白神岳 世界遺産のブナ林と十二湖への試練の道程

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青森県深浦町にある白神岳(しらかみだけ)に登りました。
屋久島と共にユネスコ世界遺産(自然遺産)に登録された白神山地に立つ山です。山中には人間による開発の手がほとんど及んでいない、深いブナの森が広がっています。また山の麓には崩山の山体崩壊による堰き止めによって作られた十二湖と呼ばれている湖沼群が点在しており、観光地化されています。
背丈を越える藪をかき分けて、白神岳から十二湖までを繋げて歩いて来ました。

2024年8月24~25日に旅す。

白神山地は秋田県と青森県の境界にまたがる広大な山域です。マタギくらいしか立ち入る者はいない深山幽境の山域であり、ほぼ手付かず状態のブナの天然林が保存されています。
白神岳山頂から見た白神山地の奥地
平成5年に屋久島と共に、日本国内では初めてユネスコ世界遺産の自然遺産に登録されました。

白神山地にはだいぶ以前から興味を持っていましたが、何しろ東京からは遠く離れた場所にあり、なかなか訪問出来ず後回しになっていました。今回、ようやく訪れることが出来ました。

白神岳単体に登るだけならば、朝早くに登山口を出発すれば普通に日帰り登山も可能です。今回はせっかく機会なので十二湖まで縦走しようと思い、山頂の近くにある白神岳避難小屋に泊まって1泊2日の行程で歩いて来ました。
白神岳避難小屋
特に深い考えも無しに立てた縦走計画でしたが、十二湖コースはそんな安易な気持ちで歩けるほど優しい道ではありませんでした。

白神山地の稜線上は、最低限の刈払いが行われているだけの深い笹に覆われていました。暑さによる自身の発汗と朝露で水浸しになり、悪戦苦闘を重ねながら薮をかき分けて来た記録です。
白神岳の笹薮

コース
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JR五能線の白神岳登山口駅よりスタートして蟶山(まてやま)コースを登り白神岳に登頂します。山頂直下にある避難小屋で一泊して、翌日は十二湖まで縦走します。

この十二湖コースは分岐から大峰岳までの稜線がほぼ藪に没しており、正直オススメはしかねる状態にありました。詳細は本編にて。

1.白神岳登山 アプローチ編 秋田側から行く白神山地への遠き道程

8月23日 22時50分
秋田行きの夜行バスに乗車すべく、バスタ新宿へとやって来ました。
夜のバスタ新宿
コロナ渦以降は何となしに夜行バスの利用は敬遠していたのですが、秋田まで新幹線で前乗りしてかつ前泊となると流石に費用がかさむため、久々の利用です。

これから目指す五能線の白神岳登山口駅は青森県内にありますが、東京から向かう場合は秋田県側から北上していった方が運賃が安いし時間的にも早いです
秋田駅行きの夜行バス乗り場

明けて8月24日 8時40分
秋田駅に到着しました。なかなかの乗車時間でしたが、奮発して3列シートにしておいたおかげで、しっかりと睡眠をとることが出来ました。
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体調は万全ですが、朝の時点からすでに蒸し暑いです。白神岳の標高は1,200メートル少々でしかなく、低山と言ってしまっても差し支えの無い高さしかありません。

恐らく今日は相当な暑さに苦しめられる一日となりそうです。

秋田県にはこれまで何度か訪れていますが、秋田駅に来たのは自身初めての事です。駅舎は立派な建物ですが、駅の周囲は県庁所在地の駅とは思えないくらいに閑散としています。
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秋田犬に歓迎される。寝ている間に運ばれたのであまり実感がありませんでしたが、ようやく秋田まで来たなあと言う気分になりました。
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「悪い子はいねぇがぁー?」秋田県らしく(?)ちょうど駅の改札を出た真正面の場所に巨大なまはげが置かれていました。巨大なりんごに出迎えされる弘前駅と、果たしてどちらがよりインパクトが強いだろうか。
JR秋田駅のなまはげ

目的地の白神登山口駅は無人駅で、交通系ICカードにも対応していません。と言う事で、目的地までの切符を購入してから乗車します。
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在来線切符の自動販売機で買える金額の範囲外であるため、特急券販売機かみどりの窓口で購入する必要があります。秋田駅は白神山地への旅のスタート地点でしかなく、この先はまだまだ長い。

9時44分発の大館行きの奥羽本線に乗車します。五能線の起点駅である東能代駅まで、およそ1時間ほどかかります。
秋田駅の在来線ホーム

10時45分 東能代駅に到着しました。前々から一度乗ってみたいと思っていた五能線に、ようやく乗車出来る時がやって来ました。
東能代駅のホーム

五能線は秋田県の東能代駅と青森県の弘前駅とを結んでいるローカル線です。日本海の沿岸部を走るため、車窓からの風景が大変素晴らしいと評判の路線です。
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走り出してほどなく海が見えてきました。海からの風をモロに受ける位置を通っているため、天候が荒れることの多い冬には頻繁に運休となります。
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12時2分 時刻が正午を回ったところで、ようやく白神岳登山口駅に到着しました。いやはや遠かった。
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ホームに降り立つなり、むわっとした熱気が出迎えてくれました。こんな気温の中を、標高1,000メートル少々の低山に登ろうなどと、我ながら狂気を感じます…

上り4本下り5本。これが五能線の運行本数のすべてです。その他に特急列車のリゾートしらかみが1日に3往復していますが、白神岳登山口駅には停車しません。
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2.登山口までの灼熱の舗装道路歩き

12時15分 だいぶ時間も遅くなってしまいましたが本日の行動を開始します。よりにもよって日中の一番熱い時間帯になってから動き始めるとか、我ながら狂気を感じます。(2度目)
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日本海が目の前にあります。白神岳は海からの湿った風が直接吹き付ける位置にあることから、年間を通じて降水量が多く、冬にはかなりの量の雪が降ります。その過酷な気象により、稜線上は森林限界を超えた笹原が広がっています。
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登山口の駐車場までは、しばしの舗装道路歩きです。直射日光の下を歩くと、眩暈を起こしそうになるような暑さです。はやく樹林帯の中に逃げ込みたい。
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12時50分 白神岳登山口駐車場まで歩て来ました。車でお越しの人はここまで入ってこれます。というか、五能線を使って白神岳に登りに来る人は、圧倒的に少数派であろうかと思います。
白神岳登山口駐車場

先客の車が6台ほど停まっています。おそらく大多数は日帰りでこの後下山してくるのだと思いますが、山頂の避難小屋に泊まるつもりでいる人がどれくらいいるのか気がかりです。
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事前の調査によると、白神岳山頂の避難小屋はあまり大きな建物では無く、収容人数はせいぜい7~8人程度です。一応ツェルトは用意してきましたが、小屋からあぶれるような事態にならないことを願う次第です。

駐車場の脇に、東北地方の山ではよく見かける休憩所付きのトイレあります。山小屋だと言われても納得してしまいそうな、かなり大きな建物です。
白神岳登山口のトイレ
まだ登山開始前のアプローチの段階でしかないというのに、早くも汗だく状態です。小屋の入り口前に靴洗い用の水道があったので、顔と言うか頭全体を洗ってクールダウンしました。

今からこんな体たらくで、本当に今日中に山頂まで登れるのだろうか。

中の休憩所スペースはかなり広々としており、快適な宿泊が出来そうです。十二湖まで縦走する気が無いのなら、ここに前泊して日帰りで登るのも全然ありな選択肢だと思います。
白神岳登山口の休憩場
この後散々身をもって味わうことになりますが、そもそも十二湖への縦走コースはかなり荒れていて、正直おすすめはしかねる状態にあります。

小屋の脇から山中へと分け入って行きます。幸いにも頭上にどんよりとした雲が垂れ込めてきて、お日様がギラギラ状態からは解放されました。
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このまま山道が始まるのかと思いきや、舗装された林道歩きがもう少しだけ続きます。
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林道の終点らしき場所まで歩いて来ました。
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駐車場の料金所のような小さな建物が建っており、中に登山届の投函ポストがあります。まだ出していない人はここで提出していきましょう。
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3.幽境のブナ林が広がる白神岳への道程

ここからようやく登山道が始まります。自宅を出発してから既に14時間ほど経過しています。なかなか骨の折れるアプローチでした。
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世界遺産の山に外部から種子などを持ち込まないためのマットが設置してあります。出発する前に足の裏をゴシゴシしていきましょう。
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厳密に言うと、世界遺産に登録されている領域は白神岳山頂の東側に広がっている一帯で、本日歩こうとしている登山道は世界遺産の範囲外にあります。

そもそも自然遺産に登録されてしまうと、人間によるいかなる変更も加えてはならないというルールが適用され、道標を立てたり下草を刈ったりすることすら認められなくなります。

歩き始めて早々から、まるで密林を思わせるような鬱蒼とした森が広がっています。雨が多いのだなと一目でわかる植生です。
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入山者数を数えるカウンターが設置されていました。白神岳は一応日本二百名山と言うタイトルを保持している山ですが、訪れる人の数はそれほど多くはない山です。
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交通アクセスが困難であることが最大の理由だと思いますが、人間よりもクマの数の方がはるかに多いと言われている山域だけに、純粋に怖いからという理由で敬遠している人も少なくないのではなかろうか。

以外(?)にも、階段などがしっかりと整備されています。もっとほったらかし状態な自然に近い山を思い浮かべていましたが、少なくとも世界遺産の範囲外にある登山道はしっかりと整備されています。
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当然場所にもよりますが、ルート上の大部分で携帯の電波も入ります。人里からは遠く離れ、クマが我が物顔で闊歩するような秘境めいた深山を思い浮かべていると、若干肩透かしを食らうかもしれません。
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白神岳は広大な白神山地の中でも前衛部に位置している山であり、中心の一帯にはそもそも登山道がありません。あくまでも表に面したほんのさわりの部分を歩けるだけだと言う事です。

誰かの忘れ物らしい、蚊取り線香入れがポツンと取り残されていました。たまにこれを腰にぶら下げて歩いている登山者を見かけますが、果たしてどの程度の効果があるのだろうか。一度試してみるかな。
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まるで奥多摩のような杉林にも見えますが、これは檜の仲間のヒバ林です。青森ヒバは建築用の木材としては最上のものとして、古くから重用されてきました。
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13時55分 二股分岐まで歩いて来ました。ここで、山頂までは最短だが急登の二股コースと、緩やかな登りだが若干遠回りの蟶山コースに分岐します。
白神岳 二股分岐
もう時間も遅いので最短ルートで行きたいところではありますが、二股コースは荒れ気味との情報もあるので、無難に蟶山コースに進みます。

分岐を過ぎて以降もすぐに尾根には乗らずに、トラバースしながら緩やかに登って行きます。今のところ、尋常ではなく蒸し暑いという点を除けば、至って歩きやすいごく普通の登山道です。
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途中に何ヵ所か水を取れる場所があります。荷物が重くなるのでなるべくギリギリまで水を汲まずにいたいところではありますが、どこがラストになるのかはわからないので、そろそろ観念して確保しておきましょう。
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翌日の分も含めて、ここで3Lを調達しました。ズシリと重くなった荷物にため息をつきつつ先へ進みます。

水を汲んでからさらに10分ほど登って行くと、また水が湧き出ている場所がありました。
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そしてなんのことは無い、わざわざ親切に最後の水場であることが案内されていました。・・・たかだか10分少々、余分に思い荷物を背負って歩いただけの事ではありますが、なんだか損をした気分です。
白神岳 蟶山コースの最終水場
白神岳の山頂近くにも水場があるのですが、常に水が出ている保障はないため、ここで必要量を確保しておいた方が無難だと思います。

水場を過ぎると、蟶山に向かって真面目に標高を上げ始めました。時間も時間だけにペースを上げていきたいところではありますが、先ほどから既に全身汗だく状態で、なかなかペースを上げられません。暑いんだってば。
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自分で登っていて言うのもなんですが、白神岳は真夏に登るべき山ではないと思います。

頭上は依然として鬱蒼とした森に覆われていますが、何となく青空が見えて来ました。そろそろ稜線が近い。
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15時30分 蟶山分岐まで登って来ました。蟶山の山頂はルートから少し外れた位置にあるようですが、時間が押しているのでスルーして先へ進みます。ヘッドライトが必要な時間になる前には、避難小屋まで辿り着きたい。
白神岳 蟶山分岐

急登は一旦終わり、一時の安息のような緩やかな尾根道なりました。このあとに山頂の手前で、もう一度大きな登りがあります。
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前方を横切っている尾根が見えて来ました。あれが白神岳の主稜線です。最後にもうひと登り、頑張っていきましょう。
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周囲の木々の背丈が低くなって来ました。そろそろ森林限界が近そうです。現在地は標高1,000メートルちょっとでしかありませんが、それでも森林限界となるのはそれだけ冬の気象が過酷なのでしょう
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前方の視界が開けました。直射日光に照らされるなり、どっと大粒の汗が吹き出します。既にだいぶ日が傾いているのにこの暑さとは恐れ入ります。勘弁してください、干からびちゃいます。
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目的地の避難小屋らしき建物が視界に入りました。この後にわかることですが、実はこの建物は避難小屋ではなくトイレです。避難小屋はもっと奥にあり、ここからではまだ見えません。
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背後の視界も開けて、海が見えました。ああ、良いですね。個人的に海が見える山は大好きです。
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稜線まではあとわずかです。暑さにやられてだいぶバテ気味ですが、ラストスパートをかけていきます。
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17時15分 大峰岳分岐まで登って来ました。明日歩く予定の十二湖コースが、入り口からして既に藪状態なのが気になりますが、ひとまずは気にしないことにします。
白神岳 大峰岳分岐

分岐まで来ればもう山頂はすぐそこなのだと思い込んでいましたが、まだひと道あります。稜線の上に出て道の傾斜は緩くなりましたが、その代わりだとでも言わんばかりに泥んこ状態になりました。
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白神山地中央部の山々が見えます。今歩いている稜線が世界遺産エリアとの境界線になっており、稜線の東側は条約により「人の手によるいかなる変更も加えてならない」とされている一帯です。
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ようやく山頂が見えて来ました。暑かったからと言うのもありますが、歩行距離や標高差などの数字から受ける印象よりもだいぶしんどい道程でした。
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こちらが道中からも見えていたトイレです。世界遺産の環境保全のためという名目で予算が付いたのか、かなり立派な建物で内部も清潔でした。
白神岳のトイレ

トイレの向かいにあるこちらが、本日のお宿となる避難小屋です。豪雪の山らしく2階部分にも入口があるのが印象的です。
白神岳 避難小屋

17時40分 白神岳避難小屋に到着しました。正式な名称は白神岳大周満天避難小屋と言うらしい。名前の通り、きっと夜には大周満天の星空を見ることができるのでしょう。期待しておきましょう。
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ちなみにこの小屋の所在地は世界遺産エリア内に少しだけ食い込んでしまっているのですが、世界遺産登録以前からまったく同じ場所に小屋が立っていたため、「新造ではなく改築である」という名目で建て替えたのだとか。

それほど大きな建物ではありませんが、内部は3階建て構造になっていました。中段は天井も低くて、構造的にちょっと出入りし辛いかもしれません。
白神岳避難小屋の内部
危惧していた混雑はなく先客は1名だけで、後から3人登って来て宿泊者は合計5名となりました。

4.白神岳避難小屋で過ごす一夜

今夜の寝床のスペースを確保したら、ひとまずはピークハントをしておきましょう。山頂は避難小屋から5分とかからない距離にあります。
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17時55分 白神岳に登頂しました。眼下には登山道すらも存在しない、白神山地の中心部の山々が広がっています。文字通り人知の及ばない原始の山々です。
白神岳の山頂

遠くにピョコっと頭だけ突き出ているこちらの山は、津軽のシンボル岩木山(1,625m)です。そう言えば確かに、岩木山の山頂からは白神山地が良く見えていたっけか。
白神岳から見た岩木山

南側の秋田方面の展望です。男鹿半島の先に鳥海山らしき山があるのが何となく見えます。
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能代にある秋田洋上風力発電所の巨大風車が目を引きます。日本国内では初めて商業運転を行っている洋上風力発電所です。
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海の上ではどうしたって機器類が塩の影響受けるだろうし、メンテナンス費用は相当かさむでしょうね。果たして採算は取れるのだろうか。

日本海へと夕日が沈んで行きます。こうして海へと沈む夕日を拝めるのは、日本海側にある山の特権です。
白神岳山頂から見た夕日

なんてことを考えていたら、海に沈む直前にガスが湧いてきてしまいました。あれま、残念。
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唐突に始まる宴の時間。私よりも先に小屋に居た先客の方は、白神岳の巡視活動をされていて、現役の猟師でもあるという人でした。おかげさまで、色々な話を聞くことが出来ました。
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明日歩こうとしている十二湖コースについては「3年前に1度下草の刈払いを行っている」「今年になってからは一度も歩いていない」との事でした。

前途に一抹の不安を憶える状況です。大丈夫かな・・・

自分で仕留めたクマの爪で作ったというキーホルダーを見せてもらいました。こんなのにパンチされたら、たまったものではありません。
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これが結構売れるらしく、販売元からはもっと仕留めて来てくれとせっつかれているのだとか。確かに欲しいかもしれない。

宴もたけなわになったところで外に出て見ると、期待していた通りの星空が広がっていました。なるほど確かにこれは大周満天です。素晴らしい。
白神岳避難小屋の星空

天の川が肉眼でもくっきりと見えます。ちなみにこれはシャッター速度30秒の長秒露出で撮影したものです。
白神岳山頂から見た天の川

北斗七星も良く見えています。流れ星が頻繁にビュンビュンと飛び交っており、長秒露出で撮影するとそれらしき線がしっかりと写っていました。
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5.白神岳山頂から拝むご来光

明けて8月25日の4時55分。出発前に山頂からのご来光を拝んで行くべく、夜明け前に始動します。表に出ると、既に東に空はオレンジ色に焼けつつありました。
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朝露でぐっしょりと濡れた笹をかき分けて、山頂へと向かいます。
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昨日に続いて2度目の白神岳登頂です。眺めの良さそうな場所に陣取って、その瞬間が訪れるのを待ちます。
夜明け前の"白神岳山頂"

やはり岩木山の姿が一際目を引きます。津軽富士の異名を持つ山ですが、南側から見ると山頂が尖っていてあまり富士山型には見えません。
白神岳山頂から見た岩木山

5時1分に、ちょうど八甲田山の真上に太陽が昇って来ました。
白神岳山頂からのご来光

「あーたーらしーいーあーさがきたー♪」といつものようにラジオ体操のテーマ曲が脳内再生されました。もはや条件反射になってしまっているのかもしれない。
白神岳山頂からのご来光

世界遺産エリアのブナ林が、眩い朝日に照らされて行きます。今日も暑さに苦しめらる一日となりそうです。
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水はまだ2L以上残っているのですが、足りるか少々不安なので出発の前に水場に寄っていくことにします。水場への分岐は、山頂の直下にあります。
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この水場は世界遺産エリアの中にあるため、下草も刈れないし道標を立てることも出来ないとのことです。そのため出入口がかなり分かりづらくなっています。
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実際、小屋に居合わせた巡視員の方に話を聞けていなかったら、恐らく発見できなかっただろうと思います。

背丈を越える藪の中を、わしゃわしゃとかき分けて下りていきます。笹の表面は朝露でぐっしょり濡れており、朝っぱらから全身が水浸しになりました。
白神岳の笹薮

やがて小さな谷になるので、そのまま谷沿いに5分少々下っていきます。
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だいぶか細い水流ではありますが、しっかりと水は出ていました。これほど山頂に近い位置にある水場ながら、真夏でも完全に涸れてしまう事は無いのだとか。雨が降らなくても、朝露の水がしたたり落ちて水源になるのだろうか。
白神岳山頂の水場

6.大峰岳へと続く藪尾根の死闘

5時25分 一夜を過ごした山頂を辞去し、行動を開始します。
白神岳避難小屋

地面が朝露でぐっしょりしていることを除けば、実に気持ちの良い稜線です。こんな感じの道がずっと続いてくれると嬉しいのですが、そうは問屋が卸しませんでした。
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右手に向白神岳(1,250m)が見えています。白神山地の最高峰は白神岳ではなくこの向白神岳なのですが、世界遺産エリア内にあるため登山道は存在しません。
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背丈を越える笹薮に阻まれて、無雪期の登頂はほぼ不可能であるとのことです。どうしても登りたかったら、雪のある季節にスキーを履いて行くしか到達する方法はありません。

反対側には昨日登って来た蟶山に至る尾根がつらなり、そのすぐ先は日本海の大海原です。本当に海のすぐ近くになる山なのが良くわかる光景です。
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6時10分 大峰岳分岐まで歩いて来ました。十二湖方面に進むと、間違いなく酷い目に遭います。それでも行きますか?覚悟が出来たのなら、右へ進みましょう。
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分岐を過ぎるなりいきなり道が藪っぽくなりましたが、まだ普通に歩けるレベルです。今にして思えばレインウェアの下だけも履くべきでしたが、そのまま突入してしまいました。それが後に恐ろしい結果をもたらすとはつゆ知らずに。
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向白神岳方向に向けられた定点カメラがありました。そして、道がまともなのはこのカメラまででした。
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藪の密度が一気に増しました。確かに下草は刈られてはいるのですが、文字通り刈っただけの状態です。地面は平坦ではなくデコボコしており、谷側に向かって斜めになっている場所もあります。そして笹で地面は良く見えない。
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この藪エリアに入って早々に、地面だと思って踏んだ場所が実は笹の上で、そのまま滑落しかけました。何とか笹にしがみついて転落は免れましたが、全身水浸しになり、おまけに長年愛用してきた帽子を失いました。

前方にこの後登る大峰岳が見えて来ました。ここから小刻みにアップダウンを繰り返しつつ鞍部へ下って行くのですが、樹林帯に入れば笹が無くなり多少は歩きやすくなるのだろうか。
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刈られているのはあくまで下草だけです。横から登山道上に飛び出している枝や倒木などは、基本的に一切手を加えられずそのままとなっています。世界遺産に認定されていることと関係があるのかな。
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登山道の整備と言うと足元のことばかりを思い浮かべがちですが、こうした横から侵犯してくる枝を落としたりするのも結構重要な要素なのだと言う事を、嫌と言うほどに理解しました。

結構な急坂ですが、当然ロープなどはありません。そしてどこもかしこも濡れていて滑ります。これはルートの選択を誤ったか。しかし、いまさら引き返したくもないし、頑張ってこのまま進むしかありません。
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森の中に入って、ようやく一息つくことが出来ました。あっさり抜けて来たかのように見えるかもしれませんが、分岐からすでに2時間以上を要しています。その間に撮った写真が数枚しかないことが、何よりも悪戦苦闘ぶりを物語っています。
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笹の稜線上よりはいくらかマシになったというだけで、相変わらず道の状態は良いとは言えません。引き続き、転げ落ちないように気を引きしまてまりましょう。
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大峰岳に向かって登りが返します。九十九折れもない一直線で、ここでも当然ロープはありません。枝やら根っこやらを掴みつつよじ登ります。
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ズボンの外側は朝露で水浸しだし、内側は自身の汗でこれまた水浸し状態です。下半身全体がぐっしょりと濡れて股ずれを起こしてしまったらしく、歩くたびに痛みが走るようになってしまいました。

失敗しました。早朝に笹薮の中を歩くときは、レインパンツを履かないと駄目ですね。

9時50分 大峰岳に到着しました。標準コースタイムを大幅に上回る時間をかけての到着です。歩行距離で言うとまだ中間地点くらいなのですが、この先の道は多少はマシになってくれるだろうか。
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周囲に誰もいないことをこれ幸いと、軟膏を塗ってひとまず股ずれの応急処置を施します。これで多少は痛みが和らぐと良いのですが。

7.最後まで油断できない青池への下山行

大峰岳を過ぎると笹薮は無くなりましたが、その代わりだとでも言わんばかりに、足元が泥んこ状態となりました。つまり、依然として歩きやすくはありません。
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それでもまあ、だいぶマシではあります。十二湖コースの核心部は、大峰岳分岐から大峰岳山頂の区間であると思います。

お隣の崩山までの区間は、下り一辺倒ではなく小刻みにアップダウンを繰り返します。この辺りは比較的楽に歩けると思います。
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と油断していると、殆ど崩れてしまっているトラバースが現れたりします。油断禁物。家に帰るまでが白神岳です。
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十二湖コースに入って以来初めて、ベンチと言う偉大な文明の器具を目にしました。表面は苔生しており、自然に還りつつあるようでしたが。
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11時35分 崩山に到着しました。十二湖側からここまで日帰りで登って来る登山者は結構いるとのことで、この先はもう普通の登山道になるはずです。もうひと踏ん張り、頑張って降りましょう。
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確かに道の状態は目に見えて良くなりました。良くはなりましたが、崩山からは一気に標高を落とし始めるため、この先は最後まで急な下りが続きます。
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崩落個所にはしっかりとトラロープが張られていました。ロープ!なんと素晴らしき文明であろうか。一般登山道とはまことに良きものでありますなあ。
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黙々と下山を続けている訳なのですが、いよいよ股だけではなくその間にあるモノまでもが擦れて痛くなってきましたぞ。この症状を何と呼べば良いのだろうか。タマずれ?
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最後の方はザレた涸れ沢沿いの急坂を下ります。ここまでの道がひど過ぎてだいぶ感覚が鈍ってきていますが、結構危ない箇所もあるので最後まっで気を抜かずに慎重に下りましょう。
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谷底まで下って来ると、涸れ沢と道が完全に一体化していました。雨の日には歩かない方が良さそうな道です。
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十二湖の一つである鶏頭場(けとば)の池が見えて来ました。この長く苦しかった下山行も、ようやくにして終わりが訪れました。
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13時40分 青池まで下って来ました。この先はもう、登山ではなく観光地の領域となります。
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十二湖と言う名称とは裏腹に、実際には大小合わせて33の湖沼群があります。十二湖は西暦で言うと1704年の江戸時代に発生した地震により、崩山が山体崩壊を起こして沢がせき止められたことにより形成されたと考えられています。

十二湖の中でも特に有名なのがこの青池です。なるほど確かに青いですね。今は陽が影ってしまっていますが、陽が差し込むともっと鮮やかな明るいブルーに見えます。
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青く見える理由はものすごく大雑把に言うと、池の底の岩が白いため光を良く反射するからだそうです。丹沢のユーシンブルーと同じ理由ですな。

バス停まではまだもうひと道あまりますが、観光客も歩く平坦な道です。
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この十二湖を真面目に散策しようとすると、ほぼ丸一日を費やす必要があるだけのボリュームがあります。登山のついでにちょっと見て回れるような規模感ではありません。
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と言う事で、余計な寄り道はせずに真っすぐにバス停を目指します。タマも痛いしね。

13時55分 森の物産館キョロロまで歩いて来ました。十二湖駅行きのバス停は、建物の正面にあります。
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14時発のバスに乗車します。帰路のバスは1時間後の15時にもう一本ありますが、その後の五能線との接続を考えると、この14時のバスに間に合わないと色々面倒なことになります。結構ギリギリの綱渡りでした。
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15分程の乗車時間で十二湖駅に到着しました。車内は結構混雑しており、立ち乗車でした。
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十二湖駅は無人駅なのですが、併設されている土産物店には普通に店員さんがいます。青池をイメージしたという青いソフトクリームを頂きました。なんと言うか、普通のバニラ味の方がおいしいかな。
240824白神岳-115
本当は不老不死温泉にも立ち寄りたかったのですが、時間的にもう1泊しないと難しそうです。駅のトイレで着替えだけを済ませて撤収します。

15時12分発の五能線に乗車します。これを乗り逃してしまうと、次の秋田方面行きの列車は2時間後までありません。
十二湖駅に入線する五能線

往路と同じ工程を逆に辿り、秋田駅からは新幹線で帰宅の途に付きました。
秋田駅の新幹線ホーム

今回はどう考えても訪問時期を間違ってしまったとしか思えない山行きでした。白神岳は真夏の最中に登るべき山ではありません。
白神山地と聞くと、多くの人は人跡も疎らな深山幽境の光景を思い浮かべるかもしれませんが、白神岳までに限って言えばごく普通の東北地方の山でした。真に白神山地らしいと言えるであろう領域には、そもそも立ち入ることが出来ません。
殆ど思い付きで決めた十二湖までの縦走コースについては、正直なところあまりオススメはしません。今日までに私が経験してきた藪などは、藪漕ぎとは言えないレベルのお遊戯でしかなかったのだと思い知らされました。登山口のトイレ兼休憩所に前泊して往復するのが一番無難ではなかろうかと思います。
一般登山道をただ往復しただけでは白神山地らしさは味わえないと思うもの好きな方は、十二湖まで足を伸ばしてみては如何でしょうか。くれぐれも足の踏み場にだけは十分ご注意ください。

<コースタイム>

1日目
白神岳登山口駅(12:15)-白神岳登山口駐車場(12:50~13:05)-二股分岐(13:55)-大峰岳分岐(17:15)-白神岳避難小屋(17:40)-白神岳(17:55)

2日目
白神岳避難小屋(5:55)-大峰岳分岐(6:10)-大峰岳(9:50~10:05)-崩山(11:35)-青池(13:40)-十二湖駐車場バス停(13:55)

白神岳山頂での記念撮影

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

コメント

  1. U-leaf より:

    お疲れ様でした。
    このコース気にはなっていたのですが、こんな事になっていたのですか。
    ゆるふわ系登山とは真逆の方向性で厳しそうです。

    • オオツキ オオツキ より:

      U-leafさま
      コメントをありがとうございます。

      白神山地と聞いて多くの人が思い浮かべるであろう、ほとんど手付かずな原始性の高い山のイメージに一番近そうなのがこの十二湖コースです。それを望むところだと思う人以外にはおススメしません。