雄国沼 猫魔ヶ岳のカルデラ湖畔に広がるニッコウキスゲ大群生

雄国沼のニッコウキスゲ
福島県北塩原村にある雄国沼(おぐにぬま)を訪問してきました。
言わずと知れた会津の名峰磐梯山の隣に位置する、猫魔ヶ岳のカルデラ内に存在する湖沼です。湖畔の湿原にはニッコウキスゲの一大群生地が存在し、面積当たりの生息数は日本一の規模を誇ります。
梅雨の晴れ間を突いて、黄色一面の湿原を散策してきました。

2021年7月3日に旅す。

雄国沼湿原は磐梯朝日国立公園に属する湿原です。磐梯山に隣接する猫魔火山のカルデラ火口内にあります。
雄国沼から見た雄国山
猫魔火山の活動時期は磐梯山よりはるかに古く、推定でおよそ100万年前と考えられています。現在はすでに火山活動は休止状態にあります。

雄国沼の周囲にはニッコウキスゲの群生地が存在し、開花シーズになると多くの人が見物に訪れます。群生地の面積で言えば尾瀬に及びませんが、面積当たりの生息数では日本一の規模となっています。
雄国沼のニッコウキスゲ
今回の訪問時期はピークには少しばかり遅かった状態でしたが、それでもかなりの数が咲いていました。

例年ですと、ニッコウキスゲの開花シーズン中に、雄国沼湿原のすぐ脇にある金沢峠までシャトルバスが運行されています。このバスを利用することで、登山の習慣を持たない人であっても気軽に訪れることが可能でした。

しかし残念ながら、2021年はコロナ渦によりシャトルバスの運行は中止となっています。そんな訳で、道の駅裏磐梯を起点にして、歩いて訪問してきました。

折しも季節は梅雨の盛りで、終日に渡って不安定な天気でした。久方ぶりとなる青空を拝んだ、爽快なる一日の記録です。
磐梯山と虹

コース
雄国沼jのコースマップ
道の駅裏磐梯の駐車場からスタートし、雄国沼せせらぎ探勝路を経て雄国沼へ。湿原を散策後は、雄国沼の全容を見下ろせる雄国山へ登りまます。

下山は元来た道を引き返して道の駅裏磐梯へ。シャトルバスを利用せずに雄国沼をコンパクトに巡る行程です。

1.豪雨の東京を脱出し、晴れ間の広がる裏磐梯を目指す

この日、梅雨らしく東京では朝方から強い雨が降り注いでいました。
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しかしどうやら福島県の上空には、正午頃にかけて僅かに晴れ間が広がりそうな予報です。これはもしかしてワンチャンスあるのではなかろうか。という事でいざ福島に向けて出発します。

本日は、久しぶりに山に登りたいと言う友人が車を出してくれました。

福島県内に入ると、予報の通りに晴れ間が顔を覗かせ始めました。ここ最近久しくお目にかかっていなかった青空を前にして、おのずとテンションも上がろうと言うものです。
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磐梯山は頭だけがすっぽりと雲に覆われていました。これはある意味いつも通りと言える光景で、猪苗代湖の上空に発生した湿った空気が直接ぶつかる位置にある磐梯山は、こんな感じの天気であることが多い山です。
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8時45分 道の駅裏磐梯に到着しました。何故か到着時に写真を撮り忘れてしまったので、これは下山後に撮影したものです。まだ営業開始時刻前の朝の道の駅は、人影も疎らで静かなものでした。
道の駅裏磐梯
雄国沼への登山口の最寄りとなるのは雄子沢川駐車場ですが、こちらの駐車場はあまりキャパシティが大きくなく、よほど朝早くに来ないとすぐに満車となります。

という事で本日は、道の駅裏磐梯から檜原湖の湖畔を延々と歩いてアプローチします。

2.新緑のブナ林が広がる雄国沼せせらぎ探勝路

身支度を整えて、8時50分に行動を開始します。雄子沢登山口まではおおよそ1時間の下道歩きです。
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なお、喜多方方面からやってくる路線バスを利用すれば、この長い下道歩きは省略可能です。ニッコウキスゲの開花シーズン中には臨時便も運行されているようです。

我々は例によって前日の直前になってから行き先を決めたため、これらのバス便の時刻表は全く調べてもいませんでした。という事で、始めからバスは当てにせずにトボトボと歩きます。

この道は檜原湖に沿って続いています。檜原湖は、明治22年に発生した磐梯山の噴火による岩なだれによって形成された堰止湖です。裏磐梯に複数あるこうした堰き止めによる湖沼の中では、最大の面積を持つ湖です。
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裏磐梯の上空はどんよりとした曇り空に覆われていましたが、徐々に青空が見え始めました。これは良い兆候である思いたいところですが、照りつける容赦ない直射差日光により早くも暑くなってきました。
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晴れてほしいような、それでもあまり暑くはなってほしくないような、何とも言い難い気分です。

登山口最寄りの雄子沢川駐車場まで歩いて来ました。ここに車を停められればかなり楽をできますが、前述のとおりニッコウキスゲシーズンは激しい争奪戦が繰り広げられます。
雄子沢川駐車場

雄子沢登山口に到着しました。登山口に人がいて、入山しようとしている人に紙を手渡していました。登山届を出すよう促しているのかと思いきや、そうではないアンケートでした。
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今歩いて来たこの国道459号線は、毎年ニッコウキスゲシーズンになると路上駐車が多発し、路線バスの運行が妨げられるなどの問題が発生しています。

その解消のためにはどうすべきかと言う趣旨のアンケートでした。

アンケートを提出して、9時40分に登山を開始します。
雄子沢登山口

雄国沼に至るこの道には、せせらぎ探勝路と言う名前が付けられています。その名の通り、雄国沼から流れ出す雄子沢のせせらぎが聞こえてくる道です。
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新緑のブナ林に差し込む木漏れ日が実に美しい。初夏と言うのは、山が最も命の躍動感にあふれている季節だと思います。
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せせらぎ探勝路と言う名前からして遊歩道か何かなのかと思えますが、実態としては完全に登山道です。スニーカーでの訪問は避けた方が無難だと思います。
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ニッコウキスゲ見物に来たのであろう、カジュアルな格好をした人と多くすれ違いましたが、彼らは途中で転ぶこともなく無事に帰ることが出来たのでしょうか。

登りきると水平移動に転じて、木道が現れました。過去に木道から滑り落ちて宙を舞った経験のある友人は、表面が濡れている木道が軽いトラウマになっているらしく、目に見えて腰が引けていました。
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木道地帯を抜けると、分岐地点が現れました。左へ進むと雄国沼方面で、右へ行くと雄国山があります。まずは目的地である雄国沼へと向かいます。
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沼に向かって、今度は緩やかに下ります。雄国沼はカルデラの底にあるため、どこから登るにしても外輪山を乗り越える必要があります。
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山と高原地図にも記載がある水場がありました。このところの長雨が原因なのか、汲んでみたらかなり泥が混じっていました。この水場はあまり当てにはしない方が良いかも。
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やがて森が切れて、人工物が現れました。
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10時40分 雄国沼休憩舎に到着しました。避難小屋を兼ねている建物ですが、休憩所として利用されています。チップ制のトイレもあります。
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小屋の前にあるベコ岩です。どの辺りが牛なのかはよくわかりません。
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この休憩所まで登って来れば、もう目の前に雄国沼がドーンと広がるものだと思い込んでおりましたが、まだすこし距離が離れています。
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3.目の前にあるようで、意外と遠い雄国沼への道程

あらためて地図を広げてみたところ、雄国沼休憩舎から湿原までは、標準コースタイムで25分と書かれていました。なんだ、まだそんなに距離がありましたか。
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周囲はすべて山に囲われています。ここがカルデラの底なのだという事が良くわかる光景です。
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頭上には、夏の雲以外の何物でもない積乱雲がモクモクと育ちつつありました。あの雲の下は、間違いなく夕立に見舞われていそうです。
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草原上に黄色い花がポツポツと咲いているのが見えます。ニッコウキスゲなのでしょうけれど、日本一の密度の群生地と言うには何やら心許ない規模です。この先にもっと密生している場所があるのかな。
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金沢峠方面と雄国沼方面の分岐地点が現れました。ここは当然ながら雄国沼へ進みます。
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この期に及んで小刻みにアップダウンを繰り返し、なかなか湖畔へと辿り着きません。勿体付けてくれますな。
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ここに来て、曇っていた頭上が晴れ始めました。まるで、遠路はるばるやって来た我々の到着を待っていてくれたかのような、完璧過ぎるタイミングでした。
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本日の行き先に福島を選んだのは、我ながら冴え渡った判断であったようです。

11時 雄国沼湿の散策路入口に到着しました。この先はニッコウキスゲの群生地内を巡り歩けるように、木道が整備されています。さあて、花は咲いていてくれるのかな。
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4.ニッコウキスゲの楽園、雄国沼を散策する

湿原の先に見えているのは、猫魔火山外輪山の最高地点である猫魔ヶ岳(1,404m)です。金沢峠からだと、大体2時間ほどで登頂できるようです。
雄国沼から見た猫魔ヶ岳

先へ進むと、ニッコウキスゲが沢山咲いてる一帯が現れました。おー、咲いてる咲いてる。
雄国沼のニッコウキスゲ

最盛期になると、湿原の表面すべてが黄色一色に埋め尽くされるような規模で咲き誇るのだとか。2021年の開花のピークは例年よりもかなり早かったらしく、すでに終わりに近づきつつあるタイミングでした。
雄国沼のニッコウキスゲ

雄国沼と言うとニッコウキスゲばかりが注目されがちですが、アヤメの群生地でもあります。アヤメの方もほとんど終わりかけ状態ではありましたが、黄色と紫の競演を繰り広げていました。
雄国沼のニッコウキスゲとアヤメ

コバイケイソウも負けじと咲き誇ります。こちらは逆に、まだ咲き始めたばかりのタイミングでした。
雄国沼のコバイケイソウ

圧縮効果により、群生の度合いを強調してみた一枚。全盛期はこんなものではないようですが、まあそれでもこれだけ残ってくれていれば上出来でしょう。
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ニッコウキスゲを眺めつつ、この先の予定について検討しました。猫魔ヶ岳まで足を延ばしてみたい気もしますが、しかし想定外の暑さですでに水を大量に消費してしまっています。
雄国沼のニッコウキスゲ

猫魔ヶ岳まで行くのは少々厳しそうなので、この湖畔に立つ雄国山をサクッと往復しようと言う線で予定を決めました。その場の思い付きで次の行動を決める、相も変わらずの山ナメな中年二人組です。
雄国沼から見た雄国山

次の予定も決まったところで、湿原を後にして休憩舎へと引き返します。
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それにしても凄まじい暑さです。雄国沼があるのは標高は1,000メートル少々の地点で、低山の範疇に含まれる高さしかありません。もうすっかり、低山歩きが辛い季節になってしまいましたな。
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雄国沼休憩舎まで戻って来ました。さて、ここからは後半戦です。思い付きで決めた雄国山へとを足を進めます。
雄国沼休憩舎

5.雄国沼の全容を見下ろす好展望地、雄国山

往路に通った分岐地点から、雄国山方面へと足を踏み入れます。
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樹林帯の緩やか登りとなりました。照りつける直射日光から解放されて、一時のクールダウンタイムです。
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しかし、そんな安息は束の間でしかありませんでした。すぐにまた頭上の開けた炎天下へと放り出されました。暑い、暑すぎる。
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振り返ると、雄国沼の全容が視界に飛び込んできました。実に素晴らしい光景です。何の事前情報もなしに何となくノリと勢いだけで決めた雄国山行きでしたが、こんなにも眺望に優れた山だとは思っていませんでした。
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こちらは猫魔ヶ岳へと続く外輪山の稜線です。猫魔ヶ岳もまた、雄国沼の格好の展望台であるようですが、手軽さで言えば雄国山の方に軍配が上がろうかと思います。
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もっとサクッと往復できるのかと思いきや、意外とガッツリ登らされます。いや、従来であればなんてことは無い登りなのですが、この時はすっかり暑さにやられてグロッキー状態になりかけていました。
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頂上に着いたと思ったら、登り切った先にさらなるピークが現れる。これを繰り返す山のことを、私はタマネギ山と呼んでいます。幸いにも、雄国山のタマネギには皮が一枚しかありませんでしたが。
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11時 雄国山に登頂しました。途中からは一切日影が無く、なかなか容赦のない道程でありました。まあ、そのおかげで眺めが抜群に良い訳なんですけれどね。
雄国山の山頂

山頂からは、これまでは全く見えていなかった、会津方面の展望が開けました。
雄国山からの展望

眼下に見えるこの街並みは喜多方の市街地なのかな。なんだか無性にラーメンが食べたくなってきましたよ。
雄国山からの展望

喜多方の北側には朝日連峰の山並みが連なっているはずなのですが、残念ながらこの通り雲隠れ中でした。
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北側の展望もちょこっとだけ存在ます。見えているのは恐らく吾妻連峰の山並みです。
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6.元来た道を引き返し、道の駅裏磐梯へと戻る

12時50分 名残惜しくはありますが、日陰の無い山頂に長く留まっていると日干しになってしまいそうなので、ボチボチ下山に移りましょう。
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途中に雄国沼の全容を俯瞰できる格好のビュースポットがありました。こうして上から見ると、まるで絵に描いたかのようなカルデラ湖ですね。
雄国山から見た雄国沼

磐梯山の火口壁がちょこっとだけ見えました。あちらは積乱雲に頭上を覆われてしまっており、見るからに夕立が降っていそうな状態です。
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想定外の素晴らしきに眺望を前に、暫し見入ります。
3雄国山から見た雄国沼の木道

先ほどグルっと一周散策した、雄国沼の木道が見えます。最盛期には上から見て真っ黄色になるらしいのですが、やはり疎らですね。訪問が少し遅かったようです。
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足元に雄国沼休憩舎の三角屋根が見えました。
雄国山から見た雄国沼

この時間になっても、まるで雄国沼の上空だけが何かの力に守られているかのように、晴れ状態が続いていました。今日は何もかもがうまくいってしまう一日でありましたな。
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さあ、帰ろう。もと来たせせらぎ探勝路を引き返します。朝にはグチャグチャの泥まみれだった道も、帰路では少しはましな状態になっていました。
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見上げる高さのブナの巨木です。ニッコウキスゲばかりが注目されそうな雄国沼ですが、このせせらぎ探勝路の雰囲気の良さもなかなか侮れません。
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14時 雄子沢登山口に戻って来ました。この時間になっても、アンケート係の人がまだ入り口で頑張っていました。ひょっとして、彼らは一日中ここに居るのでしょうか。
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雄子沢川駐車場に車を止めている人は、きっと達成感でいっぱいになる瞬間な事でしょう。我々はまだ、道の駅まで戻らなければなりませんがね。
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駐車場でシャトルバスを待っても良いのですが、すぐにはやってこない時間帯であったため、結局帰りも道の駅まで歩いて戻りました。
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14時50分 道の駅裏磐梯へ戻って来ました。この時間ともなると、流石にもう停まっている車の数も少なく、閑散としていました。
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下山後は、アンケートに回答した時に割引券を貰ったラビスパ裏磐梯と言う日帰り入浴施設に立ち寄りました。これと言って特筆すべき点もない、ごく一般的な入浴施設です。
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ここで風呂に入っているタイミングで、大粒の雨が降り注ぎ始めました。まさに滑り込みセーフののタイミングだったようで。やはり今日は、なにもかもがうまくいってしまった一日でありましたな。

ひとしきりゲリラ豪雨が降り込めた後には、磐梯山に架かる虹の姿を拝むことが出来ました。ちょうど会津慈母大観音の真上にかっており、神々しさが増していました。
虹と磐梯山"

最後の最後に思わぬお見送りを貰いながら、東京への長い長い帰宅の途に付きました。
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こうして福島への訪問は、なにもかもがうまくいってしまった大満足の内に幕を閉じました。最盛期のタイミングは逸してしまったものの、話に聞く雄国沼のニッコウキスゲ群生は、実に見事なものでありました。来年以降は、流石に金沢峠へのシャトルバス運行は復活しているかな。
シャトルバスを使えば簡単に見に行ける場所で張りますが、せせらぎ探勝路のブナ林は一見の価値ありです。という事で、裏磐梯から己の足だけを頼りに訪れてみては如何でしょうか。

<コースタイム>
道の駅裏磐梯(8:50)-雄子沢登山口(9:40)-雄国沼休憩舎(10:40)-雄国沼(11:00~11:40)-雄国山(12:35~12:50)-雄子沢登山口(14:00)-道の駅裏磐梯(14:50)

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最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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