山梨県山梨市にある小楢山(こならやま)に登りました。
甲府盆地のすぐ傍にあり、奥秩父山塊の前衛部に位置する山です。北側には通称乙女高原と呼ばれる高原台地が広がっており、標高1,500メートル地点の焼山峠まで車で入ることが可能です。比較的手軽に登ることの可能な山ながら、山頂からの眺望は素晴らしく、知る人ぞ知る名山です。
快晴の秋空のもと、甲府盆地と富士山を一望する山と温泉を巡って来ました。
2020年10月25日に旅す。
小楢山は奥秩父山塊の盟主、金峰山の手前に位置する前衛の山です。乙女高原と呼ばれる高原台地の傍らにあり、比較的緩やかな山容をした、二つの頂を持つ双耳峰です。
里から近い場所だけに、古くから人との関わりの強い山です。かつては古那羅山とも呼ばれ、室町時代初期の高僧である夢窓疎石(むそうそせき)が修行したと言う伝説が残っています。
麓から登ればそれなりに標高差のある小楢山ですが、通称クリスタルラインと呼ばれる林道が山頂付近を通っており、標高1,500メートル地点の焼山峠まで車での乗り入れることができます。
この焼山峠へは、栄和交通が運行する乗り合いバスも運行されており、公共交通機関によるアプローチも可能です。
山頂からの眺望は圧巻です。空には雲一つない見事な快晴で、爽快な秋の一日でした。
コース
柳平(やなぎだいら)バス停から、焼山峠を経由して小楢山に登頂します。下山は南側にある鼓川温泉を目指して下ります。温泉に向かって歩く、理想的な行程です。
1.小楢山登山 アプローチ編 乗合バスで、奥秩父の懐に広がる乙女高原へ
6時12分 JR高尾駅
山梨方面へお出かけの際に毎度恒例の、6時14分発松本行きの鈍行列車に乗り込み、塩山駅へと向かいます。
7時23分 塩山駅に到着しました。大勢のハイカー達が一斉に下車し、問答無用で人波に押し流されました。今日は格好の登山日和ですからね。
栄和交通が運行する大弛峠行きの乗り合いバスに乗車します。以前に金峰山へ登った際にも乗車した路線です。
なお、この路線は完全予約制です。当日に並んでも乗車はできませんのでご注意ください。下車予定の柳平までの運賃は950円です。
8時5分 柳平に到着しました。ここで下車したのは私一人だけでした。他の乗客たちのお目当ては金峰山であるようですな。
ちなみに事前に予約しておけば、乗り合いバスはこの先の焼山峠まで行ってくれます。私は乙女湖周囲の散策もしたかったので、あえてここでの下車を選択しました。
登山口に降り立った時点から、素晴らしい紅葉が出迎えてくれました。これは、この先の道すがらの紅葉にも、大いに期待ができそうです。
これから目指す小楢山は乙女湖の背後にあるはずですが、角度的な問題で柳平からでは見えません。
周囲が一面ススキに覆われて、ススキ畑状態です。うーん、秋ですねえ。
身支度を整えて、8時10分に行動開始です。焼山峠方面に向かって道なりに進みます。
橋を渡ってすぐに柳平トンネルをくぐります。照明のないトンネルですが、距離が短いのでライトなしでも歩けます。
期待していた通り、乙女湖周辺の紅葉はまさに見頃のド真ん中でした。陽の光浴びて黄金色に輝く楓の美しさよ。
大きくカーブしつつ橋を渡ります。先ほどのトンネルといい、道が林道らしからぬ高規格な造りなのは、観光地として売り出そうという意図があったからなのでしょう。
乙女湖の全容が見えました。この湖は琴川(ことがわ)ダムによって作られた人工湖で、洪水調節と上水道用水の確保を目的としています。
湖の周囲をグルっと一周できる散策路も整備されています。流石に一周して行くだけの時間の猶予は無いので、今日は対岸から眺めるだけです。
ダム湖に滞留している湖水と言うのは、どうしたって多少は濁ってしまうものです。それでも、乙女湖の水は素晴らしい透明度であるのが橋の上からでも良く分かります。生活排水が一切流入しない環境下にあるからでしょう。
やがて道は湖から離れ、焼山峠に向かって緩やかに標高をあげて行きます。この林道は通称クリスタルラインと呼ばれており、甲府盆地の北に広がる、標高1,000メートル前後の山岳地帯を横断しています。
8時45分 焼山峠まで登って来ました。車でお越しの人はここまで入ってこれます。また前述の通り、事前予約していれば乗合バスでも来れます。
2.小楢山登山 登頂編 甲府盆地と富士山を一望する好展望の頂へ
ここからようやく登山道が始まります。この先にはもうトイレは無いので、用はここで済ませておきましょう。
登山口を入ってすぐのところに、子授地蔵があります。子供を望む夫婦が地蔵を一体持ち帰り、無事子宝に恵まれたら2体にして返すと言う習わしがあるのだそうです。鳳凰三山の地蔵岳にあるものと同じです。
比較的新しそうに見える地蔵もありました。この子授の信仰は、現在においても脈々と受け継がれ続けているようです。
歩き始めから広々とした歩きやすい道が続きます。もとは防火帯であったのかと思わせるような道の幅があります。
南に向かって歩いて行くルートなので、この時間帯だと必然的に常に逆光です。頭上から降り注ぐ陽の光が、眩しいけれど実に心地よい。
登り一辺倒ではなく、緩やかにアップダウンを繰り返します。とは言っても、焼山峠から小楢山山頂までの標高差は300メートル未満です。峠から往復する分には、高尾山レベルの山だと言えます。
陽に照らされて眩いばかりに輝く紅葉が沿道を飾ります。一番良い時期に訪問することが出来たようでなによりです。
9時25分 旧道と新道の分岐地点まで登って来ました。道標によると、新道の方は「つつじあり、見晴らし良い」とのことです。
ツツジの方はシーズンではないにしろ、見晴らし良いと言われてしまっては、行かない訳にも参りません。
と言うことで新道へと進みます。ここまでの緩やかな道から一転、いきなりの急坂になりました。
登り切った所で背後を振り返ると、確かに視界が少し開けました。まさか見晴らし良いと言っているのは、この光景の事なのでしょうか。まあ、良いと言えばよいけれど正直イマイチです。
旧道はトラバースで、新道は忠実に尾根を辿ると言う、ただそれだけの違いであるようです。どちらを選んでも、所要時間に大差はありません。
この新道の道中に、的岩なる岩があります。一見すると、何の変哲もないただの岩です。
この岩の特徴は、横へと回り込んでみて初めてわかります。薄い板の様な姿をしており、これが射的の的のようであると言うのが名称の由来となっています。
旧道と合流したところで、前方に山頂らしき場所が見えてきました。登山開始からはまだ1時間とたっていません。焼山峠スタートだと、本当にあっけない山です。
山頂を通らずに巻ける道もあります。ここまで来ておいて巻き道へ進む理由はないので、山頂へ向かいます。
山と高原地図を見ると、この地点には水場のアイコンがありますが、恐らくはこれの事でしょう。水流は全くなく、地面が少しぬかるんでいるだけでした。
季節にもよるのかもしれませんが、この水場はあまり当てにはしない方が良さそうです。
山頂直下最後登りです。小楢山と言う名称の通りに、山頂付近には見事なコナラ林が広がっていました。
この山はもともと古那羅山と言う名前でしたが、難読な上にたまたまコナラが多いからと言う理由で、いつの間にか小楢山に改名されてしまったのだとか。
山頂が見えて来ました。いかにも眺めの良さそうな光景に、期待が膨らみます。
9時50分 小楢山に登頂しました。毎度おなじみの山梨百名山でございます。焼山峠からは1時間5分での到着でした。
山頂の様子
広々とした空間が広がっており、丸太のベンチもいくつか整備されています。眺めの良さも相成って休憩向きな場所です。
3.小楢山山頂から望む大展望
小楢山は眺めが良いと言う評判は前々から耳にはしていましたが、はたして想像を上回る光景が広がっていました。
この通り、富士山が目の前にドーンと見えます。まあ身も蓋もないことを言ってしまうと、この界隈にある山からであれば、大抵はどこからでも見えはしますが。
鳳凰三山背後に白根三山が並び立ちます。白根三山の方は、すでに冠雪して白くなっていますね。
さらに南に視界を転じると、悪沢岳(3,141m)、赤石岳(3,120m)、聖岳(3,013m)などの南アルプス南部の山並みが連なります。何れも「登りたい山リスト」に名を連ねている山です。来年こそ登れるかな。
眼下には塩山の街並みが広がります。こうして上から良く見えると言うことは、逆に塩山駅付近から小楢山の姿は良く見えるという事ですな。あまり気にしたこともありませんでしたが。
左手に見えているのは大菩薩嶺(2,057m)です。小楢山と同様に、手軽に登れてかつ眺めの良いことで知られた山です。
あちらは全国区の知名度を持つ大人気な山なのに、眺望に関しては少しも引けを取っていない小楢山の知名度が今一つ無いのは、やはり日本百名山の肩書がもつブランドパワーの差でしょうかね。
視界が開けているのは南側だけで、背後の北側には展望がありません。木の隙間から、金峰山(2,599m)の姿がちょこっとだけ見えました。
冒頭でも触れましたが、小楢山は二つの頂を持つ双耳峰です。こちらがもう一つのピークである小沢山頭です。このあとの下山ルートで越えて行きます。
いやはや、それにしても素晴らしき眺望でありました。かくも大絶景の山が、さほどの知名度もなく半ば埋もれているのは、とても勿体ない事だと思います。
4.小楢山のもう一つの好展望地、幕岩
10時25分 素晴らしき眺めを前に、ついつい長居が過ぎました。ボチボチ下山に移ります。
下山予定地点の皷川温泉はバスの本数がとても少なく、実はあまり時間に予裕がありません。ゆっくりしすぎていると、下山後に温泉に立ち寄れる時間が無くなってしまいます。
時間がないと言いつつも、こうして紅葉を見かけると、ついつい立ち止まってカメラを向けてしまいます。良い色に紅葉してますねえ。
程なく小楢峠まで下って来ました。先ほどの巻き道との合流地点です。ここから下山することも出来ますが、その場合は結構な長さの舗装道路を歩くことになります。
峠からは小沢山頭に向かって緩やかに登り返します。山頂にあれほど多くいた登山者の姿を、全く見かけなくなりました。山頂にいた人達は皆、焼山峠からのピストンなのでしょう。
標高的にちょうど紅葉の最盛期らしく、どちらに視線を向けても色鮮やかな赤と黄色に輝いていました。
やがて前方に、幕岩と呼ばれる大岩が姿を現しました。登山道はこの岩を避けるように右から回り込みますが、実は登ることも可能です。
あまり時間に余裕はありませんが、しかし登れるとあっては無視するわけにも参りません。立ち寄って行きましょう。
足を乗せられるステップは豊富にあり、特に難しい要素はありません。横着してストックを手首からぶら下げたままの状態で登ろうとでもしない限りは、難なく登れることでしょう。
という事で、ストックが邪魔で若干苦戦したものの、無事に岩の上へと立ちました。
つい先ほどまで居た小楢山の姿が真正面に見えました。南側から見ると、コナラではなくカラマツに全体が覆われていました。
山頂の人影も何となく見えます。ためにしに手を振ってみましたが、なにもリアクションは得られませんでした。
小楢山の山頂からは全く見ることの出来なかった、奥秩父主脈の山並みが一望できます。
中でもやはり一番目立つのは金峰山です。山頂にある五丈岩のおかげで、山座同定は容易です。
それにしても素晴らしい快晴の空です。今日金峰山に登った人たちは、大勝利であったことでしょう。
西に目を向けると、八ヶ岳連峰の山々がひょっこりと頭だを覗かせていました。こちらはまだ雪を被ってはいないようです。
続いて反対側の北東方向の眺めです。この山頂部が岩剥き出しになっている山は乾徳山(2,031m)です。だいぶ以前に一回登りましたが、アスレチックな楽しい山でしたよ。
東には、富士山に向かって歩く魅惑の山並み、小金沢連嶺が連なります。甲州アルプスという名称を広めようとしているようですが、あまり普及してはいません。
最後に南側です。小沢山頭の山頂が目の前にあります。眺めの良さからして、この幕岩こそが事実上の山頂であると考えた方が良いかもしれません。
帰りは横着せずに、ちゃんとストックを収容してから下りました。
11時10分 大沢山頭に登頂しました。広義にはここも小楢山の一部ですが、山頂標識上は別のピークとして扱われていました。
山頂の様子
周囲を灌木に囲われており、展望はありません。山と高原地図には大展望との記載がありますが、それは恐らく幕岩のことを言っているものと思われます。
5.小楢山登山 下山編 不明瞭な道と登り返しを乗り越え、鼓川温泉へ
大沢山頭を過ぎると、足元の踏み跡がかなり不明瞭な状態となりました。このルートを歩く人は、あまり多くは無いようですな。
全神経を足元に集中し、踏み跡の気配を感じながら下って行きます。長い年月にわたって踏み固められてきた道と言うのは、足の裏の感触だけで何となくわかるものです。
少しでも地面の柔らかさに違和感を感じたら、その時は立ち止まって周囲をよく観察しましょう。たとえ薮に埋もれかけていようとも、正しい道筋はなんとくなく見えてくるものです。
天狗岩と呼ばれる地点へ下ってきました。道標には展望台との記載があります。
どれどれと思い登ってみましたが、全く展望はありません。おや、これのどこが展望台なのでしょうか。
木の間からちょこっとだけ金峰山が見えました。この目の間の木が育ってくる以前は、眺めが良かったのでしょうかね。
横から見ると、なかなか立派な大岩です。ですが、やはり全体が木々に覆われており、展望は無いように見えます。
気を取り直して下山を続けましょう。相変わらずの、気持ちの良い紅葉の道が続きます。
陽の光に照らされて輝く姿が実に美しい。曇り空ではこうは行きません。やはり紅葉見物は、晴れていてナンボですよね。
一部にヤセ尾根になっている場所もあります。特に危険と言うほどでもありませんが、落ちたらただでは済まないのでここは慎重に。
またもや展望台を名乗る、みだれ岩なる場所にやって来ました。さて今度はどんな感じでしょうか。
今度はバッチリです。とは言っても、山頂からの眺めには遠く及びませんが。
ここで一度林道を横断します。一次ノ峠と呼ばれている場所です。
峠という事はすなわち、ここからは登り返しです。既に頭が温泉モードに切り替わっている私としては気乗りしませんが、しかし道がそうなっている以上は従うしかありません。
相変わらず踏み跡は不明瞭です。本当にここであっているのか不安になる様な急勾配の斜面を登り返します。
12時30分 差山に登頂しました。展望も何もない、ただの通り道と言った所です。
小刻みにアップダウンを繰り返しつつ、尾根に沿って進みます。途中に岩場もあり、なかなか険しいルートです。
この鼓川温泉のルート、山と高原地図では実線扱いされていますが、破線ルートであってもおかしくないように感じられます。全般的に踏み跡が不明瞭で、分かりにくい道です。
13時 妙見山に到着しました。ここがこのルート最後の登り返しとなります。あとは温泉にむかって下って行くだけです。
周囲はいつしか、まるで奥多摩の様な杉の植林に変わっていました。人里に近づきつつある証です。
途中に一ヵ所平坦地がありました。地図上で牧平山とかかれている地点です。牧平山と書いて「ごんばち」と読むらしいです。不思議な読み方ですね。
動物よけの柵を越えればゴールです。ゴールなのですが、柵を越えた最後の最後で道が完全に藪に覆われており、しばし迷いました。
結局正しい道筋を見つけられず、薮の中を強引に横断しました。柵を出たところで、左右のどちらに進むの正解だったのでか、いまだにわからずじまいです。
13時50分 鼓川温泉に到着しました。帰りのバスは14時46分発なので、色々と寄り道した割には、十分すぎるほどの入浴時間を確保できました。
コロナウィルス感染症対策のため、現在鼓川温泉では入場数に制限を加えています。事前予約している人が優先されるため、混雑状況にによっては入場出来ません。
幸いにも本日は割と空いており、スムーズに入れました。入浴料は510円です。泉質は強アルカリ性で、所謂美肌の湯です。肌がツルツルになります。
ひと風呂浴びてサッパリしたところで撤収です。なお、この牧丘町の市民バスは塩山駅までは直接行ってはくれず、窪平までの運行となります。
バスの車内で乗客の一人に「大楢山に登って来たのですか?」と聞かれて、若干の違和感を覚えつつも「はい」と答えてしまいました。大楢山じゃなくて小楢山だよね。
窪平で塩山行きのバスを待ちます。乗り継ぎはあまりスムーズではなく、20分程の待ち時間がありました。
西沢渓谷からの乗客を満載した塩山行きのバスに乗り込み、帰宅の途に付きました。
かくして最高の秋晴れに恵まれた小楢山登山は、大満足の内に幕を閉じました。小楢山は、山梨百名山と言う肩書しか持たない比較的マイナーな存在の山ではありますが、山頂からの眺望は一級品でありました。あまりその存在が知られずに埋もれしまっているのは、とてももったいない事であると思います。マイカーのある人にもない人にも、あらゆる人に対し自信をもってオススメいたします。
<コースタイム>
柳平BS(8:10)-焼山峠(8:45)-小楢山(9:50~10:25)-大沢山頭(11:10)-差山(12:30)-妙見山(13:00)-鼓川温泉(13:50)
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
コメント
小楢山いいですね!しかも温泉付き。私はこれからの季節の、近場の電車で行ける絶景低山が大好きです。ぜひ同じルートで訪ねたみたいと思います。また素敵な山を紹介してくださいね。
コメントを頂きましてありがとうございます。
栄和交通が運行する焼山峠線には冬期運休期間があり、11月下旬で終了です。冬の間は、この記事と同じルートは辿れませんのでご注意ください。