中倉山 公害の爪痕が残る荒涼とした稜線と孤高のブナ

中倉山から水沢山に至る稜線
栃木県日光市にある中倉山(なかくらやま)に登りました。
足尾山地奥部の渡良瀬川の源流部に立つ山です。山の北側に切れ込む松木渓谷は、足尾銅山から排出された亜硫酸ガスを含む煤煙や山火事の影響により今なお樹木が育たず荒涼としており、日本のグランドキャニオンの異名を持ちます。稜線上には殆ど樹木が無いことから展望が良く、知る人ぞ知る隠れた名山となっています。
名高き孤高のブナを見に、遠路はるばる足尾の奥地へ繰り出して来ました。

2024年5月21日に旅す。

中倉山は足尾山地の中でも最奥部に近い、渡良瀬川の源流域に立つ山です。立地については、奥日光の南側と言った方が伝わりやすいでしょうか。

足尾山地と聞くと真っ先に思い浮かぶのは、かつてこの地に存在した足尾銅山と、そこで発生した大規模な鉱毒による公害です。その影響は現在もなお残っており、周囲には荒涼とした禿山が広がっています。
波平ピークから見た松木川渓谷
公害によって作り出された景観な訳ですが、結果として大変眺めの良い稜線となっています。山と高原地図の範囲外にある比較的マイナーな山ですが、結構な数の登山者が訪れます。

中倉山と言えば忘れてはならないのが、稜線上に立つ孤高のブナと呼ばれている木です。公害によって荒れ果てた山にポツンと1本だけ立つその姿は、見るものに大きな印象を与えます。
中倉山の孤高のブナ
実際のところ周囲には他の樹木も結構生えていて孤高でもないのですが、この木の存在が中倉山の知名度を高めていることは間違いありません。

孤高のブナを鑑賞した後は、その先にある謎多き波平ピークまで足を伸ばします。「いったい誰だよ、この名前を付けたくなる奴は」とツッコミ入れたくなること請け合いな一日の記録です。
波平ピーク

コース
公共交通機関で行く中倉山のコースマップ
往路は日光駅から発着している日光市営バスの赤倉バス停からスタートします。銅金親水公園(あかがねしんすいこうえん)まで下道を歩き、砂防工事路を通り抜けて中倉山登山口へ。そこから中倉山を経て隣の沢入山までを往復します。

下山は元来た道を引き返し、わたらせ渓谷鐵道の間藤駅まで歩きます。公共交通機関の利用した中倉山登山としてはごく一般的であろう行程です。

1.中倉山登山 アプローチ編 日光市営バスで行く足尾への遠き道程

6時51分 JR上野駅
朝の宇都宮線はいつ乗っても大抵混雑していますが、赤羽駅からではなく始発の上野駅から乗車すれば確実に座れるということを、最近ようやく学びました。所要時間的にも大きな違いはありません。
上野駅の宇都宮線ホーム

栗橋駅で東武線の東武日光行きに乗り換えます。JRを使わずに最初から東武に乗って来た方が運賃的には安上がりなのですが、乗り換え回数が多くて面倒だったので、割高なのは承知で途中まではJRにしました。
栗橋駅の東武線ホーム
さてここで、公共交通機関を使って足尾方面に行く方法について軽く解説しておきましょう。行き方はさっくり言うと2通りあります。日光駅から出ている日光市営バスか、もしくは桐生駅から出ているわたらせ渓谷鐵道です。

所要時間を比較するとバスの方にやや分がありますが、大した差ではないのでお好みの方からどうぞ。今回私は往路は日光からバスを使い、帰路はわたらせ渓谷鐵道に乗るつもりでいます。

9時19分 東武日光駅に到着しました。朝一番の電車ではなく微妙に時間が遅いためか、降り立った乗客の大半は登山者ではなく観光客でした。
東武日光駅

続て足尾方面行きの日光市営バスに乗車するのですが、このバスの出発地は東武日光駅ではなくJR日光駅です。まだ時間もあるので歩いてJR日光駅に移動します。せいぜい5分くらいの距離です。
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駅前には既にバス待ちの行列が出来上がっていましたが、こちらは奥日光方面行きの東武のバスを待っている人たちです。足尾方面行きのバスは駅前のロータリーから見て左手の道を挟んだ向かいにあります。
JR日光駅前のロータリー

9時35分発の双愛病院行のバスに乗車します。こちらの利用者は殆どおらずガラガラ状態でした。足尾は観光地として人気はイマイチ振るわないようで。
双葉病院行きの日光市営バス
ただでさえ運行本数が少なめなのに、こうも利用者が少ないと路線そのものの継続が危ぶまれる由々しき事態に陥りかねません。そうならないためにも、乗って残そう公共交通!

・・・私は日本バス協会の回し者ではありません。

日光と足尾の間には山が横たわっており、かつては標高1,197メートルの細尾峠を越える必要がありました。現在は全長およそ2.7kmの長大トンネルである日足トンネルによって連絡されています。
日足トンネルの入口

10時17分 赤倉バス停に到着しました。赤倉は足尾町内の最北端にある集落です
赤倉バス停

バスを降りるなり、目の前にいきなり足尾銅山に関連する遺構のトラス橋がありました。足尾地方について何事かを語る上で、どうしたって足尾銅山の存在を切り離すことはできません。
赤倉の古河橋

2.銅親水公園を通って中倉山登山口へ

登山口となる銅親水公園までは、まだあと1.4kmほどあります。ここから公園まで、しばしの下道歩きです。
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漠然と前方に見えているのが中倉山なのかなと思っていましたが、あれは黒檜岳(1,976m)です。あの稜線の向こう側に中禅寺湖があります。
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この辺りで後ろからやって来た銅親水公園行きのバスに追い抜かれました。え、そんなバスあったの?

実は1日に2往復だけ双葉病院発の銅親水公園行きのバスが運行されており、赤倉バス停で待っていれば乗れたのですが、存在そのものを認知していませんでした。

知っていたら乗って残そう公共交通をしたのですが、いかんせん今回はリサーチ不足でした。

川の対岸に足尾銅山精錬所跡の巨大な煙突が立っています。この精錬の過程で排出される亜硫酸ガスが、周囲の山林に対して深刻な鉱毒被害を発生させました。その影響は今もなお残っています。
足尾銅山の精錬所跡

轟々と音を立てる巨大な堰堤群が見えて来ました。渡良瀬川の洪水対策として昭和29年に完成した足尾砂防堰堤です。
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一面の禿山と化し保水力を失なってしまった足尾の山からは、大雨が降るたびに土石流が発生して、下流の渡良瀬川流域に多大な洪水被害を発生させていました。

10時40分 銅親水公園まで歩いて来ました。足尾砂防堰堤の脇に整備されている公園です。無料の駐車場があり、車でお越しの人はここまで入ってこれます。
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銅親水公園が作られる以前の足尾砂防堰堤の写真が案内板に掲げられていました。一面が茶色く地面の露出した荒涼とした光景です。
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現在ではこの時代に比べれば格段に緑がよみがえりつつあります。完全復活まではまだまだ遠き道ですが、長い時間をかけて営々と行われてきた緑化事業は着実に前へ進んでいます。

一般車が入れるのは銅親水公園までで、この先は関係者の車両以外は進入禁止の工事用道路となります。脇の甘くないゲートに行く手を阻まれるので、徒歩の訪問者はバーの下を潜ります。
銅親水公園のゲート

だだっ広い平坦地が広がっているようにも見えますが、これは足尾砂防堰堤に土砂が堆積して作り出された空間です。昔はもっと深い渓谷だったはずです。
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この写真の右側に見えているのが、目指す中倉山がある中倉尾根です。中倉尾根の北側を流れる松木川と南側を流れる仁田元川がここで合流しています。
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非常に透明度の高く美しい清流です。真夏に訪れた水遊びが捗りそうです。
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この周辺の山林はかつて一面の禿地と化していましたが、現在進行形で地道な植林活動が行われています。しかし一度完全に破壊してしまった植生を回復するのは、そう容易な事ではありません。
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しれっと皇海山の名前が行き先に書かれていますが、松木渓谷からの皇海山はおよそ一般登山者向きの道ではありません。何度も渡渉を繰り返しながら道なき道を行くことになります。
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この道を直進すると、中倉尾根北側の松木渓谷に入ります。かつてはこの地に松木村と言う小集落が存在しましたが、深刻な鉱毒の被害により明治35年に廃村になっています
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樹木の無い荒涼とした光景であることから、日本のグランドキャニオンだとか足尾のジャンダルムなどと呼ばれています。松木渓谷側から中倉山へと登る登攀ルートも存在しますが、一般登山者向けとは言いがたい難ルートです。

一般登山者向きの登山ルートは、中倉尾根南側の仁田元川沿いにしっかりと存在します。と言う事で松木渓谷には入らず、左折して松木川本流の橋を渡り、仁田元川沿いの道へ進みます。
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この中倉山登山口までの工事用道路歩きは、何気に結構距離があります。銅親水公園から大体1時間くらいはかかるとみておいた方が良いです。
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洗い越しになっている小さな沢が横切っていました。帰りにここを通る時にはきっと汗だくになっているだろうから、下山後にここで顔を洗おうなどと考えつつ通過します。
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落石防止ネットの裏側に小石がギッシリと詰まってパンパンになっており、油断がならない道です。見るからに落石が多そうな地形なので、足早に通り抜けましょう。
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やがて道の右側に、山中に入って行けそうな小道が現れました。良く見ていないと見落としかねないくらいさり気なくあるので、右側に注目しながら歩いてください。
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11時30分 中倉山登山口に到着しました。既に正午近い時間になって、ようやく登山を始められます。公共交通機関頼みの身の上としては致し方ありません。
中倉山の登山口

3.中倉山登山 登頂編 急登の先に待つ大展望の稜線

登り始めはジグザグと九十九折れの付いたごく普通の登山道です。緩やかなのは最初の内だけで、すぐに急登が始まるのでご安心(?)ください。
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ザレた岩と木の根がミックスした急登が始まりました。この先尾根に取り付くまでは、ずっとこの調子の道が続きます。登山口までのアプローチが長かった分、最初からいきなり全力で来た感じです。
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咲き始めた藤の花が良い香りを漂わせていました。藤のツタは他の木に絡み付いて枯らしてしまうため、林業の手が入っている山だと真っ先に刈り取られます。こうして咲いているということは、この山にはあまり人の手が入っていないと言うことす。
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登山口から1時間ほど登り続けたところで尾根に乗りました。ここまで登ってくれば、急登は一旦終わります。
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幅が広くていかにも歩きやすそうな尾根ですが、足元の土が結構滑りやすくて嫌な感じがします。登りはともかく、降りる時には神経を使いそうです。
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ヤマツツジがポツポツと咲いていますが、花が付いている木自体が少なめです。今年はツツジのハズレ年なので、例年であればもっと辺り一帯がオレンジ色に埋め尽くされるくらいに咲くんでしょうね。
中倉山のヤマツツジ

尾根上の肩のようになっている小ピークに出たところで、ようやく山頂部が視界に入りました。もっと荒れ果てた禿山を想像していたのですが、南の仁田元川側の斜面には普通に樹木が生えています。
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左上方向の稜線上に、ポツンと1本の木が立っているのが見えます。あれが話に聞く孤高のブナなのだろうか。
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この後に歩く沢入山方面へと続く稜線が見えました。稜線に出ればもっと凄い光景が拝めるので、もったいぶっていないで先へ進みましょう。
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中倉山の山頂方面と巻き道との分岐地点まで登って来ました。下山時にはこの巻き道から戻ってくる予定です。
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前方に空が見えて来ました。いよいよ待望の稜線上に出ます。
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稜線上に出ましたが、ここでも思っていたのは異なり南側には普通に樹木が生えています。笹の稜線になるのは、中倉山の山頂から先のエリアに入ってからです。
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北側に見えているのは、中禅寺湖の南岸に連なる半月山(1,753m)と社山(1,827m)です。社山の背後には男体山(2,486m)の頭も見えています。
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間を山に遮られていますが、日光と足尾はすぐ近くなのだと言う事が良くわかる光景です。

黒檜岳の存在感が凄い。破線ルートしかないため訪れる人が極端に少ないマイナーな山ですが、中倉山から見ると圧倒的に目立ちます。
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何時しか周囲はツツジに囲われたヤマツツジロードになりました。中倉山にはシロヤシオも咲くはずなのですが、今のところはまだ一輪も見かけていません。時期的にはちょうど見頃なはずなんですけれどね。
中倉山のヤマツツジ

背後の展望が開けて、足尾山地の山々が良く見えます。登山の対象としては比較的マイナーなエリアになろうかとは思いますが、面白そうな山が沢山あるので発掘のしがいがあるかもしれません。
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ここでついに展望が開けました。隣接する社山の稜線とよく似た雰囲気の笹の稜線が連なります。
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13時5分 中倉山に登頂しました。評判通りの素晴らしい眺めの山頂です。しかしその理由を知ってしまうと、なかなか手放しで賞賛する気にはなれず複雑な気分になる光景です。
中倉山の山頂

4.言うほど孤高でもない孤高のブナ

山頂からの先に続く稜線歩きこそが中倉山の真骨頂です。正面に見えているお隣の沢入山まで足を伸ばします。
中倉山から見た沢入山
ちなみに、沢入山の左奥に頭を覗かせているのは皇海山(2,144m)です。中倉山からは尾根で繋がっており、縦走することも可能です。笹薮が相当惨いようですが。

谷を挟んだ向かいの黒檜岳の山腹も、所々樹木の無い禿山状態になっているのが目立ちます。松木渓谷内にあった樹木の多くが、足尾銅山で燃料と使用するために一度伐採されました。
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伐採されても通常は数年で若木が育ち始めるのですが、銅の精錬時に発生する亜硫酸ガスを含んだ煤煙の影響により樹木が育たず、荒廃した裸地がそのまま残りました。

足元の谷底に、何やら黒い砂の良なものが積み上がっているのが見えます。カラミと呼ばれる、銅の精錬過程で生じる廃棄物の集積場です。
松木渓谷のカラミ集積場
カラミには鉛や亜鉛やカドミウムなどの有害物質が含まれており、周辺には樹木が一切育っていないのが良く分かります。アスファルトに混ぜてリサイクルなどして少しずつ処分が進められていますが、まだこれほど大量に残っています。

孤高のブナがあるのはこの辺りのはずなのですが、ブナらしき木は結構な数があるように見えます。さて、どれが孤高のブナなのかわかりますか?
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はい、こちらが孤高のブナです。こんな風に背景を空にして、いかにも何もない場所に1本だけポツンと立っていますよ的な写真を目にしたことがあるのではないでしょうか。
孤高のブナ

サギ写真だとまでは言いませんが、アングルによってはこの通り、周囲には普通に樹木があります。言うほど孤高ではないかな。
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孤高のブナが立っている場所のすぐ背後にまで崩落が迫っており、保護のために柵で囲まれています。いつかは崩落に巻き込まれて倒れてしまう未来が訪れるやもしれません。

現物を見てみたいと思う方は、はやめに訪問した方が良いかもしれません。

5.展望良好なハゲ山、波平ピーク

孤高のブナを過ぎると、両側が切れ落ちている岩尾根歩きが少しだけあります。中倉山登山における唯一の危険地帯と言えなくもない場所です。
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岩尾根を抜けてから振り返って見た中倉山です。北の松木渓谷側が大きく崩落しているのが良く分かります。
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正面に見えているのは沢入山ではなく、その手前に位置している波平ピークと呼ばれている山です。何ともヘンな名前ですが、その由来は登ってみれば良くわかります。
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真下から見上げると結構な急登です。時刻は既に13時を回っており時間も押して来ているので、いっちょう気合を入れて足早に参りましょう。
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この辺りはヤマツツジではなくミツバツツジの姿が目についます。しかし相変わらずシロヤシオは全く見かけません。ハズレ年だとは言えど、一輪も咲いていないなんてことがあるのだろうか。
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所々崩落している個所もありますが、道自体は明瞭で割としっかりしています。
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ようやく僅かに咲いているシロヤシオがありました。時期的には早くも遅くもなく、純粋に咲いている花自体が極端に少なかったようです。よもやここまで壊滅的とは。
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山頂らしき場所が見えて来ました。この光景だけを見ると、まるで新潟県辺りの森林限界を超えた豪雪地帯の光景のようにも見えます。
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背後の光景もなかなかアルペン的です。近年のご当地アルプスブームに乗っかり、この中倉山から沢入山に至る稜線を足尾アルプスと呼ぶ人もいます。今のところその呼称は、あまり定着はしていないようですが。
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山頂に一本の枯れ枝が付きたてられており、まるでハゲ茶瓶のような外観になっています。あー、なるほど。これが磯野波平の頭だと言いたいわけだね。
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13時45分 波平ピークに登頂しました。ご丁寧に手作りの標識までもが作られていました。いったい誰だよ。この名前を付けたヤツは!
波平ピーク

正面に見えているのが沢入山です。波平ピークからはせいぜい10分もあれば辿り着く距離なのですが、この時何故か私は左奥に見えているオロ山を沢入山なのだと誤認していました。うーん、まだまだ遠いですなあ。
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帰路で乗車予定の汽車の時間を考えると、すでにあまり時間に余裕がありません。ここで私は「この波平ピークを本日の山頂とする」と高らかに宣言してしまうのでした。

・・・要するに、誤認によって沢入山の山頂を踏みそこないました。およそピークハンターにあるまじき失態です。事前にもっとよく地図を確認しておけという話ですね。はい。

北側には相変わらず社山から黒檜岳に至る稜線が壁のように立ちはだかっています。壁のようと言うか実際に壁そのもので、この尾根の向こう側には中禅寺湖があります。
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西側には栃木県と群馬県の境界を形成してる尾根が横たわっています。この界隈の山は何れも、まともな登山道すら存在しない藪山です。
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日光白根山(2,578m)の頭だけがピョコっと見えています。関東地方最高峰の肩書を持つ山だけに、周囲の山よりも頭一つ抜けた標高を持っています。
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東側のここまで歩いて来た中倉山方面の展望です。こうして上から見ると中倉山はただの前衛でしかなく、本体といえるのは沢入山の方だと思います。
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上から見た孤高のブナです。確かにかなり目立つ存在ではあります。
波平ピークから見た孤高のブナ

眼下には松木渓谷の荒涼とした山肌が広がります。南の仁田元川側に比べてより荒廃の度合いが大きいのには、どんな要因があるのだろうか。
波平ピークから見た松木川

最後に南側の足尾山地の山並みです。この辺りは同じような高さの山が団子状になっており、山座同定するのが非常に難しい。
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山頂の波平ケルンとはまた別に、ミニ波平が積まれていました。これは新手の山岳信仰の祭壇か何かなのでしょうか。磯野波平を称えよ!
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6.中倉山登山 下山編 間藤駅までの遠き道程を戻る

時間も押しているのでそろそろ帰りましょう。公共交通機関を利用した中倉山登山は、時間的にはなかなかシビアです。沢入山までは行かずに、孤高のブナだけを見て帰るならまだ余裕もあるのでしょうけれど。
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上から見下ろすとかなりの高度感です。日本のグランドキャニオンと呼ばれているだけのことはあって、確かにコロラドリバー感があります。アリゾナに行ったことはありませんが・・・
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14時35分 孤高のブナまで戻って来ました。帰りは中倉山には登り返さずに、右の巻き道から戻ります。
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公害に屈することなく、荒涼とした不毛の地に雄々しく立ち続ける1本のブナ。そんな物語性がある光景が、多くの人引き付け魅了しているのでしょう。・・・若干の騙された感はありましたがね。
中倉山の孤高のブナ

巻き道は幅が狭くてやや歩きにくいですが、踏み跡自体は明瞭明快で道に迷うような要素もありません。
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巻き道との分岐地点まで戻って来ました。後は元来た道を引き返すだけです。
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登っている時には気が付きませんでしたが、途中の登山道上にも波平ケルンがありました。誰かが作ってまわっているのだろうか。
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早くも陽が傾き始めた中を足早に下って行きます。山と高原地図の範囲外にあるためこのコースの標準コースタイムが何時間なのかは不明ですが、銅親水公園からの往復でだいたい7時間くらいは見込んでおいた方が無難だと思います。
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想像していた通り、下りだとかなり滑りやすくて歩き難い道です。無理に巻こうとはせずに慎重に参りましょう。
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16時5分 中倉山登山口まで戻って来ました。
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そしてここからがまだ長い。1時間以上の下道歩きが残っています。
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予定通り、途中の沢でザブザブと顔と言うか頭全体を洗ってクールダウンしました。これぞ波平・・・ではなく坊主頭の特権。
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よく見ると、裸地の急斜面上に金属で足場を組んだうえで植樹が行われています。ただ植えただけではまた崩れてしまうからなのでしょうが、それにしても途方もない手間がかかっていそうです。
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17時 銅親水公園まで戻って来ました。車でお越しの人は、達成感で満たされる瞬間であることでしょう。私はここからさらに間藤駅まで歩かないといけないのですがね。
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せっかくなので、足尾砂防堰堤を目の前からかぶりつきで見物していきます。凄まじい轟音とともに、ここまで飛沫が飛んできます。
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足尾銅山の歴史を学べる足尾環境学習センターが併設されています。時間が時間だけに、既に閉館していました。
240521中倉山-090

元来た道をトボトボと歩いて戻ります。なお1日に2往復だけしている双葉病院行きの帰路のバスは、銅親水公園入口14時45分発です。時間的に中倉山登山に使うのは難しそうですな。
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17時30分 赤倉バス停に戻って来ました。帰路でもバスを利用する場合、日光行きの最終バスは18時13分発です。わたらせ渓谷鐵道で帰るつもりでいる私は、バスを待たずにここからさらに間藤駅まで歩きます。
赤倉バス停

わたらせ渓谷鐵道を使ったところで、バスで帰るより早い訳でも無ければ運賃が安い訳でもありません。私は乗り鉄なので、単にわたらせ渓谷鐵道に乗りたいからそうすると言うだけの事です。
240521中倉山-093
登山に経済的な合理性を求める人は、赤倉バス停でバスを待った方が無難です。

現在のわたらせ渓谷鐵道は間藤駅止まりですが、かつて貨物線であった時代はもっと奥地にある銅山の精錬所まで乗り入れていました。その線路の跡が今でもこうして残っています。
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どうせなら銅親水公園まで乗り入れてくれたら、もっと公共交通機関で中倉山に登る人も増えると思うのですが、まあ採算が取れる訳が無いか。
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18時 間藤駅に到着しました。周囲に商業施設などはなく、古河機械金属の工場の向かいにポツンとありました。
間藤駅の駅舎

いかにもローカル線の終着駅らしく、場末感が漂う空間です。ここで待っていて本当に汽車がやってくるのかと、一抹の不安を感じる光景です。
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そんな心配をよそに、しっかりと時間通りやって来ました。ローカル線の気動車に揺られて、長い長い帰宅の途に着きました。
240521中倉山-098

沢入山のピークを踏みそこなうという、およそピークハンターにあるまじき失態を演じましたが、中倉山から先の稜線歩きは前評判通りに素晴らしいものがありました。公害によって生じた景色を賞賛するのには若干気が引ける気持ちはありますが、しかしここでしか見られないオンリーワンの景観が確かにありました。
今後植樹が進めば現在の荒涼とした景観は徐々に失われて行くだろうし、孤高のブナはいつ崩落に巻き込まれるともしれません。訪問を考えている人は、早めに訪れた方が良いかもしれません。
公共交通機関の利用を前提した場合、行動開始時間がどうしても遅くなってしまい時間の制約が付きまとうため、訪問のハードルはやや高めの山になろうかと思います。その手間に見合うだけの値打ちがある山である事は保証します。

<コースタイム>
赤倉バス停(10:25)-銅親水公園(10:40)-中倉山登山口(11:30)-中倉山(13:05)-波平ピーク(13:45~14:10)-中倉山登山口(16:05)-銅親水公園(17:00~17:10)-赤倉バス停(17:30)-間藤駅(18:00)

波平ピークでの記念撮影

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

コメント

  1. もうもう より:

    オオツキ様

    この辺りの山域は検討をしたことがなく中倉山は聞いたことが有りませんでしたが、眺望に優れていて良さそうですね。

    わたらせ渓谷鐵道に乗ってみたいと思っていたので、その点でも楽しそうなルートに感じます。行くならやはりツツジの季節でしょうか。

    オオツキさんは登山回数が増えたからか、順調にダイエットが進んでいますね。

    • オオツキ オオツキ より:

      もうもうさま
      コメントをありがとうございます。

      ツツジの季節も良いですが、足尾は紅葉も綺麗なので秋も良いかと思います。松川渓谷の紅葉は10月中旬以降が見頃のようです。

      夜勤の際についつい甘いパンを食べてしまっていたのが良くなったようで、それをやめて以降は体重が順調に減っています。