薬師岳 黒部源流に佇む白き北アルプスの女王【Day4】【Day5】

太郎平付近の登山道から見た薬師岳-001
富山県富山市にある薬師岳に登りました。
山腹に複数の大規模なカールをもつ非常に大柄な山で、全国各地に複数存在する薬師岳のと名の付く山の中の最高峰です。山頂部は花崗岩でできており、白く輝く気品ある姿から北アルプスの女王の異名を持ちます。雪解け直後の初夏の季節には、多種多様な高山植物が花を咲かせる花の名峰でもあります。
長き渡った縦走登山の最後の仕上げとして、麗しの女王に拝謁してきました。

2024年8月3~4日に旅す。

前々回、前回から引き続き、雲ノ平編4日目と5日目の記録です。最終回となる今回は、雲ノ平から薬師岳に立ち寄りつつ、折立へと下山します。

前回までの記事はこちらです。
双六岳-三俣蓮華岳 北アルプスの中央を行く黒部源流域への道程【Day1】【Day2】
長野県大町市と岐阜県高山市にまたがる双六岳(すごろくだけ)と、富山県富山市との三県県境上にある三俣蓮華岳に登りました。 北アルプスこと飛騨山脈のほぼ中央に位置している山です。槍ヶ岳や黒部川源流域を目指している人に通り道として歩かれことが多い山ですが、この2座自体を目的としてあるいても十分に満足できる出来るであろう大展望の広がる頂です。 日本最後の秘境と呼ばれた地を目指し、花咲く北アルプスの真ん中を歩いて来ました。 2024年7月31日~8月1日に旅す。

鷲羽岳-水晶岳 黒部川源流域に広がる日本最後の秘境、雲ノ平【Day3】
長野県大町市と富山県富山市にまたがる鷲羽岳(わしばだけ)および水晶岳(すいしょうだけ)に登りました。 北アルプスこと飛騨山脈の中でも最奥部に位置する、黒部川源流域に立つ深山です。周りを名だたる名峰に取り囲まれた立地にあることから、山頂からはどちらの方角を向いても圧巻の大絶景が広がります。袂には雲ノ平と呼ばれる広大な溶岩台地が広がっています。 長年の憧れであった、日本最後の秘境と呼ばれた地を巡って来ました。 2024年8月2日に旅す。

辿り着くだけでも一苦労することから日本最後の秘境とも呼ばれる雲ノ平は、当然のことながら帰るのにもまた一苦労します。富山県側の折立へ下山するルートを歩きましたが、その過程で間にある黒部川の谷を越える必要があります。
薬師沢小屋
一度谷底まで下ってから太郎平まで登り返すことなるため、累計のアップダウンはそこそこ大きく、また道もあまり良いとは言い難いことから容易ならざる行程です。

折立に下る前に薬師峠でもう一泊して、薬師岳に登って行きます。その極めて宗教色が強い名前からも察せられる通り、古くから信仰の対象となって来た霊山です。
薬師岳の山頂
その白亜に輝く姿から、北アルプスの女王ないしは貴婦人などと評されています。生憎ちょっと雲の多めな天気でしたが、それでも美しい姿を見せてくれました。

4泊5日に及んだ夏の大縦走の締めくくりとなる2日間の記録です。
太郎平の標識

コース
雲ノ平から折立までのコースマップ
雲ノ平キャンプ場からスタートし、薬師沢小屋まで下った後に太郎平へ登り返します。薬師峠にテント張り、薬師岳山頂を往復して薬師峠で一泊し、翌日はまっすぐに折立へ下山します。

1.雲上の庭園を散策する

雲ノ平キャンプ場よりおはようございます。前日に続いて本日も予定していた時間に起きることが出来ず、周囲が明るくなってからのそのそと支度を始めます。
早朝の雲ノ平キャンプ場
日中は非常に暑くなることがわかりきっているので、本当はまだ暗いうちから行動を開始するつもりでいました。しかし、だいぶ疲労が溜まってきていることもあって、なかなか寝床を出る決心がつきませんなんだ。

テントを撤収している間に、黒部五郎岳の山頂が朝日に照らされ始めました。今頃あそこでご来光を迎えている人は、さぞ素晴らしい光景を目にしていることでしょう。
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5時15分 準備が出来たところで本日の行動を開始します。本日の行程は薬師峠まで移動するだけなので、そこまでは厳しくは無いはずです。・・・たぶん。
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雲ノ平キャンプ場は周囲よりも少し低くなっている谷の中にあるので、まずは上まで登り返す必要があります。縦走4日目ともなると流石にだいぶ疲労も蓄積していて、立ち上がりから重い足取りです。
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登りきると、昨日登った水晶岳が目の前にドーンとありました。雲ノ平はちょうどこの水晶岳の影になる位置にあるため、現在地にはまだ陽が射して来ていません。
雲ノ平から見た水晶岳

本日は水晶岳があるのとは反対方向へ進み、黒部川を越えて太郎平を目指します。
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すでに綿毛化したチングルマが、かなりの密度に群生しています。花の最盛期に歩くことが出来ればさぞや華やかだったのでしょうけれど、今年は梅雨がやたらと長引いてなかなか訪問できずにいる間に終わってしまっていました。
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岩の上を転々と結ぶように変則的に木道が整備されています。昨日空荷状態で歩いた時には何とも思いませんでしたが、何気に結構歩きにくい道です。
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雲ノ平山荘の手前まで歩いて来たところで、薬師沢、高天原方面と書かれている方へ進みます。
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雲ノ平山荘はちょっとした高台の上にたっており、その脇の谷に沿って木道が続いています。
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遠くから見るとほぼ平坦なように見える雲ノ平ですが、もともとは溶岩台地であるため、大きな岩が散乱していてフラットな地面が殆どありません。泥炭層からなる高層湿原の山とはだいぶ趣が異なる景観です
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割とアスレチックと言うか、歩行に難儀するような個所もあります。ひたすら木道の上を歩く尾瀬のような光景を思い浮かべていましたが、日本最後の秘境はそんな優しい場所ではありませんでした。
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ここでついに、登山道上に陽が射し始めました。前々日、前日に引き続き、本日も大いに暑さに苦しめられることになりそうです。
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朝露にしっとり濡れたチングルマが、朝陽に照らされてキラキラと輝いていました。
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分岐が現れました。左へ進むとアルプス庭園と呼ばれいる場所を経て、雲ノ平の中に立つ祖母岳(2,560m)の山頂へと至ります。
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本日はまだまだ先が長いので、寄り道はせずにまっすぐ薬師沢方面へと進みます。この辺りの木道はだいぶ老朽化が進んでおり、シーソー状態になっているものもあるので注意を要します。
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振り返って見た祖母岳は、山と言うよりはちょっとした丘のような姿です。そもそも雲ノ平と呼ばれているこの一帯は、広義には祖父岳の一部と言う事になるのかな。
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登り返すと、その上にはさらに広々とした空間が広がっていました。雲ノ平は思っていた以上に広大な空間です。
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この辺りは奥日本庭園と呼ばれているらしい。先日散策したスイス庭園と言い、誰が名前を付けたのでしょうかね。
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笠ヶ岳(2,897m)と黒部五郎岳(2,897m)が並んで良く見えています。こうした何気ない景色の一つ一つがいちいち絶景すぎて、だんだん感覚がマヒしてきましたぞ。
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途方もなく広かった雲ノ平も、いよいよ端が見えて来ました。この楽園から立ち去る時がやって来たようです。
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谷の向かいに太郎平小屋が見えています。あそこを目指しているわけなのですが、間に黒部川があるため、一度谷底まで下ってから登り返す必要があります。
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2.薬師沢小屋へ怒涛の下り

薬師沢小屋に向かって降下が始まるのですが、この下りが今回の山行きで最大の試練の時でした。表面が湿っていて恐ろしく滑りやすい石に覆われた急な下り坂が、谷底に着くまで延々と続きます。
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雲ノ平からは最終的に600メートルほど標高を落とします。これがまあとにかく歩きづらい道でして、途中から若干泣きが入って「もう許して」を言う気分になりました。私は一体、何に対して許しを乞うているのか。
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別にチンタラ歩いているつもりは全くないのですが、背後からどんどん追い抜かれていきます。というか、何故みんなあんなスピードで下って滑らずに済むのか。不思議でなりません。

悪戦苦闘しつつ1時間30分程下り続けたところで、ようやく眼下に谷底を流れる黒部川が見えて来ました。ゆっ許された・・・。
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まもなく河原に着くというところで、思いっきりねじ曲がった鉄の梯子が現れました。最後の最後まで油断がならない道です。
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黒部川の河原に降り立つと、吊り橋と小屋が目の前にありました。これまた画になる光景です。秘境感で言うのなら、雲ノ平よりもこの薬師沢小屋の方がさらに凄いと思うのですがいかがだろうか。
薬師沢小屋
この先の下流で黒部渓谷と言う日本有数の大峡谷を刻むことになる黒部川ですが、源流に近いこの辺りでは、まだその気になれば歩いて渡渉できないこともない程度の川幅しかありません。

河原から吊り橋のある高さまで登り返すのですが、これがまた無理やり感がある細い木のハシゴを登ります。普段ならなんてことは無いのでしょうが、テントが入っているでかザックを背負った状態だと、色々引っかかって難儀します。
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ハシゴを登ったあとも、崖際のおっかない道が続きます。どうやらまだ許されてはいなかったようです。
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吊り橋の上まで登って来て、ようやく人心地ついた気分になりました。
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この吊り橋自体も世間一般の基準では十分におっかない場所に分類されるかとは思いますが、ここに至る道程に比べれば全然大したことはありません。
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吊り橋が架かっている地点のすぐ下流が、黒部川と薬師沢の合流地点となっています。この先の太郎平への登り返しでは、薬師沢に沿って遡って行くことになります。
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8時55分 薬師沢小屋に到着しました。ただ下るだけだと思っていたのに、思いもよらぬ苦戦を強いられました。
薬師沢小屋6

取りあえず薬師沢小屋で買ったコーラで一服します。私は基本的にケチ倹約家なので、山小屋の割高なペットボトル飲料を買うことはめったにないのですが、この時ばかりは体が切実に甘い炭酸飲料を求めていたものですから。
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すでに若干気が抜けてしまったような状態になってしまっていますが、ここからは太郎平に向かって再び登りが始まります。

3.灼熱の太陽に照らされ続ける太郎平への道程

9時20分 しっかりと休憩を取りいくらか元気を取り戻したところで、行動を再開します。太郎平まではおよそ400メートルほどの登り返しです。
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谷底から最初の急坂を登りきると、木道が整備された広々とした笹原が広がっていました。稜線上のような強風に晒される場所でも無いのに樹木が育たないのは、冬の積雪量がよほど多いからか。
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地図には記載の無い小さな沢が無数に横切っています。途中で随時ボトルに水を補充しながら歩けるので、薬師沢小屋から太郎平の区間については、水の携行量は最低限で問題ありません。
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しかしそれにしても暑い。この太郎平への登り返しの区間は、日影の樹林帯の中を歩くものだと思い込んでいただけに、ここまで陽射しがギラギラ状態なのは完全に想定外でした。
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薬師沢の本流を渡る場所には、しっかりと木橋が架かっていました。若干うろ覚えですが、たしか3回渡ったはずです。
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行く先の稜線の上に、雲が沸き立ちつつありました。そっちは良いから、私の頭上を覆てくれませんかねえ。先ほどから暑くてかなわないのですが。
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小さい秋見つけた。これほど暑くても、季節は着実に進行つつありました。
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ずっと登りっぱなしではなく、意外とアップダウンがあります。それは別に良いのですが、願わくば日影をください。暑くて死んじゃいます。
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稜線の上に出てしまえば、例えお日様がギラギラだろうと風が抜けるので多少はマシになるのですが、ほぼ無風の環境でこの陽射しは・・・きついっす。

10時55分 第一渡渉点と呼ばれている地点まで歩いて来ました。ここを過ぎると、沢沿いから離れて稜線に向かって登りが始まります。
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きっ・・・きつい。登りがではなく、陽射しがです。ちょっと体温が危険水準にまで上昇して来ているのを感じたので、ここで大幅にペースダウンしました。日影は無いのか日影は。
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右手に薬師岳が見えていますが、雲の覆われつつありました。そっちはいいからは、私の頭上を覆ってください。なんて役に立たない雲なんでしょうか。
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背後を振り返ると、鷲羽岳や水晶岳の上空も雲に覆われつつありました。ちょうど今私がいる一帯だけが、まるで何か力に守られているかのように晴れています。いらん。そんな加護の力はいらんて。
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どうやら太陽の奴は、どうあっても私のことを照らし続けたいらしい。そうさ、私はいつだって主に頭頂部が光輝いているのさ。

何とか稜線の上まで登って来たところで、頭上をすっぽりとガスが覆いました。普段なら悪態をつくところですが、今日に限ってはむしろ大歓迎です。
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ここで正面に薬師岳がドーンと見えるはずなのですが、こちらも雲に覆われつつありました。女王陛下は奥へ下がってしまわれましたか。
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薬師岳に今日の内に登ってしまうのか、それとも翌日早朝のまだ暗いうちにヘッドライト装着で登って、山頂からのご来光をキメるか。

この時点ではどちらにするかまだ決めあぐねていたのですが、この様子だと明日にしたほうがよさそうかな。

12時15分 太郎平小屋に到着しました。ただ黒部川を渡っただけなのに、えらい苦労しました。
太郎平小屋

前々日、前日ともに小屋への到着時間が遅くて食堂で食事を食べ損ねましたが、今日はちゃんと営業時間に間に合いました。4日ぶりにようやく、調理されたまともな食事にありつけそうです。
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名物の太郎ラーメンを頂きます。疲れた体にはしょっぱい食べ物が嬉しい。スープまですべて飲み干して、塩分が五臓六府に染みわたります。
太郎ラーメン

小屋の前からは、昨日歩いて来た一帯のがすべて見えました。本当によく歩きました。・・・って、感慨にふけるのはまだ早い。そう、家に帰るまでが雲ノ平なのですから。
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今日この後どうするかはおいおい考えるとして、ひとまずは本日の宿泊予定地である太郎平キャンプ場へ向かいましょう。キャンプ指定地は太郎平小屋からは少し離れた薬師峠にあります。
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道すがらにニッコウキスゲがポツポツと咲いており、キアゲハが忙しそうに飛び回っていました。
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眼下にキャンプ場が見えました。太郎平からは少し下った位置にあります。それはすなわち、明日の帰路では漏れなく登り返しが付いてくると言う事です。
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13時 薬師峠に到着しました。この時間でも、すでにかなりの数のテントが張らてしました。平日でもこの混みようとなると、週末はどれだけ混雑するのでしょうか。恐ろしい。
太郎平キャンプ場

通路脇の空きスペースに今宵の我が家を手早く設営します。今日はこれで行動を終了して、後は昼寝でもするかな。
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4.北アルプスの女王の頂に立つ

今日はもう昼寝すると宣言していたはずの私は、何故か薬師岳の山頂に向かって登山を再開していました。
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何故こうなったのか理由を説明しましょう。昼寝をしようとテントの中で寝ころんでいたところ、再び晴れ間が広がり陽射しが差し込んで来て、テントの中があっという間にサウナ状態になってしまいました。

これではとても寝ていられないと言う事で、今日中に薬師岳に登ってしまう事にしました。明日はバスの時間と言う動かせないタイムリミットがあるので、それを考えるともう後は下山するだけという状態にしておいた方が無難でしょう。

薬師峠からはしばしの間、沢と完全に一体化している道が続きます。結構な急登ではありますが、水辺のひんやりした空気がとても心地よい。
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重量物はすべてテントに置いて来ているので、身軽になってテンポよく登って行けます。

登るにつれて何時しか水流は無くなり、枯れ沢の中を行く道になりました。谷が枝分かれしていて、ルートが少々わかり難いです。目印のペンキマーカーがあるので、見失わないように周囲をよく観察してください。
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ここをまだ暗い内にヘッドライトを付けて登るのは、道迷いのリスクが大きそうに感じました。結果的には、今日の内に登ってしまうで正解であったように思えます。

私の頭上にだけ陽が照り続ける謎の加護の力はまだ健在らしく、先ほどまでの曇り空が嘘のように晴れて来ました。いやだから、その加護いらないってば。
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枯れ沢を登りきると、木道の整備された草原に出ました。薬師平と呼ばれている場所です。もう少し早い時期だと、ここもお花畑になっていたりするのだろうか。
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ようやく山頂らしき場所が視界に入りました。遠目に見た時から察してはいましたが、薬師岳はかなり大柄な山で、横方向へ移動距離が長めです。
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この先は森林限界を超えたハイマツの稜線となります。当然日影はありませんが、風が吹き抜けるだけまだ薬師沢小屋から太郎平への登り返しに比べれば全然楽です。
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まだ綿毛化していないチングルマが大量に咲いていました。薬師岳は花の名峰としても名高い存在で、花の百名山にも選ばれています。
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いやしかし、本当に私がいる一帯だけが晴れているのですが、一体何なんでしょうかね。モーセじゃあるまいしに。
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なんでも何も、たまたまそういう気圧配置なだけなのでしょうけれど、晴れていることにここまでケチをつけたい気分になったのは自身初めてのことです。暑いんだってばよ。

稜線の上に出ると、太陽が隠れて強い横風が吹いて来ました。こうなると今度は、半袖一枚では少し肌寒さを感じます。何たる極端さ。気温自体がそこまで高いわけではなく、それだけ陽射しが強烈だったと言う事ですな。
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14時50分 薬師岳山荘まで登って来ました。昔は(物理的に)傾いている山小屋として有名でしたが、7年前に建て替え工事が行われて、今ではすっかり綺麗な建物になっています。
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薬師岳の山バッジを買うために立ち寄ったのですが、ちょうど宿泊客が受付をするピークの時間にぶつかってしまったらしく、長々と待つハメになりました。

山頂付近は、北アルプスの山にはありがちな小石が散乱するザレ場になっていました。登りはともかく、下山時には神経を使いそうな道です。
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ちなみに、今見えている最高地点はまだ山頂ではありません。山頂はもっと奥にあります。

お社か何かのように見える石造りの建物がありますが、これはかつての避難小屋の跡だそうです。
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ちょうど薬師岳の稜線上で大気のせめぎ合いが行われているらしく、先ほどから晴れたり曇ったりを目まぐるしく繰り返しています。薬師岳は富山湾からの湿った空気が直接ぶつかる位置にあるため、なかなか天気の気難しい山です。
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避難小屋跡まで登ったところで、ようやく山頂を視界内に捉えました。ラストスパートをかけて行きましょう。
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東側には巨大なカールが広がっています。氷河の浸食によって形成された地形です。
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そういえば南アルプスの女王と呼ばれている仙丈ケ岳も、カール地形が印象的な山でした。女王と呼ばれるには、カールがあることが必須条件なのでしょうか。

以前は北アルプスの女王と言えばそれは薬師岳の事だったのですが、最近は燕岳がそう呼ばれるようになってきています。こうした愛称の類は、時代とともに移ろって行くものなのか。
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女王の名を奪われつつあるかわりなのか、薬師岳は北アルプスの貴婦人と呼ばれたりもしています。愛称が何であれ、白く輝く姿が印象的な美しい山であることは間違いありません。

15時50分 薬師岳に登頂しました。すっかり時間が遅くなってしまいましたが、それでもまだ山頂には多くの人の姿がありました。まあ今は陽が長い季節なので、特に問題は無いでしょう。
薬師岳の山頂

極めて宗教色の強い山名からも察せられる通り、薬師岳は古くから山岳信仰の対象になって来た霊山でもあります。山頂には立派な薬師堂が立っていました。
薬師岳山頂の祠

カールを挟んですぐ隣に、北薬師岳と言うもう一つのピークがあります。標高は薬師岳とほぼ同じで、双耳峰であると言って良いと思います。時間があるのならば足を伸ばしてみるのも良いかと思います。
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谷を挟んだ向かいの赤牛岳(2,864m)だけがかろうじて見えていますが、裏銀座や後立山連邦の山々は完全に雲の中です。絶景は心の目で見ることにしましょう。
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5.最後まで陽に照らされ続ける下山行

山頂で30分少々ねばりましたが、これ以上雲が抜ける様子はありません。諦めてそろそろ下山に移ります。
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富山側から湧きがって来た雲が、太郎平がある辺りを乗り越えて雲滝となり、黒部川の谷へと流れ込んでいました。なるほど確かに、ちょうど風の通り道になりそうな地形になっています。
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ここに来て、またもや陽射しが復活しました。今日の太陽は、どうあっても私の事を照らしたいらしい。
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17時10分 薬師岳山荘に戻って来ました。もう直射日光には心底嫌気が差していたので、小屋の影に避難します。待っていればその内また雲が沸き立ってくることでしょう。
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しかし予想に反して、雲はどんどん抜けて行き完全に青空が戻ってしまいました。・・・良いですよ、もう何も言いません。そこまで私を照らしたいというのなら、好きなだけ照らしてください。
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いっそうのこと日没まで待機して、ヘッドライトを装着して下山しようかとも考えましたが、観念して下山を再開します。
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振り返ると、山頂がスッキリと晴れていました。これは結果論の後知恵ですが、もう少し山頂で待機すればよかったのかな。
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谷底を流れる黒部川が良く見えます。一度あそこまで下ってから登り返してきたのだと考えると、なんだかんだで今日も結構な標高差を歩きました。
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雲に隠れていた槍ヶ岳さんも、いつの間にかお目見えしていました。おや、そんなところにいらっしゃいましたか。
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時刻は18時30分を回り、だいぶ日が傾いてきました。それでも十分すぎるほどに暑いのだから、天気が良すぎるというのも考えようです。
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この涸れ沢地帯には道がわかり難いしまあまあ危ないない場所もあるので、暗くなる前に通過できたのは結果として正解であったように思えます。
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後半はだいぶ端折りましたが、無事にテント場まで戻ってきました。私が到着した時よりもさらにテントの数が増えて、だいぶ混雑していました。
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19時5分 薬師峠に到着しました。なんだかんだで、本日が今回の縦走で一番行動時間が長い一日となりました。流石にだいぶ疲労も溜まっており、横になるなりあっという間に眠りが訪れました。
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6.意外と長い、折立への下山行

明けて8月4日 6時40分
最終日となる本日の予定は、もう折立に下山するだけです。先を急ぐ必要もないので、沢山寝てゆったりと始動しました。
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昨日は慌ただしく出発したので写真を折り損ねていましたが、あらためまして太郎平キャンプ場の水場とトイレの様子です。テント場からは少し離れているので、夜中にトイレはあまりギリギリまで我慢はしない方が良いと思います。
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7時20分 一晩を過ごした憩いの我が家を撤収して、本日の行動を開始します。
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約束されていた太郎平への登り返しです。大した登りではないのですが、寝起きなのでイマイチ調子は上がりません。
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上まで登ってしまえば、後は天国のような平坦な稜線が続いています。あらためて、良いところですねここ。
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本日もとても良いお天気で、昨日歩いて来た道程がすべて見えています。本日は天気が良いのは朝の間だけで、正午前には曇る予報となっています。今のうちに展望を楽しんでおきましょう。
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横から見た雲ノ平です。テーブルマウンテンとでも言えばいいのか、極めて特異な地形であることが良くわかります。
240803薬師岳-100

振り返ると、背後には昨日登った薬師岳の姿がありました。雲一つない快晴で、きっとご来光は完璧だったことでしょう。太郎平キャンプ場からだと少々遠いので、ご来光を拝みたかったら薬師岳山荘で一泊するのが無難であろうかと思います。
240803薬師岳-101

7時45分 太郎平小屋まで戻って来ました。この時間は流石にまだ食堂は開いていないので、朝ラーメンはできません。このまま素通ります。
240803薬師岳-102

折立に向かって下山を開始します。折立は富山県側から北アルプスに登る際の主要な登山口の一つですが、いかんせん関東からのアクセスが悪すぎるため、私自身は一度も訪れたことがありません。
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太郎平を出発して以降もしばしの間は、天国のような平坦な尾根が続いています。ただの通り道扱いされがちな太郎平ですが、太郎平自体が十分すぎるほどに風光明媚な場所です。
240803薬師岳-104

薬師岳の雄姿を横目にしつつ下ります。もうこの際、女王でも貴婦人でもどっちでもいいですが、本当に美しい山です。
太郎平付近の登山道から見た薬師岳-001

ほぼフラットで歩きやす道ではありますが、それだけになかなか標高は落ちません。そのツケは後半になってから一気に返すことになります。
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右手に剱岳と大日連峰の山並みが見えます。一度歩いたことがありますが、あちらもなかなか素敵な尾根でしたよ。
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北アルプスのメジャーな登山道と言うだけあって、道は大変よく整備されており、何ヵ所かにこうした休憩用のベンチがあります。
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予報の通り上空に雲が湧き始めました。そろそろ朝の好展望タイムは終わりのようです。
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眼下に有峰湖が見えます。富山県が所有する水力発電用のダム湖で、貯水量では黒部湖をも凌駕する巨大な人工湖です。
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豪雪地帯の山らしく、積雪量のポールが山頂にポツンと立っていました。
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樹林帯に入ったら、もう後は作業です。黙々と下山と言う作業に取り組みます。
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この折立ルートは、終わりに近づくほどどんどん傾斜が急になっていく仕様です。逆に折立から登る場合は、立ち上がりが一番きつくて、後半になるほどに楽になって行くはずです。
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折立の駐車場が見えて来ました。もうだいぶ足が棒のようになってきていますが、もうひと踏ん張り頑張って降りましょう。
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11時35分 折立に到着しました。4日分の疲労が溜まっていたからというのもあるのでしょうけれど、ただ下るだけでも意外としんどい道程でした。
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下山したとは言っても、折立はキャンプ場がある他には商業施設などは何も無い山の中です。そのキャンプ場は、立て続けに熊が出現したと言う事で、電気柵に囲まれていました。
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折立12:30分発の富山行きのバスに乗車します。なおこのバスは路線バスではなく事前予約制です。空席があれば当日でも乗車は来ますが、夏山シーズン中は基本的にほぼ常に満席状態です。
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このバスに乗れないと、有峰駅からタクシーを呼ぶことになります。その場合は1万円5千円くらいはかかるらしいのでご注意ください。下山は計画的に。

バスの車内はなんと言うか、獣の匂いが充満していました。このバスに乗っている人の多くは、数日間にわたる縦走登山をしてきた人達でしょうから、まあ当然そうなりますわな。

折立から1時間以上をかけて、富山駅に到着しました。バスから降りるなり、下界のあまりの暑さに面くらいました。サウナかなにかかこれは。
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せっかく富山に来たのだから富山ならではのものを食べて行こうと思い、真っ黒なラーメンを食べました。むせ返りそうになるくらいしょっぱい醤油ラーメンです。
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レンゲすら付いてこないのは、間違ってもスープを飲もうとするなよと言う、店側からのメッセージに違いない。

心地よい疲労感と共に、北陸新幹線に乗り込み東京への長い長い帰宅の途に付きました。
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長年の憧れであり懸案でもあった雲ノ平訪問は、こうして無事に計画通りに完遂することが出来ました。黒部川の源流域はなかなかおいそれと気軽には立ち入れない一帯ですが、ここにしかない唯一無二の世界が確かにありました。最終日までずっと晴天にも恵まれて、大げさでも何でもなく一生ものの思い出となりました。
そして帰りがけの駄賃とでも言わんばかりに慌ただしく登ってしまった薬師岳でしたが、今更言うまでもない名峰の中の名峰であり、本来はこの山だけを目的に訪れるだけのボリュームを持った山です。五色ヶ原を経て室堂まで繋げる縦走にも大変興味があるので、何れにせよこの山にはいつかまた訪れることになろうかと思います。

<コースタイム>
4日目
雲ノ平キャンプ場(5:15)-雲ノ平山荘(5:40)-薬師沢小屋(8:55~9:20)-第一渡渉点(10:55)-太郎平小屋(12:15~12:40)-薬師峠(13:00~13:30)-薬師岳山荘(14:50~15:00)-薬師岳(15:50~16:25)-薬師岳山荘(17:10~17:40)-薬師峠(19:05)

5日目
薬師峠(7:20)-太郎平小屋(7:45)-折立(11:35)

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長々と最後までお読みいただき、ありがとうございました。

コメント

  1. もうもう より:

    オオツキ様

    雲ノ平はいつか行きたいと思っているので、このブログが出るのを随分と前から楽しみにしていました。

    ただ、よく読み込んでしまうと自分が登ったときのネタバレになってしまうので、いつもざっと読んで登山後によく読むようにしています。

    今回の日程は自分も槍ヶ岳に行ってましたが、こんなに晴れが続くのは1年にそう何日もないので本当に幸運でしたね。

    • オオツキ オオツキ より:

      もうもうさま
      コメントをありがとうございます。

      後から振り返ると、8月頭の数日間は2024年で一番の登山日和であったように思えます。暑さも尋常ではありませんでしたが、最高のタイミングで訪問することが出来ました。