山梨県の甲州市と丹波山村に跨る大菩薩嶺(だいぼさつれい)に登りました。
標高1,570メートル地点の上日川峠まで車で行くことが出来るので、とても手軽に2,000メートルの稜線歩きを楽しめる人気の高い山です。ただし、この山が「手軽」なのは春から秋にかけての季節に限られます。
冬季閉鎖のゲートを越え、気温マイナス10度の寒風が吹き付ける稜線を歩いてきました。
2017年2月12日に旅す。
大菩薩嶺と言えば
登山初心者を山へ案内する機会があったら、とりあえずここに連れて行けばよい。そう言える鉄板の山であります。
上日川峠から1時間ちょっとの道を登りきるだけでこの大絶景と出会えるのですから、最初にこんな好い思いをしてしまったら、もう登山がやめられなくなってしまうというものです。
しかし、この手軽さはすべて、自動車という文明の利器によってもたらされたものです。
冬季には上日川峠へ通ずる県道は閉鎖され、ここは昔と変わらぬ深き山となります。かく言う私も、冬の大菩薩嶺を歩いたことは一度もありませんでした。そこで今回白羽の矢を立てたという訳です。
それでは、厳冬期の寒空の下の、白く染まった大菩薩嶺へと繰り出しましょう。
コース
大菩薩峠登山口より丸川峠を経て大菩薩嶺へ。山頂から大菩薩峠まで稜線を歩いた後、上日川峠を経由して大菩薩峠登山口へ下山します。
標準コースタイムおおよそ7時間の周回ルートです。下山後は大菩薩の湯まで歩いて行き、そこから塩山行きバスに乗って帰還します。
1.大菩薩嶺登山 アプローチ編 塩山駅よりクラシックルート登山口の裂石温泉へ
7時24分 JR中央本線 塩山駅
始発電車を乗り継いでやってきました。寝心地の良い端の席を占拠でおかげで、高尾駅を発車した直後から記憶がありません。
※大切なお客様への重要なお知らせ※
この駅の読み方は「しおやま」ではなく「えんざん」です。素で間違えると、とても恥ずかしいので気をつけましょう。
7時35分発の大菩薩峠登山口行きバスに乗り込みます。冬は本数が少ないので注意して下さい。7時半のバスを逃すと次の便は2時間後です。
バスに揺られること30分で終点の大菩薩峠登山口に到着しました。人気の百名山とあって冬でも結構な人出です。
そして物凄く寒い。
小金沢連嶺を甲州アルプスと呼ばせようとする運動を展開中らしい。
秩父山塊を東アルプスにしようと画策する運動もあります。これ以上日本中の山をアルプスだらけにして、いったいどうしようと言うんでしょう。
ちなみに北アルプスは飛騨山脈。中央アルプスは木曽山脈。南アルプスは赤石山脈というのが正式名称です。
今や南アルプス市なんてものまで出来て、赤石山脈の名は完全に食われてしまった感がありますが・・・・
2.冬季閉鎖のゲートを越えて、丸川峠を目指す
さて、丸川峠登山口に向かってまずは舗装道路の急坂を登ります。
上日川峠に車道が通じる以前より存在する大菩薩嶺へのクラシックルートとしては、今回スタート地点とした裂石からのルートのほかに、小菅村より牛ノ寝通りを登るルートや、丹波山村より丹波大菩薩道を登るルートなども存在します。
今日の計画ではスタート地点を小菅村にするか裂石にするかでギリギリまで悩みましたが、小菅村からのコースタイムは日の短いこの季節ではちょっと現実的でないと判断し今回は断念しました。
ただいまの気温マイナス8度
一般的に標高が100メートル上がると気温は0.6度下がると言われています。
現在地の標高がおよそ950メートル。山頂の標高は2,057メートルなので標高差は1,100メートルほど。
今より6.6度下がるとして、山頂の気温はマイナス14.6度ですか。寒そうですね。
冬季閉鎖地点までやってきました。丸川峠に向かうにはここを左です。
最初は林道歩きです。
気温マイナス8度は伊達ではなく、硬くしまった雪にチェーンスパイクの刃が小気味良く刺さります。
道は基本的に尾根沿いです。人気の山とあって大変良く整備されています。踏跡もしっかりしており、雪に埋もれて迷うこうとはありません。
砂礫の登山道。冬以外は滑りやすいのかも知れませんが、今はカチカチに凍結していて非常に良くグリップします。
10時20分 丸川峠に到着しました。かつての大菩薩嶺へのメインルート上だった場所ですが、今では人影疎らな静かな空間が広がっています。
彫りの深い木彫りのお地蔵さん。丸川荘のご主人の仕事でしょうか。
丸川峠に立つ丸川荘。なんと、営業していました。厳冬期にも小屋が開いているとは流石は人気の百名山です。
丸川峠から展望。頂上まで行かなくても満足してしまいそうなクォリティです。
ここで小休止して菓子パンを食べました。10分にも満たない休憩を取っただけで体の芯まで冷える冷える。
3.大菩薩嶺登山 登頂編 展望皆無のガッカリ山頂と好展望の雷岩
山頂へ向かう道は小屋の脇にあります。震えながら登山再開です。
木の隙間から甲府盆地が一望できました。気温マイナス8度は伊達ではなく、非常にクリアーな視界です。
奥に絶壁のようにそびえ立っているのが南アルプスです。甲府にお住まいの方々は、アレが常時視界の端に被さってきているのですね。かなりの圧迫感がありそうです。
北側斜面には雪が深く積もっていました。そして尋常じゃなく寒い。
北側の展望。見えているのは秩父主脈の山々です。基本的に北側斜面は樹林帯に覆われており、展望が得られたはこの一箇所だけでした。
樹木には余り造詣が深くは無いのですが、この緑の葉っぱをつけているのがだぶんコメツガです。
12時 大菩薩嶺に登頂しました。日本百名山ガッカリな山頂ランキングで、常に上位をキープし続ける展望ゼロの山頂です。皇海山と光岳辺りが好敵手ですかね。
山頂に居ても寒いだけなので、この先にある好展望地の雷岩に早々と移動します。
雷岩にやって来ました。人気の好展望スポットとあって、冬でもこの通り、多くの人が休憩しています。
ここでガスストーブを持って来なかったことを軽く後悔しながら、凍った握り飯を食す。
帰りに温泉に寄る気満々でお風呂セット(着替え+大小タオル)を詰めこんだら、ザックにストーブを入れるスペースは残っていなかったのです。
雷岩はド定番の富士山撮影スポットです。忘れずに抑えておきましょう。
ヤマレコで大菩薩嶺の記録を見ると、10人中9人はこのアングルの写真を投稿していると言っても過言ではありません。見た瞬間に何処で撮ったのか判ってしまうくらい定番のアングルです。
超広角レンズに換えてもう一枚。非常に広角映えする景色ですね。
甲府方面の展望です。南アルプスにはだいぶ雲が掛かってきています。
カメラの製造メーカーが作動を保証している最低気温を下回っている環境ですが、特に問題なく使えますね。電池の減りはいつもより少し早いかなと言う程度です。
4.白と青だけの極寒の稜線
稜線歩き開始です。雲がだいぶ沸いてきていますが、風はさほど強くはなく、稜線歩きにもってこいのコンデションと言っていい状態でしょう。
標高2,000メートル地点であることを示す標識が立っています。上日川峠から来た人にとっては驚くほどあっけない2,000メートル地点かもしれませんが、まともに下から登ってくるとここまで来るのは結構大変でした。
冒頭で紹介した初夏の大菩薩嶺と全く同じアングルで撮影した光景がこちらです。夏と比べると、空気の透明度がまるで違うことが大変良くわかります。
思わずスキップしたくなるような光景が続きます。いや、実際にはしてないですよ?
・・・ホントは少しだけしました。
太陽が雲に隠れると、途端に体感温度が急降下します。お天道様とはまことにありがたいものです。
賽の河原に到着しました。江戸時代まではここが大菩薩峠と呼ばれており、当時の青梅街道は柳沢峠ではなくここを越えていました。
賽の河原には避難小屋があります。初夏に来た時には、何故こんな簡単に登ってこれる場所に避難小屋が必要なのかと訝しんだりしましたが、冬に来て見て納得です。確かに稜線上に逃げ込める場所がないと、凍死しかねません。
撮影が捗り過ぎて中々歩みが進みません。白と青のコントラストがアートのような景色を描き出してくれます。
ここまで歩いてきた稜線を振り返る。山岳雑誌などで定番の大菩薩嶺の姿ですが、冬の姿はあまり目にしたことがないのではないでしょうか。
西側の展望。正面に見えているのは乾徳山かな。
大菩薩峠が見えて来ました。魅惑の稜線歩きは、もうまもなく終了です。
北側の奥多摩方面の展望が開けました。正面に見えているのは奥多摩三山です。あちらも見事に真っ白ですな。
テンポよく峠まで降りてきました。ゴツゴツした岩場が全て雪の下に隠れるため、この下りはむしろ冬の方が歩きやすいです。
13時15分 大菩薩峠に到着しました。無人の大菩薩峠を見たのは初めてかもしれません。なんだかんだで、いつも賑わっている場所ですからね。
5.大菩薩嶺登山 下山編 上日川峠を周回し、大菩薩の湯へ下る
上日川峠に向かって下山を開始します。ここは車も通る道なので、傾斜も緩やかでまったく危険な要素はありません。
勝縁荘前を通過します。なにやら風情のある佇まいですね。小説「大菩薩峠」は、ここで執筆されていたのだとか。・・・あれはいくら何でも長編すぎて、読めてはいませんが。
明らかに車のタイヤによる轍が刻まれていました。冬季閉鎖中でも山小屋関係者の車は入れるんですかね??
13時50分 福ちゃん荘を通過します。こちらは営業はしていませんでした。
福ちゃん荘から上日川峠まではおよそ20分位です。春から秋にかけてのシーズン中は、多くの登山者賑わうこの界隈も、冬はこの通り静かなものです。
14時10分 上日川峠に到着しました。轍を刻んだ犯人は多分左端に写っているアイツです。
普段であれば、後はやまと天目温泉に立ち寄りひとっ風呂浴びて帰るだけな訳ですが、生憎冬だとそうはまいりません。ここらまだあと、標準コースタイムで1時間40分程の道程が残っております。
ここから今日のスタート地点である大菩薩峠登山口までは、まだ600メートルほど下る必要があります。車道を離れて再び登山道へ入ります。
初めて歩く道ですが、大変整備の行き届いた歩きやすい道でした。メインルートでは無くなって以降も、結構歩く人はいるようですね。
一瞬だけ上日川峠線の車道に合流しますが、また直ぐに登山道に戻ります。
砂礫の下山路です。チェーンスパイクの刃が大変良く効きとても歩きやすいコンディションでした。アイゼンだとかえって歩きにくそうです。
再び車道に合流しました。ここまで来ればゴールはもう間近です。
閉鎖されたゲートの裏側まで戻って来ました。道が中途半端に凍結していると、チェーンスパイクを外すタイミングの判断が難しいですな。
15時40分 大菩薩峠登山口へ帰還しました。ここでバスは待たずに、このまま温泉まで歩いていきます。
大菩薩の湯までは、大菩薩峠登山口のバス停からはおおよそ10分位の道程です。
と言う訳で本日のゴールです。大菩薩の湯に到着しました。この付近には大菩薩の湯の他にも何件かの温泉宿が存在し、裂石温泉と呼ばれています。1200年前に開湯されたと伝えられている、歴史ある温泉です。
この大菩薩の湯は甲州市の市営の温泉施設です。市外客の入浴料は3時間で610円也。その特徴はPh値10.05という強アルカリ性のお湯です。肌がヌルヌルになります。
帰りのバス停は温泉の目の前にあります。16時40分発の塩山駅行きのバスに乗り込み、帰宅の途に付きました。
白く染まった極寒の稜線歩きは、こんな感じで終了です。最後に冷え切った体を温泉で温める、理想のコース取りだったと思います。
冬の大菩薩嶺は、春夏秋の手軽さとは打って変わって、そこそこ登り応えのある山です。麓から山頂までの標高差とコースタイムはおおむね丹沢の大倉尾根に匹敵します。このエリアは、厳冬期であっても日本海側の山の様な極端な大雪が降ることはめったに無く、またルート上に難所も特に無いことから、軽アイゼンとストックだけで登ることが可能です。雪山初心者を含め、多くの人に自信をもってオススメします。白一色に染まった魅惑の稜線歩きに、繰り出してみては如何でしょうか。
なお、稜線で風に晒されると非常に冷えますので、防寒だけは抜かりなきように準備して下さい。
<コースタイム>
大菩薩峠登山口(8:00)-丸川峠(10:20~10:30)-大菩薩嶺(12:00)-カミナリ岩(12:10~12:30)-大菩薩峠(13:15)-上日川峠(14:10)-大菩薩峠登山口(15:40)-大菩薩の湯(15:55)
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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