飛竜山 甲斐と武蔵の境に鎮座する深山

雲取山から見た飛竜山(大洞山)
山梨県丹波山村と埼玉県秩父市にまたがる飛竜山(ひりゅうさん)に登りました。
東京都最高峰である雲取山より西へと延びる、奥秩父山塊の主脈上に位置する山です。交通アクセスに難のある山深い場所あり、この山のみを目的として登られることは極めて稀な山でもあります。
手付かずの原生林に囲まれた、静かなる深山を巡る旅となりました。

2016年9月10日に旅す。


飛竜山と言われて、直ぐにピンと来る人はなかなか居ないのではないでしょうか。雲取山の隣と言われれば、大体の位置が判ってもらえるでしょうか。
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荒川の支流のひとつである大洞川の源頭にあることから、秩父側では大洞山とも呼ばれます。

お隣の雲取山が、東京都の最高峰にして日本百名山の一峰であると言うバツグンのネームバリューを持つのに対し、我らが飛竜山には山梨百名山と言う肩書きくらいしかありません。

特段眺望に優れているわけでもなく、唯一雲取山に勝っていると言えるのは標高くらいなもので(飛竜山の標高は2,077メートル。雲取は2,017メートル)これと言った特徴の無い山です。

そんな訳で、飛竜山は登山の対象としては極めてマイナーな存在です。この山に登頂したことのある人の多くは、奥秩父主脈の縦走中についでに立ち寄ったと言うだけの事なのではないでしょうか。

そんな地味極まりない山に今回私が目をつけた理由はというと・・・
それは名前がカッコイイからです。

飛竜山!それはきっとこんな山に違いない。
<飛竜山想像図>
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コース
飛竜山のコースマップ丹波バス停よりサオラ峠、前飛竜を経て飛竜山を往復します。コースタイムは9時間ほど。

始発のバスが現地に到着してから、最終バスが発車するまでの時間もちょうど9時間なので、休憩時間を考えればコースタイム通りに歩いていると帰れなくなってしまいます。日帰りタイムアタック登山です。

8時25分 JR奥多摩駅
毎度お馴染みのホリデー快速奥多摩号に乗ってやってきました。相変わらず凄い数の人です。
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奥多摩におけるハイシーズンと言うのが何時頃なのかは良くわかりませんが、この日の混み様は、私が知る中では過去最高でした。
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ここから、8時35分発の丹波行きのバスに乗り込みます。なお、丹波行きのバスは一日に5本しかありません。公共交通機関利用で飛竜山を日帰りで登ろうと思ったら、このバスに乗る以外に選択肢はありません。

9時30分 一時間近くかけて、ようやく丹波バス停に到着しました。「たんば」と読みたくなりますが、これで「たば」と読みます。
丹波バス停
奥多摩駅からここまでの運賃は1,010円です。何気に自宅から奥多摩駅までの電車賃よりも高いと言う。

丹波山村の案内図です。国道411号(青梅街道)に沿った形で集落が存在します。
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ここ丹波山村は、公共交通の不毛地帯です。

山梨県に属していますが、公共交通機関で県庁のある甲府へ出るには、東京都の奥多摩町を経由する必要があります。

事実上、車が無いと生活が出来ない場所と言えるでしょう。

バス停のすぐ先に水場がありました。冷たくてとても美味しいです。
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本日の行程は、標準コースタイム通り歩くと帰りのバス時間がギリギリになってしまう、結構シビアなものです。なので、最初からダブルストック装備でガンガン行きます。

あわよくばコースタイムを1時間以上は巻いて、道の駅たばやまに併設されている丹波山温泉のめこいの湯へ寄ってやろうという算段です。

ガソリンスタンド手前のY字路を右に進みます。
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野生動物よけの電流柵に囲まれた道を進んでいきます。
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道の両側が電流柵に囲われて、電流デスマッチが出来そうな空間です。
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この扉の先が登山口なのですが、「高電圧・きけん・さわるな」と書かれていて、しばし考え込みました。さわらずにどうやって扉を開けるの??
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よくよく観察すると、柵の上の方に横向きのワイヤーが張られています。電流が流れているのはそこでしょう。と言うことで、扉自体はさわっても問題ありませんでした。なんと紛らわしい。

・・・・こんな所で悩んだのは、もしかして私だけですかね。

ようやく電流デスマッチ地帯を抜けて山道に入りました。登り始めは、THE奥多摩の道と言った風情の植林された杉林です。
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幸いなことに、そんな光景は長くは続きません。すぐに自然林帯に入って行きます。圧倒的な緑の濃さです。
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この山の最大の特徴は、なんと言ってもそのキノコの多さです。多種多様なキノコが至る所に生えています。これはアカヤマドリ
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比較対象がないので伝わり難いかもしれませんが、このキノコはもの凄くでかいです。笠の直径は20センチくらいありそうです。ちなみに食用です。

こちらはタマゴタケです。味も値段もマツタケ級の高級なキノコです。
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笠が開き切る前のタマゴタケ。毒キノコのベニテングタケと間違えやすいと言うことなので、収穫はしませんでした。
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これはツチカブリかな。あまり自信はありませんが。
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ちなみにツチカブリは毒キノコです。なんとなくのイメージですが、白いキノコは毒キノコ率が高い気がします。

キノコと戯れつつ、九十九折れの急登としばし格闘したところで、道がなだらかになってきました。サオラ峠は近いようです。
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11時20分 サオラ峠に到着しました。コースタイムを20分ほど巻きましたが、それでも不満足な結果です。
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スタートしてからここまで、途中で立ち止まったのはキノコを撮影した数回だけで、かなり気合を入れて飛ばして来ました。

普段なら標準コースタイムの7割くらいにはなるであろうハイペースです。どうやらこの山の標準コースタイム設定は、かなり厳しめのようです。

ちなみに、山と高原地図の標準コースタイムと言うのは、「40~50歳代の山小屋泊装備の人」を基準にしているとのこと。

この山の標準タイムを計測したのは、よほど元気な40~50歳代だったのでしょう。

サオラ峠に立つ中川神社。明治時代に、奥多摩の水源林保護に尽力した中川金治氏を祭った神社です。地元の篤志家だった人物が、ついには神になってしまったのか。
サオラ峠の中川神社

時間が無いので、休憩無しで行動を再開します。急登はサオラ峠までで一旦終わり、ここからはしばらく穏やかな道が続きます。
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手作り感満載の標識が朽ちかけていました。
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12時に熊倉山を通過します。森の中にあるせいか、あまりピークと言う感じのしない場所です。
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山頂の様子
三角点があるほかは、取り立てて何もありません。
熊倉山山頂の様子

樹木の隙間越しに、ようやく飛竜山本体の姿が見えて来ました。ガスが立ち登りつつあるのが見えて、テンションが駄々下がりです。
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まあ、もともと飛竜山は展望の無い山とのことなので、別にどうでも言いと言えばどうでもいいのですが。。

水源林として保護されている山とあって、多くの巨樹が立ち並んでいました。展望はまったくありませんが、森の雰囲気は非常に良いです。森林セラピーがしたい人にはオススメです。
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それにしても、この道は長い。ひたすら長い。傾斜の緩い道なので楽に歩けはするのですが、その分なかなか標高が上がりません。
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前飛竜に近づいてきたところで、ようやく斜度が増して真面目の登り始めました。
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手を使わないと登れないような、岩の尾根を登っていきます。
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斜面に生えていたウラムラサキ。こんな毒々しいナリをしておりますが、一応食用です。あまり旨くは無いようですが。
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徐々に視界が開けて来ました。振り返ると、ここまで歩いてきた尾根道が一望できました。
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残念ながら、大分雲が立ち込めてきていて、遠望はまったく利きません。
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13時5分 前飛竜に到着しました。ここまでかなり飛ばしたつもりなのに、熊倉山からのコースタイムを5分しか巻けていません。やはりこの山の標準コースタイムはおかしい・・・
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前飛竜とはその名のとおり、飛竜山の手前に位置する前衛鋒です。ここから山頂までは、まだ一距離あります。
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山頂部はこのように岩場になっています。
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何故か無造作に置かれたいる三角点。
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飛竜山の山頂は、この通り完全にガスの中に頭を突っ込んでしまっている状態です。
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前飛竜は、本日のルート上ではほぼ唯一となる好展望スポットです。今日はこの通りとても残念な状態でしたけれど、晴れていれば大菩薩嶺や富士山などが一望できます。
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岩のてっぺんから見下ろした山頂の様子。あまり広くはありませんが、大勢が押しかけて来るような山ではないので、休憩スペースに不自由することは無いでしょう。
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前飛竜から山頂までのコースタイムは50分ほどです。

帰りのバスの時間を勘案し、撤退開始時刻を14時と決めていた私には、もう余り時間が残されていません。なので、ここでも休憩は取らずに行動を再開します。

飛竜山に向かいます。冒頭の飛竜山想像図のイメージに近い岩の道が現れてワクワクしてきました。
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まあ、岩尾根歩きは長くは続かず、すぐに普通の山道に戻ってしまいますが。

飛竜山の属する奥秩父山塊には、雁坂峠などの渡り鳥にまつわる地名が多く見られます。飛竜山と言う名称も、おそらくはこの山塊の上を大型の鳥類が飛び越えてゆく様に由来しているのではないかと思います。

山頂付近の尾根上には、大量のシャクナゲが生い茂っていました。開花シーズンに訪れれば、さぞかし見ものでしょう。
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シャクナゲの枝はかなり固い上に鞭のようにしなうので、突っ切るとバシバシ体を叩かれて痛い。薮の中でも特に厄介な部類です。

いつの間にか、完全にガスの中に入っていました。あまり踏まれていない感じの柔らかい地面の道が続き、道があっているのか少し不安になって来ました。
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奥秩父主脈の縦走路との交差地点に到着しました。ここから山頂まではあと20分ほどです。
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主脈縦走路は、飛竜山山頂の南側を巻くように付けられています。そのことが、この山の人気の無さに更なる拍車をかけていることは間違いありません。

展望が無いとわかっている山頂を、わざわざ40分もかけて往復する物好きなんて、そんなには居ないでしょうからねえ。

ここには、飛竜山の名前の由来にもなっている、飛龍権現神社があります。神社と言うか、ただの祠ですな。
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ここから山頂まで、径の細い道をシャクナゲの藪を掻き分けながら登っていきます。撤退開始時刻が近づいてきている焦りからか、この先の藪道の写真が一枚も残っていませんでした。
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13時50分 飛竜山に登頂しました。そんな訳でいきなり山頂にワープです。飛龍権現からは結構な距離がありました。
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山頂まで来て、ようやくこの日初めて別の登山者と遭遇しました。何とも静かな山です。

毎度お馴染みの、山梨百名山であることを主張する標識。だいぶ年季が入っておりますな。
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山頂の様子
樹林に囲まれており、展望は全くありません。やたら広くて、ピークが何処なのか良くわかりません。
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ほんの一瞬でしたが、ガスが晴れて青空が顔を覗かせました。
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今日はここまで、ほぼ休憩無しのノンストップで歩いて来ていたので、流石に疲れ果てました。山頂で弁当を広げつつ1本立てました。

少し元気を取り戻したところで下山開始です。これは飛龍権現から見た前飛竜。
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この時点では、下山後にのめこいの湯によることをまだ諦めてはいなかったので、殆ど写真も撮らずに駆け足気味に下りました。

ガスに覆われた道に陽の光が差し込み、幻想的な光景を作り出していました。
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14時45分に前飛竜を通過。相変わらず展望は無いままです。足早に通り過ぎます。
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16時5分 サオラ峠を通過します。写真がピンボケになっているのは、立ち止まりもせずに撮影したためです。
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ええ、頭の中は温泉のことでいっぱいでしたとも。いそげーいそげー。

サオラ峠からの急な下りで、流石に足に限界が来てペースダウンしつつ、それでもノンストップで麓まで降りて来ました。
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畑にあった犬の置物。カカシの代わりでしょうか。
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17時40分 丹波BSに到着しました。最終便のバスが出るまではあと50分。さて、温泉に浸かれる時間はあるのか!?
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結論を言ってしまうと、結局温泉には入れませんでした。

まず、丹波のバス停から道の駅たばやままでは、徒歩で15分くらいかかります。そして、道の駅たばやまへ辿り着いたところで、絶望が待ち受けていました。

のめこいの湯は、道の駅からさらに川を隔てた場所にあり、一度川べりまで下ってさらに橋を渡らないと辿り着けません。

その往復時間を追加すると、温泉に滞在できる時間は15分くらいしかなさそうです。着替えに要する時間を考えると、カラスの行水しか出来そうにありません。

そんな訳で、入浴は断念して、道の駅で着替えだけを済ませてすごすごと退散したのでした。

名前がカッコイイと言う以外にはロクな前情報も無しに訪れた飛竜山でしたが、実にハードな山行きでした。
この山の標準コースタイム設定はちょっとおかしいのではないかと思います。少なくとも、雲取山の鴨沢ピストンよりは遥かに厳しい行程です。公共交通機関を利用しての日帰りは、かなりシビアであると思ったほうが良いです。
ブナ巨木が立ち並ぶ森は、とても良い雰囲気を醸し出してはいるものの、行程の厳しさや展望のなさを鑑みるに、あまり人にはオススメできない山です。人影疎らな深山で、一人静かに過ごしたい人向けの山と言ったところでしょうか。
なお、最後の最後に断念した「のめこいの湯」ですが、口コミ等を見る限りでは、かなり良い温泉のようです。飛竜山と同時にと言うのは難しそうなので、温泉に入るためだけに、いつかまた丹波山村を再訪するかもしれません。

<コースタイム>
丹波BS(9:30)-サオラ峠(11:20)-熊倉山(12:00)-前飛竜(13:05)-飛竜山(13:50~14:10)-前飛竜(14:45)-サオラ峠(16:05)-丹波BS(17:40)

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最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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