静岡県の伊豆半島にある天城山(あまぎさん)に登りました。
川端康成の小説「伊豆の踊り子」の舞台としてあまりにも有名な、伊豆半島を代表する山です。海の上に突き出した半島の山という地形から、年間を通じて降雨量が多く、非常に深い樹林に覆われた密林のような山です。
生憎のガスに覆われた天気の中、新緑が芽吹く天城縦走路を歩き通してきました。
2017年5月13日に旅す。
今回は伊豆半島を代表する名峰、天城山に行って来ました。
天城山と言うのは伊豆半島の東部にある一連の山群の総称で、天城山という名前のピークは存在しません。一般的には最高峰の万三郎岳(ばんざぶろうだけ)登頂をもって天城山登頂とします。
伊豆の踊子の舞台としてあまりに有名な天城峠は、この天城山の山並みの一部であります。
かつては峠越えの難所として知られたこの山も、公共交通の発達した今日においては都内発で十分に日帰り縦走することが可能な山となりました。
天城山単体では少々物足りない感じがしたので、今回は天城峠から入山し、最高峰の万三郎岳を目指して天城縦走路を歩きます。
毎年5月末から6月の上旬にかけて、天城山の固有種である天城シャクナゲが見ごろを迎えます。
天城山のベストシーズンを狙って訪問したわけですが、今回の訪問は少し早すぎたらしく、シャクナゲは見事に空振りでした。
ガスりがちの天気なうえにシャクナゲは空振りと、少々残念な感じのする縦走登山の記録です。
コース
天城峠バス停から天城峠、八丁池を経て最高峰の万三郎岳へ登頂。下山は万二郎岳を経由して天城高原ゴルフ場へ下山する。
標準コースタイム7時間半ほどの縦走コースです。
1.天城縦走 アプローチ編 多くの文豪が愛した修善寺温泉より天城峠へ
6時40分 JR品川駅
新幹線界の鈍行列車であるこだま号に乗り込み三島駅を目指します。
当初は新幹線なんてブルジョワな乗り物を使うつもりはありませんでしたが、そもそも普通列車では朝8時第のバス時間に間に合わないことが発覚したためやむを得ずです。
新幹線の車窓より望む富士山。どんより曇っていてピリッとしない天気です。伊豆の天気は晴れという予報を信じてきましたが、前途に文字通り暗雲が垂れ込めております。
7時25分 三島駅に到着
鈍行のこだま号と言えどそこは天下の新幹線。あっという間の到着です。
三島駅で伊豆箱根鉄道に乗り換えます。なおスイカ・パスモは使えないので、一旦改札の外に出て切符を購入しました。終点の修善寺までの運賃は510円です。
8時34分発の修善寺行きに乗り込みます。
何時の頃からか、ヤフー路線検索のオプションにある歩く速度の設定デフォルト値が「少しゆっくり」になっているんですよね。以前は「普通」というのがあった気がしたのですが。
この設定を「少し急いで」に変えないとこの乗り継ぎの案内は出てきません。これに乗らないと、この後のバスへの乗り継ぎに影響するので要注意です。
8時10分 修善寺駅に到着しました。
ここから河津行きのバスに乗ります。バスの発車時刻までの猶予は5分しかないので、買出し等は事前に済ませておきましょう。
山に囲まれて海は見えず、全然伊豆っぽさが感じされない修善寺ですが、何故が明治・大正期の文豪に愛される土地だったそうです。川端康成も修善寺温泉に入り浸っていたのだとか。
8時15分発の河津行きに乗り込みます。今日歩こうとしている天城縦走路はそれなりにロングコースです。日帰りで歩こうとするのなら是が非でもこの朝一の便に乗りたいところです。
9時15分 天城峠BSに到着しました。
下車したのは私を含めて5名でした。
万三郎岳への登路としては、本日のゴール地点である天城高原ゴルフ場からのピストンが最も一般的で、わざわざ天城峠から縦走しようという人は物好な小数派です。
バス停があるのは厳密に言うと天城峠の入り口です。国道は峠の下をトンネルでブチ抜いており、峠の上までは徒歩道しか通じていません。
少し登ったところで早速ガスって来ました。バスの中から山の中腹くらいまで雲に覆われているのが見えていたので、覚悟は出来ていましたけれどね。
バス停から5分そこらで天城山隧道(旧天城山トンネル)に到着しました。明治38年に開通した国の重要文化財にも指定されているトンネルです。伊豆の踊り子にも登場していますね。
天城山隧道は車でも通り抜けが可能でとのことです。途中ですれ違うのは不可能だとは思いますが。
「暗いトンネルに入ると、冷たい雫がぽたぽた落ちていた」という一節の通りの光景が目の前にありました。雨が多い伊豆での日常の光景だったのでしょう。
トンネルから峠に向かって登ります。隧道の土被りはせいぜい100メートルくらいです。
9時40分 天城峠に到着しました。
「あまぎぃ~ごぉえ~♪」と脳内再生されたことは言うまでもない。
かつての交通の難所も、トンネル直前までバスで登ってきた横着な旅人からすると、なんと言うこともない場所です。天城越えの苦労をしのぶには、バスを使わずに麓の集落から直接歩き始めないと駄目ですね。
2.天城峠より天城の瞳の異名を持つ八丁池を目指す
先へ進みます。この光景を「幻想的な美しい森」と見るか「クッソ忌々しいガス」と見るかは、その人の感受性の豊かさによるところが大きいですね。
なお、私の感想は圧倒的に後者寄りです。ガスなんか大嫌いだ。
銃走路の標高が少し下がったところでガスから出ました。これで多少は機嫌が良くなりました。
天城山は標高1,500メートルにも満たない低山であるため、山全体が樹林帯に覆われており、ガスがあろうと無かろうともともと展望はあまりありません。
向峠と呼ばれる場所のようです。5万分の1縮尺の地図に名前すら載っていないような峠です。ここからは緩やかに上り返しが始まります。
この表面がつやつやしている木はヒメシャラです。幹に触れると冷たいのが特徴です。
ワサビ田と思われる段々畑の様な場所が見えました。水が豊富な伊豆らしい光景と言えます。
天城縦走路の光景は基本的にずっとこんな感じです。あまり代わり映えのしない光景が延々と続きます。
なんと言うか、「伊豆っぽさ」が皆無な道です。晴れていれば木の隙間から海が見えたりするのかもしれませんが、本日は一面シルキーな真っ白な世界が広がるばかりです。
あまりにも単調かつ傾斜も緩い道なので、駆け足に近いペースで歩きました。
これは絶対に滑るやつだと思ったら、本当に滑りました。分かっていても滑るものをどうやって防いだらよいのでしょう。
標高が上がってきた所で再びガスの中に突入です。ああ忌々しい。
雨が多いからでしょうか。他の山であれば、なにか固有の名前でも与えられていそうなサイズのブナの巨木が、至るところにゴロゴロ転がっています。
始めは感激してシャッターを切りまくりましたが、そのうちに見飽きてきました。私が過去に登ったことのある山の中では間違いなく最大級のブナ林です。
伊豆の森の木というの基本的に、皆こんな感じグネグネと曲がっています。なにか気候に由来する理由でもあるのでしょうか。
八丁池に近づいてきたところで少し森の雰囲気が変わってきました。アセビの群落が斜面を覆っています。
林道っぽい道と合流しました。寒天車道と呼ばれる道がこの少し下まで伸びており、駐車場からここまで短時間で上がってくることも可能です。
私はどうしても天城越えがしたかったので、わざわざ天城峠からここまで退屈な幻想的な美しい道を延々歩いてきましたが、特にこだわりが無ければ八丁池口までバスで乗り入れてから登る方が楽を出来ます。
トイレがありました。駐車場から八丁池までの道は、登山ではなく観光地の範疇にあるエリアです。
八丁池が見えてきました。あたり一面に蛙の鳴き声がこだましています。
11時35分 八丁池に到着しました。
芝生の上に座り込んで弁当を広げました。今日初めての大休止です。
風もなく、湖面のリフレクションが大変すばらしい。一時的ではありましたが、ガスも取れてくれました。
案内板によると、この池は通称「天城の瞳」と呼ばれているとか。
アップで見るとあまり綺麗ではありません。まあ、雨水が溜まっているだけでなんでしょうから。
3.天城縦走 登頂編 ひたすら長い縦走路をひた歩き、伊豆最高峰の頂へ
行動再開です。この日初めて目にする日光が森の中に差し込んで来ました。
私は極めて単純な人間なので、お日様の光を浴びただけで途端に上機嫌になります。これまで散々ガスへの悪態をついていたことなどすっかり忘れて、鼻歌交じりに美しいブナ林を歩きます。
万三郎岳があると思われる方角は、相変わらずガスったままです。まったく忌々しいガスめ。
高低差がほとんど無い道が延々と続きます。まあ、そのツケは後で一気に返すことになりますが。
12時45分 戸塚峠を通過します。平坦な道はここでお終いです。縦走路はここから高度を上げます。
万三郎岳に向けた登りが始まりました。等高線の密度を見るに結構な急登であることが窺えます。
ロープ場もありました。緩やかな道とは言え、ここまでで既に10km以上の道程を歩いて来た身としては、この登りは何気にキツイ。
息を切らせながら急登と格闘することおよそ30分で頂上が見えてきました。
やっと登頂かと思いきや、万三郎岳手前のピークである小岳でした。
最低鞍部の片瀬峠まで下ってきました。当然ながらここからは再び上り返しです。
ぜーはーぜーは、もう登るのヤだ
この時私は八丁池から途中休憩無しでここまで歩いて来ています。普通に考えればどこかで一本立てるのが妥当でしょう。
山頂付近にはマメ桜がまだ散らずに残っていました。標高1,000メートル越えの場所では、5月中旬でもまだ桜シーズンなんですね。
山頂に向けて最後の登りです。展望がないことを知ってるせいか、あまり気分が盛り上がりません。
13時45分 天城山最高峰、万三郎岳に登頂しました。歩き始めてから実に4時間半が経過していました。意外と遠かった。
山頂の様子
こじんまりとしており、展望は全くありません。ガッカリ百名山とか悪口を言われているだけのことはあります。
4.天城縦走 下山編 万二郎岳を越えて天城山登山口へ
さて、時刻はまだ14時前。帰りのバスは17時40分発の最終便に乗るつもりで計画していましたが、このペースなら1本前の16時10分に間に合いそうです。
と言う訳で、僅かな山頂滞在時間で下山を開始します。展望皆無な山頂に長居したところで得るものも無いですし。
万三郎岳の東側斜面には、この山の固有種である天城シャクナゲの群落地があります。そろそろ開花シーズンが近いと言うことで期待していましたが・・・
結果はこの通り。少し早かったようで、残念な状態でした。見ごろ迎えるのは来週以降でしょう。
フライングで開花している花が無いか探してみましたが、一つも発見できずです。
万二郎岳に向かって登り返します。気分はすっかり下山モードなのに、何気に結構険しい道だったりします。
ここでガスが晴れて、この日初めて海が見えました。縦走路も最終盤に差し掛かったところで、ようやく伊豆らしい光景に出会うことが出来ました。
目の前には万二郎岳の姿が見えます。今からアレに登るのか・・・
振り返るとガスに半分呑まれている万三郎岳の姿が見えました。全容が見えないものかとしばらく粘りましたが、次から次へと新手のガスが立ち上り晴れることはありませんでした。
14時55分 万二郎岳に登頂しました。万三郎岳に次ぐ天城山系の第二の高峰です。
天城山のピークと言うのは、何故みな歌舞伎役者のような名前をしているのでしょうか。
晴れていれば絶景を拝めるであろうスポットも、この通りとても残念な状態です。
あとはもう下るだけです。あまり歩く人のいない天城峠側の道と違い、天城高原ゴルフ場からの道は良く踏まれていて土が剥き出しになっていました。非常に滑るのでゆっくり慎重に下ります。
もう少しでゴールと言うところで最後の最後にまさかの登り返しがありました。
15時40分 天城高原ゴルフ場に到着しました。無事に天城縦走を完遂することが出来ました。
バス停向かいの駐車場にはトイレがあます。そこに靴の洗い場が併設されているので、バスに乗る前に靴の泥を落としておきましょう。
16時10分 時刻表通りにバスが現れました。JR伊東駅までの運賃は1,000円です。スイカ・パスモは使えません。
17時 伊東駅に到着しました。次の電車の時間まで20分ほど間があるので、伊豆成分を補充するために海を見に行きます。伊豆と言えば海でしょう。
波打ち際まで行ってみる。私は基本的に山の男なので、海とはあまり縁がありません。
そうこうしている内に電車の時間が近づいてきたので、足早に駅へ戻りました。
伊東線は静岡県内の路線なので漠然とJR東海なのだろうと思っていたら、意外なことにJR東日本でした。
だからなんだと思われるかも知れませんが、実は意外と重要です。JR東海はスイカが使えませんので。
帰りは新幹線を使わずに小田原から小田急線の鈍行に乗って帰還しました。時間は行きのおよそ1.5倍かかりましたが、運賃は半額以下です。新幹線高過ぎです。
今回の山行きでは、ほぼ終日に渡って忌々しいガスに祟られ、楽しみにしていたシャクナゲも見れず、勝ちか負けかで言うならば完全なる負け戦でした。やはり山は晴れている日に登ってナンボですね・・・
もっとも、天城山はもともと展望が売りの山ではないので、ガスっていても楽しむことは可能です。これほど大規模なブナ林にお目にかかれる山は日本に二つと無いかと思います。
なお、このコースは非常に長いので、縦走を計画する際にはなるべく朝一のバスに乗れるようにし、余裕を持って予定を組んで下さい。
<コースタイム>
天城峠BS(9:15)-天城峠(9:40)-八丁池(11:35~11:50)-小岳(13:20)-万三郎岳(13:45~14:00)-万二郎岳(14:55)-天城高原ゴルフ場(15:40)
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
コメント
シャクナゲコースのコンセプトも無視して、個人的には理由もなく冬に訪れがちなエリアですが、シャクナゲの開花は狙っても難しいものなのですね。ガスも(展望に秀でている訳ではない)この山域でまだ良かった(?)といったところでしょうか。
きっとルートのどこかに天城越えが含まれるはず、という短絡的動機で本コースを昨年末に逆向きで歩きました。嬉しい誤算だったのですが万三郎〜中岳の樹氷が見事で、さながら銀色の花が満開という様相でした。尚、当日の天候は本記事に負けない程度にはガス基調で大変忌々しかったです。笑
ペン生さま
コメントをありがとうございます。
天城山には2度登っているのですが、2度ともガスに祟られて、まだ一度も晴れた天城山の経験がありません。なかなかお天気の気難しい山であるようで。
冬に天城山へ登る人は珍しいと思いますが、見方をかえると穴場なんでしょうね。