
長野県松本市、上田市および長和町にまたがる美ヶ原(うつくしがはら)に登りました。
長野県の中央部に連なる筑摩山地に属している山です。山頂の周辺一帯がほぼ平坦な高原台地になっており、放牧地として利用されています。ヴィーナスラインと呼ばれる車道が山上まで通じており、山というよりは観光地の側面が強い場所です。
梅雨の合間の快晴日に、ゆるりと高原の牧場を巡ってきました。
2025年6月29日に旅す。
美ヶ原は長野県のほぼ中心部に位置している高原台地です。美ヶ原という名称は周辺全体を指している呼び名で、美ヶ原という名前のピークは存在しません。最高峰の名前は王ヶ頭(おうがとう)と言います。

山というよりは完全に観光地のカテゴリーに属していそうな場所なのすが、作家深田久弥が選んだ日本百名山にも名を連ねています。
山上部の一帯がほぼ平坦な草原になっており、美ヶ原高原とも呼ばれます。夏の間は牛の放牧地として利用されています。

この特異な地形は当初溶岩台地であると考えられていましたが、近年では浸食によって形成されたという説も唱えられています。まあ要するに、なぜこんな平らな地形になったのか理由はよくわからないということです。
登山とも言えない高原をぶらりと歩いてきた一日の記録です。どうぞ肩の力を抜いてご覧ください。

コース

道の駅美ヶ原高原を起点にして、最高峰の王ヶ頭を往復します。標高差はほぼ無いに等しく、登山というよりは高原の散策と呼んだ方がよさそうな行程です。
1.美ヶ原登山 アプローチ編 絶景の広がる観光道路ヴィーナスラインを行く
おっさん2人を乗せた車が、中央自動車道を快調に進みます。もっとも快調なのは往路だけで、帰りはどうせまたひどい渋滞に巻き込まれることでしょう。

美ヶ原のある筑摩山地の中央部は、公共交通機関からはほぼ見放されている一帯です。そのため長らく訪問が出来ずにいたのですが、本日は友人に車を出してもらいました。
諏訪インターで高速を降りて、日本で最も成功した観光道路との呼び声が高いヴィーナスラインで美ヶ原高原を目指します。

登り始めてほどなく、周囲の視界が開けました。霧ヶ峰や美ヶ原のある筑摩山地の中部は、どこか日本離れした草原の光景が広がっています。

美ヶ原は筑摩山地の中でも奥まった位置にあるため、高速を降りて以降の行程もかなりの長さです。

運転手のT君は左手を負傷しており、先ほどから右手でシフトレバーを操作するというアクロバティックな運転を見せられております。ちなみに、このスイフトスポーツ君はマニュアル車です。私はいったい何を見せられているのだ?
8時50分 道の駅美ヶ原の駐車場に到着しました。山頂最寄の駐車場はここではなく山本小屋ふるさと館の駐車場なのですが、そちらは既に満車状態だったのでこちらに来ました。

道の駅の駐車場は駐車可能台数がかなり多いので、よほどのことがない限り満車にはならないと思います。少し余分に歩くことにはなりますが、大した距離ではありません。
季節限定ですが、この道の駅へは松本駅から事前予約制のバスで来ることもできます。滞在可能時間は限られますが、一応は公共交通機関による日帰り登山も可能です。
2.全方位360度のパノラマが広がる牛伏山
9時 身支度を整えて本日の行動を開始します。ここまで登ってきたヴィーナスラインの車道とは別に、ハイキングコースがしっかりと整備されています。

ここからスタートする場合は、王ヶ頭に向かう前に牛伏山というピークを越えていきます。
有名観光地にある日本百名山の登山道だというのに、木道が腐りかけていてガタガタな状態です。尾瀬などでも同じような状況が散見されますが、役所の縄張りの問題で予算が出ないとかなんでしょうかね。

登り始めてすぐに、周囲が開けた草原の光景に変わりました。登山開始から5分とかからずにこの景色とは、美ヶ原が大人気なのにも納得です。

スタート地点の道の駅の標高がすでに1,900メートル少々あります。山頂の王ヶ頭までの単純標高差は100メートル未満でしかなく、登山というよりはお散歩の範疇と考えた方がよさそうです。
見渡す限り一面の草原が広がっており、放牧されている牛の姿が小さく見ます。もともと美ヶ原には亜高山帯の森が広がっていましたが、それが今のような草原に変わった最初の発端は山火事だったのだとか。

一度焼失して草原になった山上は、その以降は草刈り場として利用されるようになりました。それ以降は人の手によって定期的に草刈りや火入れが行われるようになったことにより、こうした草原状の環境が保たれています。
木道の脇に僅かな水流があり、クリンソウが咲いていました。泥炭層があるわけでもない平坦な山の上に、常時水流があるほどの保水力があるとは思えないので、おそらくは配管が埋まっていて人工的に作り出されている水流でしょう。

レンゲツツジも咲いています。レンゲツツジには毒があり、それを知っている牛は食べないため、放牧場のある場所に大規模な群生地が形成されることがよくあります。菅平高原牧場などが、レンゲツツジの群生地として特に有名です。

最高地点と思われる場所に、ケルンがたくさん積まれています。どうやらこの辺りが牛伏山の山頂であるようです。

一応は山頂標識もありました。ピークというよりは、丘の上の一部といった雰囲気の場所です。山頂の直ぐ先は放牧場の敷地になっており、柵に囲まれています。

草原の先にこれから目指す王ヶ頭の姿が見えています。山頂にはホテルの建物と大量のアンテナが建っており、まるで要塞かなにかのような物々しさです。

美ヶ原は長野県のほぼど真ん中の辺りに位置しているため、四方に電波を飛ばすのにはうってつけの場所なのでしょう。
この後に歩く道がすべて一望できます。美ヶ原のシンボル的な存在である美しの塔も小さく見えています。

みんな大好きな槍穂高を含む北アルプスの山並みです。6月末になっても、まだまだ残雪がたっぷりと残っています。夏山シーズンが開幕するのは、まだもう少し先のことであるようです。

美ヶ原と同様に、山というよりは高原の丘のような外観をしている霧ヶ峰です。車山山頂にあるドーム型の雨量計レーダーのおかげで、山座同定は容易にできます。

霧ヶ峰の右横には、南アルプス北部の山々が連なります。こちらは生憎と雲が多めですが、鳳凰三山から甲斐駒、北岳および仙丈ケ岳などがよく見えています。

山国長野県の中心にある場所だけに、どちらを向いても名峰名山が目白押し状態です。この眺めが、駐車場から10分くらい歩いただけで拝めるというこの贅沢さよ。
牛伏山だけでももう満足してしまいそうになっておりますが、ここはまだ前座というかただの通り道でしかありません。いつまでも油を売っていないで先へ進みましょう。

こちらが既に満車状態で止められなった山本小屋ふるさと館の駐車場です。王ヶ頭へ向かう場合はここが最寄となるわけなのですが、道の駅から歩いたところで、所要時間は30分と変わりません。

何故か山頂ではなく登山口に牛伏山のモニュメントが置いてありました。山頂までの5分少々すらも歩くつもりがない観光客のための、記念撮影用か何かでしょうか。

こちらの山本小屋ふるさと館は、土産物販売所兼宿泊施設です。帰る前にここの売店で高原ソフトクリームを食べることを、本日の最終ミッションと位置付けます。

3.牧場の只中に建つ、美ヶ原のシンボル美しの塔
ここから牧場の中を突っ切っている道を進んでゆくわけなのですが、アップダウンがほぼ無い車も通るフラットな道が続きます。やはりこれは登山ではなく、完全に散策の範疇ですなあ。

柵の中に牛が放し飼いされており、好き勝手に草を食んで過ごしています。これらの牛は美ヶ原牧場が所有しているわけではなく、酪農家から夏の間だけ預かって放牧しているものらしい。

牛だけではなくポニーもいました。何やらもの悲しげな表情をしているように見えるのは気のせいでしょうか。

草原内に水たまりがいくつか点在していますが、これは天然池ではなく人工的に作られた水場です。雨水と湧水をためて作っているらしい。

山頂にある王ヶ頭ホテルへの送迎バスが、牧場の中を行き来しています。ホテルに宿泊する客であれば、一歩も歩くことなくこの光景を目にすることができるわけです。やっぱり観光地なんだよなあ。

私は何気に今回が人生初の美ヶ原なのですが、今まで敬遠していた理由として公共交通機関によるアクセスの悪さのほかに、そもそもここは山ではなくて観光地であるとの思いが少なからずあったからです。
美しの塔の前まで歩いて来ました。美ヶ原と言われて多くの人が真っ先に思い浮かべるのは、おそらくこの光景ではないでしょうか。

この鐘楼を備えた石造りの塔は観光客向けの飾りでは決してなく、霧が発生して視界不良になった際の避難所として建てられたものです。美ヶ原はもともと霧が発生しやすい場所で、過去には視界不良による道迷い遭難が何度も発生しています。
美しの塔からこのまま道沿いにずっと歩いていけば王ヶ頭に至るのですが、もっと崖沿いの近くを通るパノラマコースという登山道があるらしいので、当然そちらへと進みます。

4.烏帽子岩を経て王ヶ等の山頂を目指す
観光地の喧騒からは離れて、登山の領域と言えなくもない道へと入ってゆきます。先に言っておきますと、この先も別に登山靴ではなくスニーカーで侵入してもまったく問題はありません

テーブル状の高原大地の端の部分は、キレ落ちた崖になっていました。この崖際に沿うように道が続いています。見るからに眺めがよさそうで、これは期待が持てそうです。

進行方向の左前方に松本盆地が広がっています。現在地が長野県のほぼ真ん中であるということが、たいへんよくわかる光景です。

乗鞍岳がよく見えます。こちらもまだまだ残雪がたっぷりとあり、夏山にまだ少し早い状態です。

谷を挟んだ向かいには、鉢伏山(1,929m)の姿がありました。美ヶ原と同様に観光地として名高い、高ボッチ高原の背後に立っている山です。ちなみに、あちらも山頂すぐ下まで車で入れます。


眼下の谷底に三城牧場があります。道の駅美ヶ原高原からではなく三城牧場からスタートすれば、美ヶ原で登山らしい登山をすることも一応は可能です。

可能というか当初はそのつもりで計画していたのですが、同行のT君が左手を怪我したということで、急遽ゆるふわな高原散策に切り替えたという経緯があります。
背後には茶臼山(2,006m)という、王ヶ頭とは尾根続きのピークがあります。三城牧場を起点にして登る場合には、茶臼山までを含めた周回ルートにすると、ボリューム感的に程よい感じになりそうです。

王ヶ頭の姿を前方に捉えました。実に気持ちの良さそうな道が続いているではありませんか。だてにパノラマコースを名乗ってはいません。確かに素晴らしいパノラマです。

崖に突き出している岩があります。烏帽子岩と呼ばれており、このルートにおけるハイライト的な存在です。

一応わずかなアップダウンはありますが、ここでも登山と呼べるほどの強度はありません。あくまでも高原散策の範疇です。

10時15分 烏帽子岩まで歩いて来ました。烏帽子の名を関した山やら岩は割と全国各地に存在しますが、烏帽子自体が全く身近なものではない現代人的にはいまいちピンと来ない名称です。

烏帽子とは、平安時代の貴族などが被っている縦長の帽子のことです。
足元は断崖絶壁です。落ちたらよくて大怪我、下手をすれば普通に死ぬ高さなので、あまり際ではしゃがないようにご注意ください。

ゴールの王ヶ頭は最初からずっと見えているのですが、歩けど歩けど一向に近づいてきている感じがしません。なまじ視界が開けすぎているためか、距離感が少々おかしくなってしまっているようです。

少し進んだ場所から振り返ってみた烏帽子岩です。こちら側から見ると、いまにも落っこちそうな状態になっています。

見る角度によってはまあ、烏帽子っぽく見えないこともないかな。

このまま山頂に向かって登って行くのかと思ったら、一度山頂の下を通り過ぎるように道が続いています。

この辺りにもレンゲツツジがポツポツと咲いています。群生地と呼べるほどの規模ではありませんが、緑一色の草原には程よいアクセントになっています。

振り返ってみたパノラマコースの全容です。確かに素晴らしいパノラマでした。

このまま道なりに大きく回り込んで行っても山頂に到達できますが、途中から折り返してショートカットできる道があります。

鋭角な九十九折りで山頂に向かって一気に登ります。最後の最後で、ようやく山道らしい山道になりました。スニーカー履きの観光客は、ここからではなく道なりに回り込んだ方がいいと思います。

10時40分 王ヶ頭に登頂しました。美ヶ原は日本百名山にも名を連ねている一座なのですが、やはり全く山に登った感はありませんでした。登山ではなく高原を散歩したい人にはおすすめです。

さらに先に進むと、王ヶ鼻(2,008m)というもう一つのピークがあります。まだ全然歩き足りないという人は、あそこま足を延ばしてみると良いかと思います。

遠くから見えていた通り、山頂の大部分はホテルの建物とアンテナ塔に占拠されています。景観的にはちょっと風情が欠けています。

5.牧場を散策しながらもと来た道を戻る
山頂に建つ王ヶ頭ホテルです。軽く調べてみましたが、宿泊料金は1人あたり3万円からです。

利用人数が2人以上からの宿泊プランしか存在しない辺りが、いかにも昔ながらの伝統的な宿泊施設といった感じで、私には一生縁のなさそうな場所です。
美しの塔と共にパンフレットの写真などでよく目にする巨大モニュメントは、ホテルの前にありました。うーん、観光地ですなあ。

モニュメントの前から見た王ヶ頭の山頂です。林立しているアンテナ塔がいかにも物々しく、近くから見てもやはりどこか要塞感があります。

帰りはパノラマコースではなく、バスの通り道から戻ります。坂の部分は舗装されているのですが、穴だらけでボコボコな状態です。あの送迎バスは、かなり酷い乗心地なのではなかろうか。

往路に歩いたパノラマコースの道と、帰路に歩く道が並んで見えています。間をフェンスによって隔てられていますが、距離的には割とすぐ近くを並走しています。

牧場の真っ只中を突っ切るようにして道が続いています。ここだけを見ると、絵面的にはまるで北海道の光景のようです。

黒毛の牛は一般的に高級な食肉用のイメージがあります。体格的に大きくて、非常にがっしりしているように見えます。なんだか無性に焼き肉が食べたくなって来ましたよ。

月並みな感想ですが、すごく強そうです。とてもではありませんが、これにエストック1本で戦いを挑もうという気にはなれません。マタドールは命知らずですな。

この白黒のまだら模様の牛はホルスタインと呼ばれる種類で、食肉用ではなく乳牛です。しきりに岩を舐め回していますが、どうやら塩が撒いてあるようです。

ちょうど見ている目の前で塩撒きの時間が始まり、すごい数の牛がワラワラと集まってきました。牛さんはしょっぱいものが好きなんですね。

その脇を、砂埃を巻き上げながら送迎バスが通り抜けてきます。だいたい1時間に1本くらいの頻度で通るようです。

予定通り高原ソフトクリームをいただきます。高原牧場を名乗る場所に訪れたからには、高原ソフトクリームは絶対に欠かすことができない重要な要素です。うむ、濃厚ででうまし。

霧ヶ峰と八ヶ岳は、王ヶ頭からよりも牛伏山の山頂からの方がよく見えます。車で簡単に来れてしまうためついつい忘れそうになりますが、現在地がとてつもない山の中であることがよくわかる光景です。

結局最後まで登山した感は全くありませんでしたが、それでも素晴らしい高原の光景は満喫できました。

道の駅に美術館が併設されているらしく、何やら前衛的な彫刻が多数野外展示されています。ちなみに私は前衛的という言葉を、「なんだかよくわからない変なモノ」くらいの意味合いで使います。

11時55分 道の駅まで戻って来ました。片手をケガしている状態でも何の問題もなく歩ける、安心安全な良き散策路でした。

先ほどから、こんなの登山じゃないとでも言いたげなひねくれたコメントばかりをしてしまいましたが、見所がたくさん詰まった良き観光地であることは間違いないし、十分に楽しめました。
登山ブログで扱う題材としてはどうなのだろういう疑問は無きにしもですが。
6.美ヶ原登山 帰還編 中央道に慈悲はない
再びアクロバティックな片手運転が繰り広げられている車の助手席から、ヴィーナスラインの車窓風景を楽しみます。

誤解があるといけないので一応言っておきますと、私は3回くらいは「今日はやめておく?」と聞いたのですが、T君が大丈夫だ問題ないと言うので決行されました。
決してケガ人に無理を言って運転をさせている訳ではございません。
まだこれだけ早い時間であれば、帰りの渋滞に巻き込まれることなく帰れるのではないか。と、この時はまだそんな甘い幻想を抱いていました。

しかし日曜日の中央道上り線は、そんなに甘いものではありませんでした。15時前の段階から早くも出された渋滞予想により、希望は木っ端みじんに打ち砕かれました。

NEXCOが出す渋滞予測は、いつも残酷なまでに正確です。結局はいつも通りの場所でしっかりと渋滞に巻き込まれつつ、長い長い帰宅の途に就くのでした。

諸々あって長らく未踏であった美ヶ原でしたが、感想としては前評判通りの観光地でした。これは決してネガティブな意味合いで言っている訳ではなく、登山を目的に出向く場所ではないと言っているだけのことです。
駐車場から数分歩くだけで、アルプスを始めとした近隣の山々の絶景を眺めることのできる美ヶ原は、文句なしに魅力的で優良な観光地です。ガッツリとした山登りではなく、高原を気軽に散策したい人にはとてもお勧めです。
それでもどうしても美ヶ原で登山がしたと言う酔狂な方は、私は今回は紹介することが出来ませんでしたが、三城牧場から登りましょう。
<コースタイム>
道の駅美ヶ原高原(9:00)-牛伏山(9:15)-山本小屋ふるさと館(9:20)-烏帽子岩(10:15)-王ヶ頭(10:40)-山本小屋ふるさと館(11:30~11:40)-道の駅美ヶ原高原(11:55)
最後までお読みいただき、ありがとうございました。





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