栃木県日光市にある高山(たかやま)に登りました。
中禅寺湖と戦場ヶ原の間に挟まれるようにして立つ山です。様々な種類のツツジが咲く花の名峰と知られており、比較手的手ごろなコースタイムであることから幅広い層に登られている、小粒ながらも人気の一座です。
観光地として名高い竜頭の滝から、隠れた秘境感のる西ノ湖まで、中禅寺湖西端の一帯を巡り歩いて来ました。
2023年5月21日に旅す。
奥日光の高山は中禅寺湖北岸に立つ山です。周囲を名だたる名峰に囲われているためあまり目立たない存在ですが、ツツジの名所として知られる山です。
標高は1,668メートルほどあり決して低山ではありませんが、中禅寺湖自体の標高が既に海抜1,270メートルほどあるため、登山口からの標高差は小さく手軽に登れる山です。
北関東の山の例に漏れず、日光にある山の多くはヤシオツツジが咲きます。中でも高山はシロヤシオの群生地として名高い存在です。
ツツジシーズンの最盛期を迎えた高山の山中では、期待していた通り視界のすべてを埋め尽くさんばかりの勢いにミツバツツジとシロヤシオが咲き誇っていました。
2023年のシロヤシオは10年に1度の当たり年であると言われていましたが、確かにかつて見たことがない規模の咲きっぷりでした。
高山に登った後は、千手ヶ浜から西ノ湖(さいのこ)へと足を伸ばします。かつては中禅寺湖の一部であった遺留湖であり、訪れる人も疎らな秘境めいた場所です。
満開のツツジを愛でつつ、ついでに中禅寺湖の西岸を散策してきた一日の記録です。
コース
竜頭の滝(りゅうずのたき)バス停よりスタートし、竜頭の滝を見物しつつ高山へ登頂します。下山は中禅寺湖側へと下り、千手ヶ浜を経て西ノ湖へ。
西ノ湖からの帰路は、赤沼車庫から千手ヶ浜の区間を往復している低公害バスを利用します。
1.高山登山 アプローチ編 贅沢に新幹線を使って行く日光への旅路
5時57分 JR東京駅
都内から日光方面にお出かけの際の交通手段としては、東武線の利用が最も一般的であろうかと思います。しかし本日は思うところがあり、新幹線利用によるアプローチを行います。
贅沢がしたいわけではありません。これは最近気が付いてしまった、とある一つの事実を確かめるための実証試験です。
6時52分 宇都宮に到着しました。流石は新幹線です。高いけれど早い。早いけれど高い。
宇都宮駅で7時発の日光線に乗り換えます。この時間の電車に乗るためには、新幹線でないと乗り継ぎが間にあいません。運賃が高くつくのはやむなし。
7時44分 JR日光駅に到着しました。新幹線を使えば、これだけ早い時間に日光に到達が可能です。ちなみに東武線の始発電車を乗り継いでいくと、日光に降り立てるのは最速で8時18分です。
たったの24分の差のために新幹線代を出すのは馬鹿らしいと思うかもしれませんが、この差が大きな違いを生みます。
なんと言う事でしょう。7時50分発の湯元温泉行きのバスに繋がってしまうのです。どうやらこのバスの時間に間に合うらしいことが判明したため、本日急遽実証試験を行った次第です。
このバスに乗れれば、公共交通機関利用による男体山や白根山への日帰り登山のハードルはかなり低くなるはずです。この一本後のバスだと、どうしても登山開始時間が遅くなってしまいますからね。
8時57分 竜頭の滝バス停に到着しました。それでも出発時間は9時近くになってしまいましたが、奥日光エリアの山深さを考えれば、十分に御の字であると言えるでしょう。
その分運賃が高くつくのはやむなしです。大事な事なので2度言いました。
2.登山開始前に竜頭の滝を見物する
高山登山に取り掛かる前に、まずは竜頭の滝を見物していきましょう。超有名所な観光地でありながら、実は一度も現物を見たことがありません。
山に登るまでもなく、早くもシロヤシオが咲いていました。これは幸先が良いですね。山中にあると言う群生地にも大いに期待が高まります。
入口に茶屋があり、駐車所も完備しています。鑑瀑席があるらしいので、滝を眺めつつ一服したい人は立ち寄って行くと良いのではないでしょうか。
この先は竜頭ノ滝園地として、滝のすぐ脇に歩道が整備されています。
もっと目の前からかぶりつきで滝を眺めらるものだと思っていたのですが、滝までは割と距離があって高みの見物状態です。あれ?思っていたのとは少し違うぞ。
そんなことを思いつつも登って行くと、イメージしていた通りの鑑瀑台がしっかりとありました。どうやら杞憂だったようです。
観光案内のパンフレットなどで何度か目にしたことのある通りの姿をした滝が、轟々と流れ落ちていました。岩肌の表面をつたって流れ落ちるいわゆるナメ滝の一種で、戦場ヶ原と中禅寺湖の間のおよそ60メートルの落差を流れ下っています。
竜頭の滝は奥日光名瀑三滝なるもの一つに数えられています。残りの二つは華厳の滝と湯滝です。
滝の撮影では定番のスローシャッターでも一枚。三脚は持ってきていないので、気合の手持ち腕力手振れ補正です。
滝上まで登って来ました。ここにもバス停があるので、竜頭の滝見物はせずに真っすぐに高山に向かいたいのであれば、滝上バス停で下車するのが最短です。
橋の上から見下ろした竜頭の滝です。湯川が中禅寺湖に向かって流れ込む地点にあるのが良くわかります。
背後には男体山がデンと立っていました。しかしいつも見てもでっかい山ですねえ。
肝心の高山の登山口ですが、滝上バス停から橋を渡って右手に入口があります。
山頂までは僅か2.4kmです。標高差は小さく、高尾山レベルの山です。と言う事で気楽に参りましょう。
3.高山登山 登頂編 ツツジ科の花が勢ぞろいの花咲く頂き
植生保護の柵を通って登山を開始します。日光の山は現在どこもシカの食害による被害が深刻で、このように厳重な保護策が取られています。
足元がびっちりとコバイケイソウに覆われていました。まだ花の季節ではなく緑々した葉を茂らせています。この花は毒草なので、シカの食害による被害は受けないようです。
登り始めてからしばしの間、殆ど標高差のない水平移動の道が続きます。周囲ではエゾハルゼミが大合唱をしていました。もうそんな季節になりましたか。
早速シロヤシオ様が現れましたよ。タイミングとしては完璧で、満開の見頃です。
ミツバツツジやヤマツツジも咲いており、ツツジ三種盛り合わせ状態で花を咲かせていました。
確かにポツポツと咲いてはいるのですが、大群生地と言う感じでは無く疎らにしか咲いていません。
シロヤシオに関しては、日光の山の中でも高山が一番見ごたえがあると聞き及んでいたのですが、今のところはそれほどでもない印象です。この程度なら、社山の群生地の方がもっと凄いと思うのですが。
長々と横移動が続いたところで、登山道がようやく真面目に標高を上げ始めました。それではいっちょう気合いを入れて行きましょう。まあ実際のところ、気合を入れるまでもない山なんですけれどね。
樹林が濃くてあまり展望は効かないのですが、時々こうして隙間から遠くが見えます。頭だけがピョコっと見えているのは日光白根山(2,578m)です。
あっけなく尾根まで登って来まました。この先は山頂までずっと尾根沿いの道となります。
尾根沿いになってからも、急坂は無く緩やかで歩きやす道です。危険な場所もなく、日光の山の中ではダントツで初心者向きな山だと思います。
今度はシャクナゲが咲いていました。こちらも満開状態で見頃のド真ん中です。
まさにツツジ科の花が勢ぞろい状態です。後はレンゲツツジが加われば完璧ですが、流石にまだちょっと早いかな。
足元に戦場ヶ原が広がっているのは何となく見えます。高山は戦場ヶ原のすぐ傍らに立っている山なのですが、残念ながら広く周囲を見晴らせるような展望スポットはありません。
シャクナゲは直射日光を嫌う性質があるため、こうして主に北側斜面の日陰になっている場所に多く咲いています。シャクナゲを目にする機会が多い奥秩父でも、確かに鬱蒼とした薄暗い苔の森の中によく咲いています。
逆にシロヤシオやミツバツツジは日当たり良好な南側の斜面に多く咲いています。同じツツジ科の花の中でも、生息領域の住みわけがあるのですね。
ようやく中禅寺湖が見える場所がありました。先ほどからチラチラと隙間から見えてはいたのですが、なかなか開けている場所はありません。
背後には男体山。開けていたらさぞや素晴らしい眺めであろうロケーションにある高山ですが、展望の方はイマイチです。やはりこの山の本分はツツジにあると考えて良さそうです。
10時30分 高山に登頂しました。花を眺めながらのんびり歩いても、滝上から僅か1時間15分ほどの道程でした。実にお手軽な山です。
山頂まで隙間なく樹林に覆われており、展望は一切ない山頂です。花の無い季節に登ってきても、きっとガッカリするだけの山頂であることでしょう。
そのかわりと言ってはなんですが、ツツジが凄いことになっていました。爆発的に咲いています。
高山のツツジの本番は、日当たりが良好な南側の登山道にあったようです。竜頭の滝から登ってくるルートは主に北側を通るため、それほど咲いてはいませんでしたが、高山の真価は中禅寺湖側の登山道にあります。
4.高山登山 下山編 ツツジのトンネルの中を行く、南側の登山道
展望ない山頂にいつまでも留まっていたところで得るものはありません。ツツジが咲き乱れる登山道へと飛び込んで行きましょう。
確かにこの咲っぷりは凄い。日光でシロヤシオを見たければ高山へ行くべしと言われる所以が、大変よく理解できました。
まだ咲き始めたばかりらしく、やや小ぶりな花弁です。ピークを迎えるのは翌週頃になるのかな。今でも十分すぎる見ごたえではありますが。
そもそもミツバツツジとシロヤシオと言うのは、開花時期がこんなにモロ被りしているものなんでしたっけか。例年だとミツバツツジの方がやや早い印象でしたが。
頭上まで視界のすべてを埋め尽くすように咲いており、まさにツツジのトンネル状態です。
今年は十年に一度の当たり年だと言うのは、誇張ではなさそうですね。かつてお目にかかったことない咲きっぷりです。
中禅寺湖側の登山道は、竜頭の滝側に比べると道の幅が狭くやや急峻な登山道です。すれ違いも割と頻繁にあるので慎重に。
特によそ見をしていると危ないので、鑑賞する時は立ち止まってから見上げましょう。
11時20分 山頂から30分程下って来たところで、峠が現れました。左へ行くと中禅寺湖があり、右へ進むと戦場ヶ原方面へ下りられます。
まだまだ全然歩きたりない気分なので、中禅寺湖側に下ります。この時点ではゴールをどこにするのか、全くのノープラン状態でした。
小さな沢に沿って緩やかに下ります。新緑シーズンの山を歩く喜びの全てが詰まっているかのような、実に気持ちの良い道です。
前方に中禅寺湖が見えて来ました。結局高山の山頂からは、1時間とかからずに降りてこれました。ここから右へ進むと千手ヶ浜方面で、左へ進むと竜頭の滝バス停へ戻れます。
一見すると海なのかと思うような砂浜が印象的です。とりあえずはいつものお約束のセリフである「ヒャッハーッ(みず)うみだー!」を叫んでおく。
その後どうするかは追々考えるとして、とりあえずは千手ヶ浜まで歩きましょう。この辺りはもう観光地の領域らしく、山登りの格好そしていない観光客の姿が散見されました。
この中禅寺湖沿いの歩道では、ミツバツツジに変わってヤマツツジが主役です。まだ開花シーズンにはやや早かったらしく、つぼみ状態の花が多く目につきます。
サクサクと快調に飛ばして、あっさりと千手ヶ浜まで歩いて来ました。
12時 千手ヶ浜に到着しました。中禅寺湖の西端に位置している砂浜です。ここへは赤沼車庫から運行している低公害バスでやってくることができるため、多くの観光客で賑わっていました。
ここへはバスのほかに、中禅寺湖の遊覧船でも来ることが出来ます。しかし運行開始は6月に入ってからと言う事で、この日はまだ就航開始前でした。残念。
5.奥日光の秘境、千手ヶ原と西ノ湖
確たる目的も無しに千手ヶ浜まで歩いてきてしまったわけなのですが、もう少し先まで進みます。中禅寺湖越しの高山の姿を写真に収めるためであることは言うまでもありません。
砂浜からバッチリと、本記事の冒頭を飾った高山の姿を撮影することが出来ました。まあなんと言うか、地味ですね。
右手には男体山の姿がありました。やはりこの山の存在感は桁違いです。日光そのものシンボル的な存在ですからね。
千手ヶ浜まで来たのですから、クリンソウの群生地のある仙人庵を覗いていきましょう。開花シーズにはまだ早いですが、今年の花の開花時期はことごとく前倒しされている感があるので、もしかしたらもう咲いているかもしれません。
思った通りクリンソウシーズにはまだ早く、咲きはじめの個体が僅かにある状態でした。
こうして数輪だけでも咲いている状態を見れただけで良しとすべきか。
この後はこのまま中禅寺湖の南岸歩道を歩いて中禅寺温泉バス停まで歩くプランも考えましたが、今の時間からだと流石に少々長すぎるようにも思えます。さあて、どうしてくれようか。
地図を広げていて目に止まった、西ノ湖に立ち寄って行くことにしました。千手ヶ浜からさらに西へと進んだ地点にある小さな湖です。なかなか訪問することもなさそうな場所ですから、今回はちょうど良い機会です。
西ノ湖方面に足を踏み入れると、足元がびっちりとマルバタケブキに覆われた平坦な空間が広がっていました。ここは千手ヶ原と呼ばれている平原で、かつては中禅寺湖の一部でしたが、土砂の堆積により陸地化しています。
かつては湖の一部だった場所にこれだけの森が育つのに、一体どれ位の時間を要するものなのでしょうか。
途中で道から少し外れた場所に、山の神様がいらっしゃいます。大した距離でもないので一応は立ち寄って行きましょう。
森の中に小さな社がポツンとあるだけの素朴な空間です。正直ここはスルーしても良いかな。
吊り橋が現れたら、対岸に渡ります。漠然とこの沢は西ノ湖から流れて来ているのかと思っていましたが、あらためて地図を見ると西ノ湖からの流出河川は存在しないようです。
わざわざ車止めがあるので、車両通行禁止の徒歩専用橋であるらしい。止められるまでもなく、車で突っ込む人はいなさそうですが。
13時20分 西ノ湖に到着しました。周囲を山に囲まれた静寂な空間です。もともとはここも中禅寺湖の一部であり、千手ヶ原が陸地化したことによって取りに残された、いわゆる遺留湖と呼ばれるものです。
今は渇水期なのか、干上がった湖底を大きく晒していました。前述の通り西ノ湖には流出河川が存在せず、まとまった水量のある大きな流入河川もありません。そのため湖面の水位は降水量によって大きく変動します。
逆に長雨が続くと、増水して付近の森が水没することもあるそうです。何の洪水調整機能も備えていないのだから、まあ当然ですね。
なかなか来る機会はなさそうな場所ですが、最寄りのバス停から歩いて20分少々で見に来ることが出きます。千手ヶ浜のクリンソウ見物に訪れた時などに、ついでに足を伸ばしてみてはいかがでしょうか。
6.高山登山 帰還編 低公害バスで撤収する
見るものも見たし、そろそろ撤収しましょう。千手ヶ浜まで戻る必要はなく、途中に西ノ湖入口と言うバス停が存在します。
微かに轍の跡が残る道です。かつて車両も通行する林道か何かだったのでしょうかね。
道なりに進むと、舗装された道にでました。戦場ヶ原の入り口にある赤沼車庫から、ぐるっと高山を迂回して千手ヶ浜までを結んでいる道です。一般車の通行は禁止されており、電動の低公害バスが運行されています。
西ノ湖入口バス停まではもうひと道、車道を歩く必要があります。電動バスと自転車以外は入ってこない道なので静かなものです。
13時50分 西ノ湖入口バス停まで歩いて来ました。間が悪く前のバスが行ってしまった直度で、次のバスは14時34分です。
バス時間が近づくにつれて徐々に人が集まり、バスは満員御礼状態となりました。私は今回初めて乗りましたが、こんなに人気のある路線だったのですね。
20分少々の乗車時間で、赤沼車庫に到着しました。冬に庵滝を見に来た時以来の訪問です。
道の向かいに地元の小学生と思われる集団がいました。栃木県の小学生は、やはり遠足の行き先は毎回日光なのだろうか。ちなみに、私の通っていた小学校では行き先は毎回高尾山でした。
さしたる待ち時間もなしにやって来た路線バスに乗り込み、長い長い帰宅の途に着きました。
コースタイム的に何となく物足りなさを感じて訪問を見送っていた高山でしたが、ツツジの咲きっぷりは聞きしに勝るものでした。日光でシロヤシオを見たければ高山へ行くべしとこれまで何度も耳目にしていましたが、それはまったくもって正しいと思います。
手軽に登れる山であるのというのは長所ともなりえる要素ですが、歩き応えを求める人にとってははやや不満の残るボリューム感であるものまた事実です。その時は西ノ湖や中禅寺湖南岸歩道を合わせて廻ってみては如何でしょうか。小粒な山ながらも、大いに推奨します。
<コースタイム>
竜頭の滝バス停(9:00)-滝上(9:15)-高山(10:30~10:50)-千手ヶ浜(12:00~12:35)-西ノ湖(13:20)-西ノ湖入口バス停(13:50)
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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