスペースも、夏にはこの通りただの空き地です。
立地的には赤岳鉱泉と言うよりは横岳鉱泉なんですよね。
まあ、八ヶ岳連峰の最高峰にして日本百名山の一座である赤岳とただの横岳とでは、ネームバリューに天と地ほどの差があるから商売上致し方ないのでしょうけれど。
赤岳鉱泉からは北沢ルートを通て美濃戸に向かいます。その名が示す通りの、沢筋の登山道です。
白みを帯びた水からは、ほんのり僅かに硫化水素臭がします。北沢には、赤岳鉱泉からの湯水が流れ込んでいるのでしょう。
こちらの小川は真っ赤です。赤岳と言う名の由来にもなった赤みを帯びた岩には、鉄分が含まれています。赤く見えるには酸化の影響です。つまりは錆びているってことですね。
道中にはナメ滝などもあったりして、消化試合中ながらもなかなか飽きません。
堰堤広場と呼ばれる場所まで下って来ました。ここからは単調な林道歩きとなります。言うなれば消化試合のさらに消化試合ですな。
美濃戸から赤岳を目指す場合、北沢ルートと南沢ルートの二つの選択肢がありますが、断然南沢ルートの方をお勧めします。理由は、北沢ルートの方にはこの単調極まりない林道歩きがあるからです。
どちらが楽か、ではなくどちらが楽しいかと言う基準で選ぶ場合の話です。
13時25分 美濃戸まで下って来ました。
マイカー登山している人達にとっては、達成感でいっぱいになる瞬間な事でしょう。我々徒歩組は、ここからさらに標準コースタイムで50分ほどの林道を歩かねばならないのですがね。
この場に崩れ落ちたい気分でしたが、歯を食いしばって下山を続行します。
トボトボと林道を歩いて下る下山者たちの脇を、車が颯爽と走り抜けて行きます。美濃戸までの道をすべて舗装して、アルピコ交通の路線バスを走らせてくれませんかねえ。長野県の税金で。
14時10分 美濃戸口までたどり着きました。
あー長かった。縦走登山の美しき思い出たちが、長い長い消化試合の記憶でオーバーライドされてとても残念な気分です。
ザックをならべて順番を主張するのが暗黙のルールらしい。とりあえず郷に従いザックを最後尾に置きます。どの道この数では、とても座れそうにはありませんがね。
臨時便が増発されたりしないかなと僅かに期待しましたが、やってきたバスは1台だけでした。通勤時並みな乗車率のバスに揺られて、帰還の途につきました。
二日間にまたがる南八ヶ岳縦走登山は、最高の晴天に恵まれて大満足の内に幕を下ろしました。カラッとした秋晴れの澄んだ空気により、素晴らしい眺望に恵まれた山行きでした。
今回歩いたルートは、信州の山グレーディングの難易度D判定という事で少しばかり身構えておりましたが、登りで通る分には特段難しいと感じる要素はありませんでした。ある程度山に慣れている人であれば、単純に楽しいと感じるレベルの道だと思います。
今回は時間の都合で南半分だけで切り上げましたが、八ヶ岳全山縦走もいつかはやって見たい所です。八ヶ岳はアルプスと比べるとコンパクトにまとまった山域であり、比較的手頃に縦走することが出来るのが大きな魅力です。
<コースタイム>
キレット小屋(5:40)-赤岳(7:25~8:00)-赤岳天望荘(8:20)-横岳(9:35)-硫黄岳山荘(10:10~10:25)-硫黄岳(10:50~11:00)-赤岳鉱泉(12:00~12:15)-美濃戸(13:25)-美濃戸口(14:10)
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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