山梨県山梨市にある鶏冠山(とさかやま)に登りました。
奥秩父山地のほぼ中央付近に位置している、笛吹川の源流部に立つ岩峰です。その名の通り鶏の鶏冠を思わせるような険しい山容を持ち、付近からはたいへん目を引く存在です。山頂に通じる一般登山道は存在せず、難易度の高い危険な山であると見なされています。
山梨百名山最恐と呼ばれる山で待っていたのは、前評判に違わぬ高度感抜群の岩稜でした。
2022年5月29日に旅す。
今回は山梨百名山の一つである鶏冠山へと登って来ました。山梨百名山の中でも特に登頂難易度が高いとされている、通称四天王と呼ばれている中の一座です。
鶏冠山は、奥地秩父山塊の中心に位置する甲武信ヶ岳の前衛に立つ山です。麓の西沢渓谷にある二股橋から、名前の通りの鶏冠のような姿が良く見えるため、印象に残っている人も多いのではないでしょうか。
見た目通りに険しい山であり、山頂へと至る一般登山道は存在しません。いわゆるバリエーションルートのみとなります。
山梨山のグレーディングでは、難易度Dの扱いとなっています。稜線上はかなりの高度感があることから、山梨百名山最恐(最強ではない)などとも評されています。
まあようするに、とてもおっかない山だと言う事です。
私は普段から岩場は苦手であると公言しておりますが、しかし山梨百名山の完登を目標としている以上、遅かれ早かれこの最恐の山との対峙は避けて通る事が出来ません。
かくして意を決して訪れた鶏冠山。鶏冠の上部には評判通りのスリリングな光景が広がっていました。自称、安全第一をモットーとするセーフ登山家が行く、山梨百名山最恐の山の訪問記です。
コース
西沢渓谷入口から歩道沿いに進み、途中から道をそれて東沢沿いの鶏冠谷出合へ。そこから山梨百名山の標柱のある鶏冠山第三岩峰を往復します。
山と高原地図には記載の無いルートであるため標準コースタイムは不明ですが、概ね往復9時間程度の行程となります。
1.鶏冠山登山 アプローチ編 タクシーで西沢渓谷入り口へ
4時30分 JR三鷹駅
鶏冠山西沢渓谷ピストンは、コースタイムがおよそ9時間とそこそこ長めとなる行程です。日帰りするために必要な行動時間を捻出するために、朝っぱらから自転車をこいでやって来ました。
私の自宅最寄駅は京王線なのですが、三鷹駅発の始発電車に乗れば1時間以上早くに現地入りすることが出来きます。
高尾駅から大月駅へと、始発電車をリレーして行きます。乗り換え時間にあまり余裕はありませんが、おなじJR同士なので乗り継ぎは間違いなく繋がります。
6時24分 塩山駅に到着しました。登山口の西沢渓谷へは路線バスでも行けるのですが、始発便が8時30分発です。それでは到着が遅すぎて必要な行動時間を確保できないので、この先はタクシーを使います。
前日の内に予約してあった塩山タクシーが、既に待機していました。なお、この時間帯にはまだ流しのタクシーはいないので、事前予約必須です。
タクシーは快調に国道140号をひた走り、6時52分に西沢渓谷入口に到着しました。料金は確か7,000円ちょうどだったかな。路線バスだと約1時間かかる道のりが、タクシーだと僅か30分でした。
路線バスで来た場合、運賃は1,050円ですが、ここに降り立てるのは最速で9時30分になります。つまりは差額の6,000円で2時間30分の行動時間を買ったとも言えます。
西沢渓谷の入口に立つ東沢山荘です。以前は宿泊も出来たらしいのですが、現在はお食事どころのみの営業です。ここで前泊できればそれも一つの手だったのですけれどね。
帰りの最終バスは、塩山駅行きが15時40分で山梨市駅行きが16時25分です。15時40分に間に合えば途中のみとみ笛吹の湯に立ち寄れますが、間に合わなければ温泉はなしです。
一応は15時40分を目標としますが、なにしろ危ない山なので焦るのは禁物です。あくまでも安全第一で参ります。
2.鶏冠山への入口 東沢の鶏冠谷出合へ
身支度を整えて、7時ちょうどに行動を開始します。いつも思うのですがこの狐のマスコット、マスコットにしてはあまり可愛くないですよね。
入口の道標に、しっかりと鶏冠山の名前もかかれていました。西沢渓谷への訪問者のうち、鶏冠山が目的地の人なんて極めて少数派でしょうけれどね。
鶏冠山への登山口がある東沢の分岐地点まで、西沢渓谷の歩道に沿って奥へと進みます。
ネトリ広場までやって来ました。普段は多くの観光客でにぎわう場所ですが、この時間帯はまだ周囲に人影もなく閑散としていました。
広場に設置されている西沢渓谷の鳥瞰図に、目指す鶏冠山の姿がしっかりと描き込まれていました。岩がビッチリで見るからにヤバそうな姿をしています。
この鳥観図は山梨市の観光課の職員だった方が描いたものです。西沢渓谷の他に、大弛峠や乾徳山の登山口にも同じ作者の作品が設置されています。何気に凄いクォリティで、つい毎回見入ってしまいます。
この方は現在、温絵文(ぬくえもん)と言う名前でイラストレーターとして活動しています。2022年の3月に描かれたと言う新作もありました。
ちなみに現在、西沢渓谷の一番の目玉とでも言うべき七ツ釜五段の滝は見ることが出来ない状態です。主役が不在な状態とあっては、見物に来た人もガッカリなのではないでしょうか。
ネトリ広場からさらに奥へと進むと西沢山荘と言う建物がありますが、こちらも現在は営業していません。
鶏冠山や甲武信ヶ岳への前泊に使えそうな宿が軒並み全滅してしまっている訳なのですが、今はみんな車でやってくるから、あまり需要は無いのでしょうかね。
車でも入れる道なのは西沢山荘の前までで終わりです。ようやく崖沿いを行く山道らしい道になりました。
西沢と東沢の合流地点に架かる、二股橋へとやって来ました。目指す鶏冠山は、この東沢の源流部にあります。
二股橋の上から東沢の上流方向を見ると、目指す鶏冠山の姿が目の前にありました。しかし、本当に名前の通りの見た目をしておりますなあ。
見ての通り距離的には結構近くにあり、横方向へ移動距離自体は割と短めです。にも関わらず9時間近くの行動時間を要するのは、それだけ急峻で険しい道であるからです。
広義にはこの山全体が鶏冠山な訳ですが、山梨百名山の標柱があるのはこの第三岩峰と呼ばれている地点です。見たところ完全に絶壁に覆われており、一筋縄で行かなそうです。
西沢渓谷の入り口へとやって来ました。鶏冠山へ向かうには、ここから遊歩道を外れて右へと入ります。
この先は遭難事故の多発地帯であると言う事で、入り口には警告が掲げられていました。それではいっちょう、気を引き締めて参りましょう。
この先へと進むのは、鶏冠山へ登ろうと言う登山者の他に、東沢を遡行する沢屋さんたちもいるようです。誰でも歩ける遊歩道として整備されている西沢とは異なり、東沢の方は素人お断りの大変険しい沢です。
河原へと下りたところで、背後に先ほど渡った二股橋が見えました。現在地は、橋の上から見えていた砂防堰堤の上の空間であるようです。
この東沢の河原に幕営適地があり、荷物がデポしてありました。車は無いけれどタクシー代を払うのはどうしても嫌だと言う方は、ここで前泊するのも一つの手ではあります。
河原を東沢の上流方向へと進みます。はっきりとした道筋ではないものの、何となく踏み跡らしきものはあります。
7時50分 鶏冠谷出合と呼ばれる地点へとやって来ました。ここで沢を渡り対岸へと移動します。
ぱっと見では分かり難いですが、対岸にある木の幹のかなり高い場所に標識が掲げられていました。かなり高い場所にありますが、どうやってあの場所に取り付けたのでしょうか。まさかわざわざここまで、ハシゴを持ってきたのだろうか。
当然橋などはあるわけがないので渡渉するのですが、水量は結構多めです。なんとか飛び石伝いに行けないものかと周囲をウロウロしましたが、靴を脱いで渡るしかないと言う結論に達しました。
水が超冷てぇ!僅かな距離ながらも、冷たいを通り越して痛いくらいの水温でした。
この渡渉地点の川底の石には結構ヌメリがあり、水の中で何度も滑って転びそうになりました。渡渉時にはストックを使用した方が安定すると思います。
本日は岩稜歩きの邪魔になるだろうと思いストックを持ってきていなかったのですが、それは明らかな大失敗でした。。
3.シャクナゲが咲き誇る、第一岩峰コルまでの急登
渡渉を終えたところで、対岸に案内の標識が掲げられていました。バリエーションルートとは言っても、しっかりと整備はされているようです。
鶏冠沢沿いに少し登ったところで、すぐに左の尾根に取り付きます。取り付き地点はかなり急で無理やり感がありますが、踏跡はしっかりとあり明瞭です。
尾根に乗りました。この先はずっと、この尾根を忠実に辿ります。
進行方向の左手に岩の絶壁が見えています。あれが第一岩峰なのかな。
周囲の光景がいかにも奥秩父の山らしい雰囲気に変わって来ました。奥秩父の山の例に漏れず、鶏冠山もシャクナゲが咲きます。そのため今回、シャクナゲシーズンを狙って訪問しました。
登るにつれて尾根の傾斜が増して来ました。谷を挟んだお隣にある甲武信ヶ岳の徳ちゃん新道と同様に、鶏冠山もまたかなりの急登です。ここでもやはり、ストックを持ってこなかったのは失敗でしたな。
周囲にチラホラと、咲いているシャクナゲの姿が現れ始めました。この辺りはまだ序の口と言ったところで、本命はこの先の岩稜帯に出てからです。
やがて登って来た尾根は、前方を横切る別の尾根に合流しました。踵が痛くなる様な傾斜の急登が続いていましたが、一旦はここで終了です。
シャクナゲのトンネルに飾られた、緩やかな尾根道を進みます。この付近は、来る嵐の前の一時の安息と言ったところです。
すでにだいぶ萎れており、まもなく散ってしまう寸前と言ったところでしょうかね。満開を迎えているのは、もう少し標高の高い一帯であるようです。
安息タイムは長くは続かず、岩場が現れました。もうこの先は岩稜歩きになるのかな、と言う事でここでヘルメットを着用しました。さあ、気を引き締めて参りましょう。
岩肌にコイワカガミが咲いていました。もっと標高の高い山に咲く花のイメージのある花ですが、奥秩父にも咲いているんですね。
よじ登る系の道になってまいりましたよ。今のところは、特に難所と言えるほどの場所はなく順調です。
このまま岩稜帯に歩きに移るのかと思きや、岩壁の下を行くトラバースに移りました。このトラバース地帯は足元が崩壊気味で、さほど怖そうには見えない見た目とは裏腹に、危険度が高めであると感じました。
長々としたトラバース地帯を抜けると、今度はガレ場の急登が始まりました。この辺りは踏み跡が不明瞭でかなりルートが分かり難いので、目印のピンクテープを見逃さないように注意力を要します。
10時10分 第一岩峰のコルと呼ばれる地点へと登って来ました。稜線上の肩になっている広々とした空間で、鶏冠山では数少ないザック落として休憩するのに適した場所です。
ちなみに現在地は、下から見上げた時のこの場所です。これでようやく、鶏冠の上に乗ったことになります
第一岩峰が目の前にありますが、ぱっと見ではこちらへと登る道はないようです。クライマーではない一般登山者には、そもそも登れないのだろうか。
4.鶏冠山登山 登頂編 岩稜帯の先に待つ山梨百名山最恐の頂
インゼリーで軽くエネルギー補給を済ませて、先へ進みます。既に稜線上に出たはずなのですが、今のところ周囲の光景にはあまり変化がありません。
やたらと倒木が多く、トレイルは全般的に荒れ気味です。こうして岩にはしっかりと目印のマーカーが描かれているので、見落とさない限りは道に迷うことはないかと思います。
中にはこんな風に、道が思いっきり倒木に塞がれている場所もありました。下をくぐるしかないのですが、何気に苦戦しました。もともと体自体が大柄な上に、デカいカメラをぶら下げているものだから、狭い場所を潜り抜けるのが苦手なのよ。
稜線上に出たら、すぐにでも岩稜帯歩きが始まるものだと思っていたのですが、意外にも森の中を行く道が続いており、なかなか岩場が始まりません。
岩場歩きのイメージが非常に強い鶏冠山ですが、全体の割合で言うなら岩稜歩きは1割にも満たないと思います。
再び始まるシャクナゲロード。ちょうど今いる辺りの標高が満開を迎えているらしく、そこかしこに花を咲かせていました。
なにかと地味であると言われがちな奥秩父が、一番華やぐ季節はいつなのかと問われたら、それは間違いなくシャクナゲが咲く5月下旬から6月の上旬にかけてであると思います。
もっともこの鶏冠山に関して言えば、少しも地味では無いと思いますがね。
遂に下からも見えていた鶏冠の尾根上に出ました。一気に周囲の展望が開けます。素晴らしい。
第二岩峰ピーク手前にある、稜線上の最初のクサリ場が現れました。ちょうど人が降りて来るタイミングだったので、待機してしばし見守ります。
高さは10メートル以上ありそうなクサリ場ですが、ホールドやスタンスが豊富にあるので、ここは特に難しい要素はありません。
流石に登っている最中に写真を撮る余裕はなかったので、これは登り切ってから振り返ったころです。見ての通り高度感はかなりあります。
登りきると周囲には絶景が広がります。正面左は西滑ノ頭(2,087m)で、その先の右奥にあるには国師ヶ岳(2,592m)です。
クサリを登りきると、すぐ目の前に第二岩峰のピークがありました。
前方に、これから歩く鶏冠の上部が連なっています。正面に見えているのが、目的地である第三岩峰ピークです。
このまるで岩の屏風のような、岩の稜線上を進みます、見ての通りアップダウンが激しく、両側が切れ落ちているので一時たりとも油断はなりません。
稜線上の二つ目のクサリ場が現れました。一つ目のクサリ場に比べると高さこそ低いものの、こちらの方が難易度ははるかに上です。
と言うか、そもそもどうやって登ればよいのかわからず、しばし考えこみました。
クサリの垂らされ具合から察するに、どうやら右側から回り込むのが正解っぽいです。しかしこちらから登ると、足をのせられるスタンスが一切ない垂直の壁を、クサリだけを頼りに2~3メートルほど登る必要があります。
結局私は、岩肌の僅かな突起に足をかけて真っすぐに登りました。かなり無理やり感がありましたが、クサリにぶら下がってよじ登るよりも多少は安全そうな気がしたものですから。
何とか突破はしたものの、いわゆる一般登山道にあるクサリ場に比べると、難易度は格段に高いように感じました。
無事に登れたのは良いのですが、困ったことに安全に降りられる自信が全くありません。もしかして、私は既に取り返しのつかないことをしてしまったのではなかろうかと言う焦燥感にかられつつも、今はともかくは前進します。
三つ目のクサリ場です。オーバーハングした岩が大きく突き出しているため、ここもかなり難易度高めに感じました。足を大きく開いて、正面ではなく両脇の岩に足をのせる感じで登りました。
岩場が得意な人であれば、なんという事は無いクサリ場なのでしょうか。岩場が得意ではない私の感覚からすると、二つ目と三つ目のクサリ場は、剱岳の別山尾根なんかよりは遥かに難しく感じました。
第三岩峰が徐々に大きくなって来ました。ここから鞍部に向けて、一度大きく高度を落とします。
再び始まるシャクナゲロード。しかし、今の私にそれを楽しむ心の余裕は一切ありません。・・・その割にはしっかりと写真を撮っていたりはしますが。
第三岩峰の直下へとやってきました。完全に垂直の岩壁です。なお、この第三岩峰にはクサリがありません。
クサリはありませんが、その代わりに迂回路があります。自信が無い人は迂回した方が良いでしょう。
なお、私は始めからここは迂回する気満々です。登れるかどうかちょっと試してみようと言う気さえもありません。
この迂回路も大概ですがね。坂と言うよりはほぼ垂直の崖を下って、第三岩峰の背後へと回り込みます。
と言う事で、危なっかしいトラバースに続く登り返しで第三岩峰との直接対決を回避します。
再び稜線まで登って来ました。第三岩峰の頂上へ行くにはここを左です。
右へ進むと木賊山を経て甲武信ヶ岳へと通じていますが、ここからさらに3時間ほどを要するそうです。体力と歩く速さに自信ありの人は、木賊山を経由して徳ちゃん新道を下る周回ルートを取ることも出来ます。
正面から見るとあれほど切り立っていた第三岩峰も、裏側からだと特に急峻でもなく実に簡単に登れます。
と言う事で、最後はやけにあっけなく、第三岩峰の頂上へと飛び出しました。トサカに来たぜ!
11時30分 鶏冠山に登頂しました。自身にとって山梨百名山78座目にして、これまで手付かず状態であった四天王の一角を、ようやく切り崩すことが出来ました。
山頂の標柱は折れてしまっており、周りを石で囲って無理やり立たせてありました。そのため、記念撮影時には持ち上げて好きなポーズを取ることが出来ます。
ちなみにこの山梨百名山の標識はボランティアの手によって設置されており、古くなったものは順次交換されています。
鶏冠山の標識が折れたまま一向に交換されないのは、誰もボランティアに名乗りをあげないからなのでしょうかね。確かに本日登って来たあの道程を、標柱を担いで登りたいと思うもの好きはそうそういそうにはありませんからね。
山頂からの光景を眺めてみましょう。正面には国師ヶ岳がドーンと大きく横たわっています。奥秩父山塊の中でも最大の山体容積を持つと言うこの山は、確かに視界いっぱいを埋め尽くさんほどに巨大です。
これは黒金山(2,232m)です。この山もまた山梨百名山なので、いずれは登らないといけないのですが、交通アクセスが悪く後回しになっている一座です。
お隣の乾徳山と合わせて登るのが一般的であるようですが、コースタイム的に帰りのバス時間が厳しいんですよね。本日のように、往路はタクシーにするしかないのだろうか。
黒金山の左奥に、小さく富士山も見えました。特別によく見えるという訳でもなく、ただ見えると言うだけのことです。
足元には、先ほど通って来た第二岩峰の姿がありました。こうしてあらためて上から見ると、よくもまあこんなところを歩いたものだと、感慨深くなります。
ちなみに鶏冠山の本当の最高地点は、現在地の第三岩峰ではなく今正面に見えている地点だそうです。最高地点では無い場所に標柱を立てたのには、何か理由があるのでしょうか。
時間があったらこの最高地点にまで足を延ばすつもりでいましたが、すでに思いのほか時間を要しているのでやめておきます。事前に調べてみた限りでは、特に登っても良いことは無いピークであるようですしね。。
5.鶏冠山登山 下山編 うちに帰るまでが鶏冠山です
12時5分 山頂を辞去して下山に入ります。木賊山方面へは進まずに、再び迂回路から戻ります。
大概な迂回路の登りです。やはりどう見てもただの崖でしょう。無理やり取って付けた感が凄い道です。
これは鶏冠山に限った話ではありませんが、滑落死亡事故の多くは基本的に登りではなく、下山時に発生しています。見方によっては、むしろここからが本番であると言えます。家へ無事に帰り付くまでが鶏冠山なのですから。
稜線上からの絶景を眺めて、しばしの現実逃避を楽しみます。ええ眺めやのう。
スタート地点の西沢渓谷入口も、この通り良く見えています。パラグライダーか何かで一気に下りたいとはいつも思うことですが、本日はことさらその思いが強く去来します。
私は山に登るのが好きなのであって、下山は好きじゃあないんですよ。特に今回のような大きな危険を伴うような下山はね。
オーケイ、そろそろ現実と向き合おうか。自分で登ってしまったからには、自分で下りるしかないのですから。
クサリ場のみならず、こう言う何気ない岩場一つとっても、一時たりとも油断は来ません。もし転びでもしたら谷底へ真っ逆さまですからね。
個人的に一番恐れ戦慄していた二番目のクサリ場の下りです。下りはクサリを頼りに、正解ルートと思われる側から降りました。
決して楽勝だとは言いませんが、危惧していたほどには苦戦もせずに割とあっさり降りれました。
ふう、やれやれ緊張しましたよ。やはり私は岩場が苦手です。
続いて最後クサリ場ですが、ここは何故か上から写真を撮るのを忘れていたので、下りきった所を一枚。前述の通り、このクサリ場は高さはありますが特段難しくはありません。
岩場を抜けて人心地と言いたいところですが、緊張感を要する道はまだしばらく続きます。しっかりと集中して行きましょう。
13時25分 第一岩峰のコルまで下って来ました。山頂からずっと緊張状態が続いていたせいか、気づいたら喉がカラカラになっていました。ここで一本立てて、残っていたシャリをすべて胃袋に収めました。
道がわかりずらいザレ場を下ると、続いて崩落気味のトラバース地帯に入ります。ここもなかなか緊張するポイントです。
「こんなところ通ったっけ?」といつものようにぼやきつつ、下山と言う作業に黙々と取り組みます。
往路にヘルメットを装着した地点まで戻って来ました。ここまで下ってくれば、もう危険な場所はありません。
後は尾根道をひたすら下るだけです。急勾配ではあるものの、フカフカで柔らかく足に優しいトレイルであるため、気持ちよく下って行けます。
と言う事でサクサクと気持ちよく下って、15時ちょうどに鶏冠谷出合に戻って来ました。
帰りも再び冷たくて激痛な渡渉をせねばならない訳なのですが、しかし気乗りしません。
もう後は帰るだけなので靴の中が少しくらい濡れてしまっても問題ない事であるし、ここはS.O.D(Stylish Ootsuki Dash)で一気に走り抜けてしまおうと画策しました。
あわよくば、15時40分発の塩山行きのバスに間に合うかもしれないしですしね。
・・・結論から言うと、多少濡れる程度ではすみませんでした。思いのほか水流は強く、途中で勢いをそがれて完全に靴の中が水浸しになってしまいました。なんてこったい、とほほ。
と言う事なので、これから鶏冠山へお越しの方は、横着はせずに真面目に靴を脱いで渡渉しましょう。繰り返しになりますが、ストックはあった方が良いです。
ずぶ濡れになってしまった足を拭いて濡れた靴下を絞り、再び行動を再開します。このゴタゴタで思いのほか時間を浪費してしまたので、15時40分発バスに間に合わせることは諦めました。
それはすなわち、下山後の温泉も無くなったと言うことを意味しています。本当にとほほな展開です。
この先はもう一般道を歩いて戻るだけなのですが、歩くたびに靴がじゃっぽじゃっぽと音を立てるので不快窮まりません。
すっかりと陽が傾いて逆行となった鶏冠山の姿を写真に収めて、本日のミッションは完了です。ありがとう鶏冠山。再び訪れることは・・・多分もう無いかな。
ネトリ平場まで戻ってくると、辺りはラフな格好をした観光客で溢れていました。ザックにヘルメットをぶら下げ、濡れた靴で音を鳴らしながら歩く私の姿は、ここではかなり浮いていました。
16時5分 西沢渓谷入口に戻って来ました。結局は、スタートからしっかりと9時間かかってしまいましたねえ。
山梨市駅行きの最終バスで撤収します。途中にあるはやぶさ温泉から大勢の乗客が乗り込み、最終的にバスは超満員となりました。
色々と寄り道するため結構な時間を要して、17時30分に山梨市駅へと到着しました。
駅の窓からは、居並ぶ御坂山地の山々が良く見えました。本日は終日に渡って雲一つない快晴で、絶好の登山日和でありましたな。
すっかりとやり切ったムードに浸っておりましたが、まだ最後に三鷹から自転車をこいで帰ると言うミッションが残されておりました。すっかり忘れていて、ついうっかり高尾駅で京王線に乗り換えかけてしまったのはナイショです。
こうして山梨百名山四天王の一角への訪問は、なんとか成功裏の内に幕を閉じました。まだ全部に登ったわけではないので断言はできませんが、現状で山梨百名山最恐の候補であることに異議はありません。同じく四天王の鋸岳もかなり怖い山ではあるようですが、果たしてどんな感じなのでしょうか。
高度感のある稜線上の岩場歩きばかりが注目されがちな鶏冠山ですが、そこに至る道のりも決して容易であるとは言い難く、やはり一般登山道とは一線を画したルートであると思います。山梨百名山の完登を目指す者に立ちはだかる、一つの大きな壁であることは間違いありません。
訪問を考えている方は、地図上でルートよく確認したうえで、万全の体制でもって挑んで下さい。くれぐれもストックの携行はお忘れなく。
<コースタイム>
西沢渓谷入口(7:00)-鶏冠沢出合(7:50)-第一岩峰のコル(10:10~10:20)-鶏冠山(第三岩峰)(11:30~12:05)-第一岩峰のコル(13:25~13:35)-鶏冠沢出合(15:00~15:20)-西沢渓谷入口(16:05)
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
コメント
オオツキ様
まさに2枚目の写真ですが、西沢渓谷に行ったときに「あの山どうやって登るんだろう?」と思ったのが鶏冠山です。
赤岳や伊予が岳でビビッてしまう私には縁の無い山ですが、興味深く読ませてもらいました。
オチの「S.O.D」には笑わせてもらいましたが、疲れた体で裸足で川を渡ったら滑って転んで全身ずぶ濡れになっていたかも知れませんので、選択としては良かったのかも知れませんね。
もうもうさま
コメントをありがとうございます。
雪解け水を含んでいたのか何なのか不明ですが、東沢の水は本当に冷たかったのですよ。それこそ数秒であっても耐えがたいほどに。。。
沢靴があればそれを持ってくるべきだったのでしょうけれど、無いのでStylishと称しつつ無様に渡りました。
オオツキさん、こんにちは。
山梨百名山最恐の登頂おめでとうございます!
自転車を忘れ、高尾で乗り換えてしまったところ笑えました。お疲れだったのでしょうね。
第ニ・三岩峰あたりは、戸隠山の蟻の塔渡りってこんな感じなのかな?と想像してしまいました。日本百名山登頂を目指す人は戸隠山が二百名山で良かったと思うそうですね。
鶏冠山から話がそれてすみません(^^;;
MMさま
コメントをありがとうございます。
私自身、戸隠の方は未経験なので何とも断定はできませんが、鶏冠山の尾根には横幅がしっかりとあるので、怖さで言うなら恐らく戸隠の方が上であろうと思います。戸隠にも行ってみたいような、みたくないような。。。
オオツキさんこんにちは。
鶏冠山登頂お疲れ様でした!天気も良く何よりです。
ここの渡渉は厄介ですよね、私も靴脱いで渡渉しました汗
下りが怖かったので木賊に抜けたのですが二度と歩きたくないくらい荒れててきつかったです笑
次は笹山辺りでしょうか?
ゴトさま
コメントをありがとうございます。
木賊山経由の周回は道迷い多発でかなり危険だと言う事なので、往復するのとどちらがよりが安全なのかは判断が難しいところですね。
笊ヶ岳と笹山は私の歩行速度だと日帰りは厳しそうなので、テントを担いで行こうかと計画を練っています。