群馬県渋川市、沼田市および高山村にまたがる子持山(こもちやま)に登りました。
群馬県中部の利根川を挟んで赤城山の向かいにある古い時代の火山です。浸食が進み溶岩石が露出した険しい山容を持ち、古くから修験の対象にもなってきた岩峰です。特に中腹にある獅子岩(大黒岩)が有名で、ロッククライミングの対象にもなっています。
ヤマツツジが見頃を迎えた、新緑に萌える山を巡って来ました。
2023年5月27日に旅す。
子持山は利根川を挟んで赤城山の向かいに立つ山です。全国区の知名度を持つ山ではありませんが、ぐんま百名山にも選ばれている地元の登山者に人気の一座です。
およそ50~90万年ほど前に活動していたと推定される古い時代の火山で、現在は浸食のよる開析が大きく進み、火山内部の岩脈が地表付近に露出した独特な景観を作り出しています。
中でも圧巻なのがこのほぼ垂直に屹立した獅子岩(大黒岩)です。地中から噴出したマグマが通り道で冷え固まって岩化したもで、難解な地質学用語で言うところの火山岩頸(かざんがんけい)と呼ばれているものです。
岩壁の高さは100メートルほどあり、ロッククライミングの登攀の対象にもなっています。裏側から登る一般登山もしっかりと存在します。子持山における象徴的な存在です。
もう一つ新緑シーズンの子持山で忘れてはいけないのがヤマツツジです。訪問のタイミングとしては完璧で、見頃のど真ん中を迎えていました。
オレンジも鮮やかなツツジに彩られた、群馬県のマイナーな山を巡って来た一日の記録です。
コース
子持山の中腹にある5号橋駐車場を起点に周回します。7号橋登山口から獅子岩を経由して子持山へ。下山は途中の柳木ヶ峰から浅間山を経由して5号橋駐車場に戻ります。
行動時間5時間30分程の比較的手軽な行程です。ただし、かつては修験の山であったと言う事実が物語る通り、決して易しい山ではありません。
1.子持山登山 アプローチ編 関越道でゆく群馬県中部への旅路
本日は僻地専門登山家の友人に車を出してもらい、おっさん2人旅です。関越自動車道を快調に進みます。関越道は乗ってしまえば快適なのですが、毎度のことながら大泉までの東京脱出が一番の核心部でした。
渋川伊香保インターで高速を降りた後は、国道17号沿いにひたすら北上します。正面に目指す子持山の姿が良く見えました。こうして見るとかなり存在感のある山です。
子持山の麓の一帯はかつて子持村と言う名称でしたが、平成の大合併により消滅し現在は渋川市の一部です。
子持山と書かれた案内板が現れたところで左に入り、後はひたすら道なりです。特に迷うような要素はありません。
子持神社表参道入口の鳥居をくぐって道なりに進みます。子持山は古くから修験の対象となってきた信仰の山で、麓の子持神社から登り始めると、それなりに骨のある山です。
路面の舗装こそ若干荒れ気味ではありますが、甲斐南部の山の林道と比べれば全然走りやすい道が続いていました。そもそも比較する対象がおかしい。
7時23分 5号橋駐車場に到着しました。このさらに先にある7号橋まで車で入ることが可能ですが、周回ルートを取る都合上、ここを起点としました。
この案内板を見れば一目瞭然ですが、現在地はすでに山のほぼ中間地点です。山頂までの標高差は600メートル少々しかありません。アップダウンはそれなりにあるので累計するともう少しありますが、そこまでキツくはない行程です。
2.地表に露出した放射状岩脈の屏風岩
7時40分 身支度を整えて登山を開始します。この先にある7号橋登山口までは、しばしの舗装道路歩きです。
ここは上水道の取水地であると言う事で、川へ立ち入るのは禁止されています。当然、立小便などはもってのほかです。トイレはこの先の7号橋の近くにあります。
取水のための小さな堤がありました。新緑の木々を映したリフレクションが綺麗ですね。
程なく6号橋登山口が現れました。ここから登り始めることも出来ますが、この先にある屏風岩を見て行きたいので、ここは見送ります。
道の両側を囲むように、地表に露出した岩脈の姿が見に付きます。これはもともとは火山の内部にあったはずものが、長年の浸食により地表の露出したものです。
5号橋から10分程歩いたところで、7号橋までやって来ました。前述の通りここにも駐車スぺ―スがあり、トイレもあります。
山ではよく見かけるこのようなクマへの注意喚起の案内板は、作成した自治体によって意匠が異なり見ていて飽きません。渋川市の設置したものは漫画的な絵柄です。
7号橋を渡ってすぐの場所に、岩窟を背にした子持神社の奥の院があります。子持神社の正確な創建年代は不明ですが、西暦で言うと9世紀ごろには既に存在していたと言う記録があります。
7時55分 7号橋登山口まで歩いて来ました。ここから山道へと分け入って行きます。
登り始めて早々に、いきなりスリップ木道に行く手を阻まれる。表面が僅かに湿っているだけなのに、おそろしく滑るんですけれど。これで雨が降っていた日には、目も当てられません。
登り始めて早々に、見上げる高さの岩の壁が現れました。屏風岩と呼ばれている岩脈です。
この屏風岩は難解な地質学用語でいうところの放射状岩脈と呼ばれているもので、地下のマグマが岩盤の裂け目を沿って放射状に広がり冷え固まったものです。
もともとは火山の奥深くに埋もれていたものですが、長年の浸食により脆い凝灰岩の層がすべて失われ、火山の内部構造が地表に露出した状態となっています。
3.獅子岩を目の前に望む展望岩
屏風岩を横目にしながら、沢と完全に一体化した登山道を進みます。先ほどのスリップ木道の件もあるので、雨の日の訪問は避けた方が良い山だと思います。
名前の通り、屏風のように長々と岩の壁が続いています。これがかつては火山の内部にあった溶岩石であるとは、にわかには信じがたいで話です。
詩文らしきもの書かれた石碑がありました。このペンキで書かれたアンテナ記号のようなものは、一体何を現しているのだろろうか。
沢沿いを離れると、周囲はまるで奥多摩のような杉の植林になりました。この光景は長く続かないので心配無用です。
杉の植林を抜けると、周囲はナラやクヌギなどの広葉樹の森に変わりました。子持山はツツジの名所として知られている山ですが、紅葉シ―ズンの訪問も良さげです。
ああちなみに、尾根に出るまではけっこうな急登が続きます。気合を入れて参りましょう。
6号橋からの登山道と合流しました。こちらのルートから登ってくると先ほどの屏風岩を見ることが出来ないので、あえてこちらを選ぶ理由はあまりないと思います。
この先危険と書かれた案内がありますが、こちらへ進むと獅子岩のクライミングルートに入ってしまいます。一般登山者は素直に子持山と書かれた方へ進みましょう。
8時40分 尾根まで登って来ました。これでいったん急登は終わり・・・とはならず、この先も獅子岩までは急な登りが続きます。
子持山へ向かうにはここを左に進むのですが、反対方向に展望岩なる場所があるらしいので、立ち寄って行きましょう。
両側が切れ落ちた痩せ尾根上を5分程進むと、周囲が開けて来ました。
岩の上に出て展望が開けました。前方にはのっぺりと横に長い赤城山の姿が見えます。
この展望岩の真骨頂は周囲の眺めではなく、背後に見える獅子岩です。初見で思わず飲み物を吹き出しそうになるような姿をしていますが、背後から登れる一般登山道がちゃんと存在します。当然、この後に登りますよ。
この獅子岩は火山岩頸と呼ばれるもで、放射状岩脈である先ほどの屏風岩とは異なる過程を経て形成されています。
地中深くにあるマグマだまりから地表に向かってマグマが噴出する通り道の事を火道と言いますが、この獅子岩は火道に残っていたマグマが冷え固まって形成されたものです。
つまりは、もともとはこの岩の真上が噴火口だった言う事です。火道の周囲を覆っていた山体が浸食により全て失われて、中心にあった堅固な溶岩石だけが残りこのような姿となっています。
最大望遠で覗いてみると、岩に張り付いているクライマーがいました。そんな手掛かりもないもない所を登るものなんですね。
前方には関東平野が広がっているはずですが、気温が高めなためかモヤーっと霞んでいて遠くは見えません。
足元は断崖絶壁です。ファインダーを覗くのにあまり夢中になりすぎないように注意を要します。
4.子持山のシンボル、獅子岩に登る
いつまでも見上げていないで、そろそろ出発しましょう。クライミングルートではない一般登山は、岩壁との直接対決を避けるように北側から回り込みます。
あれだけ急峻な姿をしている訳ですから、当然ながら登山道の方もなかなかの急勾配です。横着してそのまま登ってしまいましたが、ストックは邪魔になるので収容した方が良いかもしれない。
ヤマツツジがチラホラと咲いていましたが、もう既に終わりかけです。本命はもっと標高の高い一帯です。
分岐地点まで登って来ました。ここからサクっと獅子岩を往復します。
取って付けたかのような急勾配の道を登りきると、ほぼ垂直に立つ岩壁の下にある広場のような場所に出ました。
獅子岩についての案内板が掲げられています。つい先ほど解説した内容の大半は、この案内板に書かれていた事の受け売りです。
先へ進むと行きどまりの断崖絶壁です。先ほどのクライミングルートを登り切ると、どうやらここに出るようです。
ここから獅子岩のてっぺんに登るには、この鉄の梯子を登ります。固定されていない、いわゆる縄梯子タイプの梯子です。
当然ながら登ると大きく揺れます。つま先をしっかりとかけられない場所もあったりして、なかなかスリリングです。修験の山らしくて良いではないですか。
梯子を登りきると今度はクサリです。取り掛かりはほぼ垂直ですが、岩の表面につま先を書けるためのステップが切られているので、特に難しい要素はありません。
9時10分 獅子岩に登頂しました。展望岩から見上げた時はどうなるかと思いましたが、特に難なく登ってこれました。
向かいに群馬県の誇り赤城山(1,828m)が大きく裾野を広げています。ここからだと見えませんが、赤城山と子持山の間に利根川が流れています。綾戸峡と呼ばれる、古くから交通の難所であった場所です。
これから向かう子持山の山頂が見えました。先ほども述べた通りかつて子持山の噴火口があったのは今いる獅子岩であり、現在の子持山の山頂はかつてのカルデラの切れ端です。
もうすぐそこの様にも見えますが、ここからまだあと1時間以上を要します。
5.子持山登山 登頂編 ツツジに彩られた尾根道を辿り頂を目指す
先ほどからスズメバチが周囲をブンブン飛び回っていて落ち着きません。登って来て早々ですが、追い立てられるようにして引き返します。
片側が切れ落ちた、油断のならない道がしばしの間続きます。過去に滑落死亡事故も発生している山なので、慎重に歩きましょう。
ここからはお持ちかねのヤマツツジロードが始まります。訪問のタイミングが少し遅かったのではないかと懸念していましたが、それは杞憂でした。
北関東にある山の例に漏れず、子持山にはヤシオツツジも咲きます。シロヤシオの方はもう終わりらしく、地面に散って落ちヤシオになっていました。
まだ咲いている花が一輪だけ残ってくれていました。子持山は比較的標高が低い山なので、赤城山などの周辺の山と比べてツツジシーズンが到来するタイミングは少し早めです。
ここで周囲の展望が少し開けそうな予感です。期待して見てみましょう。
背後に、つい先ほど登って来た獅子岩の姿が見えました。こうして背後から見ると、全然たしたことのない岩に見えます。
最大望遠で覗くと、山頂にいる人の姿が見えました。スズメバチはもういなくなったのだろうか。
進行方向右手に見えているのこの山は、上州武尊山(2,158m)です。何故か冬の方が人気があると言う、変わった一座です。かく言う私自身も、冬にしか登ったことがありません。
林相が美しい森です。ツツジの季節も良いですが、やはり一度紅葉シーズンにも歩いてみたいですねえ。
10時 柳木ヶ峰まで登って来ました。子持山の一つ手前にある小ピークです。下山時は獅子岩には戻らず、ここから浅間山方面へ周回する予定です。
と言う事で柳木ヶ峰から山頂を往復します。今のところはまだ緩やかなツツジロードが続いていますが、山頂の直下はかなり急峻です。
岩場の登りが始まりました。この先はまたストックが邪魔になるので、この辺りで収容しておいた方が良いと思います。
正面に見えているこのギザギザした山は榛名山(1,449m)です。実は獅子岩からも良く見えていたのですが、何故か写真を撮っていなかったので、あらためてここに載せておきます。
背後には、獅子岩から歩いて来た尾根道がすべて見えていました。周囲にあった山体は全て浸食により削られたのだと言われても、スケールが大きすぎてイマイチイメージが湧きません。
山頂まではもあと一息ですが、ここからさらに険しさが増します。
最後はしっかりと手も使って、三点支持でよじ登ります。子持山はコースタイム的には手軽であると言っていい山ですが、難易度的には決して易しいとは言えません。
10時20分 子持山に登頂しました。標高差の割にはなかなか登り応えのある山でした。
・・・え?この帽子はなにかって?私が被っていた帽子ですよ。
山頂標識よりはるかに目立つ場所に、十二山神と書かれた石碑が置かれていました。
十二様とはおもに中部地方から群馬県にかけて地域に残る信仰で、1年に12人の子供を産むとされている山の神様です。多産であることから、子持山と言う名称にかけてここに祭られているのでしょうか。
子持山から中山峠を挟んだ隣には十二ヶ岳と言う名の山がありますが、この山も十二山神の信仰と何か関係があるのかもしれません。
右端に見えているのが赤城山です。その左奥には皇海山(2,144m)や袈裟丸山(1,961m)などの、栃木県との境界にある山並みが見えています。
眼下には沼田の市街地が見えます。特徴的な利根川の河岸段丘の様子が良くわかります。
こちらは先ほども見えていた上州武尊山です。一度秋の紅葉シーズンにも登ってみたいのですが、この山は公共交通機関によるアクセスが絶望的に悪いのが悩みどころです。
北側の展望も十二山神の石碑の脇から少しだけあります。まだ残雪を頂いたこの山並みは、上越国境を形成する谷川連峰です。
6.オオダルミを経て浅間山へ
10時50分 大量に飛び交う羽虫で溢れる山頂を辞去し下山を開始します。山頂直下の急登は、当然ながら下る時の方がより注意を要します。
展望スポットまで戻ってきたところで、この後に歩く予定の行程全体が良く見えました。中央に見ている鞍部がオオダルミで、その右にあるピークが浅間山です。今からあそこを越えて行きます。
満開のヤマツツジロードをゆるゆると下ります。今年はツツジの当たり年だと言われていますが、確かに見事な咲きっぷりです。
11時5分 柳木ヶ峰まで戻って来ました。ここからオオダルミ方面へ進路を転じます。
なにぶん感覚的なものなのでうまく言語化できないのですが、いかにも北関東の山らしい雰囲気の登山道です。奥秩父の大菩薩嶺周辺の山にも似ていますが、それでいてやはり何かが違います。
オオダルミへの下りはかなり急峻で、200メートル近く一気に標高を落とします。特に急な箇所にはロープが張られていました。
11時30分 オオダルミまで下って来ました。もう歩くのに飽きたと言う人は、ここから7号橋登山口に戻れるルートも存在します。
特にエスケープすべき理由もないので、当初の予定通りに浅間山を経由して5号橋に戻ります。相変わらず新緑が美しい森が続き、エゾハルゼミが大合唱していました。
信仰の山らしく、登山道上の所々にこうして小さなお社が残っています。なんかダンボーっぽい。
浅間山への登り返しです。このあとすぐにまた下ることを考えると気乗りしませんが、縦走登山とはそういうものです。
オオダルミからは割とあっけなく、山頂らしき場所まで登って来ました。
12時 浅間山に登頂しました。名前からして、かつてはここから富士山が見えたりしたのでしょうか。今では木々が大きく育っており、展望は全くありませんでした。
山と高原地図に「展望良し」と書かれていたのですが、はて?
7.子持山登山 下山編 浅間山を経て5号橋駐車場へ戻る
相変わらず周囲は虫だらけで鬱陶しいので、僅かな山頂滞在時間で先へと進みます。
天然の見事な片洞門が出来ていました。やはりこれも溶岩石なのだろうか。
谷を挟んだ向かいに獅子岩の姿が見えました。周囲の地形と合わせて見ると、あの部分だけが堅いのだと言う事が良くわかる形をしています。
分岐地点が現れました。直進すると子持神社まで登山道が続いています。我々は5号橋に戻りたいので、ここで進路を左に転じます。
この後はもう消化試合です。黙々と下山と言う作業に取り組みます。
このアングルから見ると確かに獅子の顔っぽく見えます。角度限定の獅子ですね。
サクサクと足早に下り続けて、林道が見る場所まで下って来ました。
13時5分 5号橋駐車場に戻って来ました。結構な距離を歩いたような気もしましたが、それでも5時間25分ほどの山行きでした。お疲れ様。
ちなみに公共交通機関を利用して子持山に登ろうと思た場合は、上越線の敷島駅から直接歩いて登るしかありません。その場合、全行程のおおよそ半分がこんな感じの舗装道路歩きになります。
それも往復およそ20kmで標高差1,200メートルくらいなので、決して手軽とは言えなくなりますが、まあ歩けないことは無いと思います。
利根川の辺にあるヘルシーパル赤城と言う施設に立ち寄りひと風呂浴びて行きます。宿泊施設のようですが、日帰り入浴も受け付けてくれます。
温泉の駐車場からも、子持山と獅子岩の姿が良く見えました。獅子岩の存在感が凄い。
この日は珍しく恒例の渋滞に巻き込まれることもなく、スムーズに帰還できました。いつもこうだと良いのですけれどね。
子持山は以前に赤城山に登った時に目にして以来、何となく興味を持っていた山でしたが、実際に登ってみると思っていた以上に見所が満載の山でした。
ツツジの名所であると言う事以外には何の予備知識も無い状態で訪問しましたが、屏風岩や獅子岩などの火山由来の珍しい地形に目を奪われました。東京からだと決して気軽には訪問できな距離にある山ですが、その手間に見合うだけの魅力が詰まった文句なしの秀峰であると思います。
本文中でも触れましたが、季節を変えて紅葉シーズンにも是非一度登ってみたい一座です。
<コースタイム>
5号橋駐車場(7:40)-7号橋登山口(7:55)-獅子岩(9:10~9:25)-柳木ヶ峰(10:00)-子持山(10:20~10:50)-柳木ヶ峰(11:05)-オオタルミ(11:30)-浅間山(12:00)-5号橋駐車場(13:05)
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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