埼玉県小鹿野町にある二子山(ふたごやま)に登りました。
その名が示すとおり、東西の二つの峰を擁する双耳峰です。石灰岩からなる切り立った鋭い岩峰であり、ロッククライミングの登攀の対象ともなっています。一般登山道も存在し、特別な登攀技術が無くても登ることが出来ます。
3000メートル峰の稜線にも引けを取らないような、大迫力の岩の尾根歩きを楽しんできました。
2018年5月4日に旅す。
今回の行き先は秩父の奥地にある岩峰、二子山です。
誰がつけたのか、この山にはクレイジーマウンテンなる通称がつけられています。狂気の山ですってよ。
では具体的に、この山がどうイカれているのかを見てみましょう。
・・・・・なるほど。確かに頭のねじが何本か弾け飛んでいるような山ですね。
二子山は秩父地方に多く見られる石灰岩で出来た山です。石灰岩は水に溶けやすく、雨による浸食作用によって、このような異様な地形が作り出されます。難解な地質学用語で言う所の、カルスト地形と言う奴です。
インパクトのあり過ぎるその見た目とは裏腹に、この山にはしっかりと一般登山道が存在します。特別な登攀技術が無くても登ること自体は可能です。
とは言っても、高度感は抜群です。特別な技術は必要ありませんが、それなりの度胸は必要となるでしょう。怖いけど楽しい。楽しいけど怖い。二子山とはそんな山です。
さあ、覚悟ができましたか。出来たのなら、いざ尋常に秩父奥地へと出発しましょう。
コース
坂本バス停から股峠を経由して東峰を往復。その後に西峰へ登り、岩の稜線を歩いて周回します。二子山の端から端までを縦断する、充実のコースです。
1.二子山登山 出発編 秩父郡最果ての地、小鹿野町を目指す
7時 西武線 池袋駅
さて、時はゴールデンウィーク後半戦のど真ん中。特急電車は当然のごとく満席です。
満席であろうことは予期していたので、本日は始めから特急は使わずに普通列車で秩父へと向かいます。
目指す二子山は、限りなく群馬に近い埼玉県内にあります。
都内発の公共交通機関を利用した登山としては、日帰り可能圏内ギリギリの場所です。この秩父鉄道直通の快速急行を乗り逃すと、もう次は無いの要注意です。
8時50分 西武秩父駅に到着しました。
駅の周囲には人が溢れかえっていました。秩父と言うのはGWの行楽地としても人気が高い場所なんですね。
何度見ても圧倒される、この武甲山(1,304m)の圧倒的存在感。
9時20分発の小鹿野車庫行きのバスに乗り込みます。登山口のある坂本まで直通するバスは存しません。このバスで小鹿野役場前まで行き、そこからさらに坂本行きに乗り換える必要があります。
この路線、以前は町営の小型バスでの運行だったのですが、業務委託したのか今では西武バスの車両に変わっていました。そのおかげで、スイカ・パスモが使用できます。
この先の乗り継ぎはスムーズです。待つこと数分で、すぐに坂本行きのバスが現れました。
こちらも西武バスの車両です。どうせパスモは使えないだろうと、わざわざ小銭で財布を重くしてきたのに、完全なる杞憂に終わりました。
10時40分 坂本バス停に到着です。
自宅を発進してから実に5時間以上が経過しています。
厳密に言うと、バスが止まったのは坂本バス停ではなく、そこから少し離れた登山口です。乗客がハイカーしかいなかったので、わざわざここで停めてくれたのでしょう。
2.二子の鞍部、股峠を目指して沢沿いの急登を登る
登山口からいきなり凄い岩の壁が見えています。「え?本当にアレに登れるの」と言う気分になってきます。
オーケイ、ひとまず道端の花でも眺めて気分を落ち着かせよう。ちなみに、これはムラサキカタバミ。
廃墟を過ぎると山道に入ります。地図には荒れ気味という記載がありますが、特に歩行に困難をきたすようば場所はありません。
ここで一度、国道299号に飛び出します。この道はどうやら、酷道と呼ばれる類の道であるようですな。
道沿いに少し登った所に登山口があります。トイレもあるので、用はここで済ませておくと良いでしょう。
入山者調査のカウンターを回して、登山開始である。なお、割と危険な山であるにもかかわらず、登山届けを出せる場所は見当たりませんでした。
背後にギザギザした見るからに険しそうな山が見えます。古くからの修験の山として有名な両神山(1,723m)です。秩父のこの界隈は、険しい岩の山が多いということです。
登り始めは沢沿いの道です。水辺のひんやりとした空気が実に気持ちの良い場所です。
先ほどから晴れたり曇ったりを繰り返す微妙な天気ではありますが、時より差し込む木漏れ日に照らされた新緑が実に美しいです。
岩場ばかりが注目をあつめがちな二子山ですが、股峠までの道も十分に険しいと言うことをここで述べておきましょう。急勾配の乾いた砂の斜面で、滑って非常に歩き難い道です。
11時40分 股峠に到着です。
二子の間の股にあるから股峠。直球のネーミングです。
西岳の案内板が置いてありました。この上級者コースと言うのは、どう見ても崖を登っているようにしか見えませんが。
3.二子山登山 登頂編 二子の片割れ東岳に挑む
二子山登山のセオリーに従い、東岳を先に攻略します。山頂までの標準コースタイムは、股峠からの往復で1時間10分ほどの道のりです。
のっけから手を使ってよじ登るような道です。
東岳の核心部といえるのが、この崖際のトラバースです。頭上の岩を避けるように回り込んでから上に登ります。
ここに金属製の足掛けが打ち込んであります。これをうまく使うことにより活路が開けるでしょう。特に難しくはありませんが、高度感があって緊張を強いられる場所です。
通り過ぎてから見下ろすとこんな感じです。写真だとイマイチ高度感が伝わらないですね。
難所を越えて振り返ると、飲んでいたアクエリアスを噴出しそうになる光景が広がっていました。確かにこの山はクレイジーだ。
往復で1時間10分かかると言う割には、意外とあっさり頂上が見えてきました。
山頂に向かって、岩の痩せ尾根を進みます。人一人が通行するのに十分な幅があり、見た目ほど怖くはありません。
12時5分 二子山東岳に登頂です。
核心部以外は特に危険な場所も無く、爽快な岩場歩きを楽しめました。
山頂の様子
あまり広くはありませんが、大勢が押しかけるような山ではないので問題は無いでしょう。
山頂からは、正面に両神山の全容を一望できます。見ていたら無性にまた登りたくなって来ました。八丁尾根コースを歩いてみたいな。
眼下にはスタート地点の坂本集落が見えます。直線距離にすると1kmくらいしか離れていません。
そして西岳。いやはや、すごいインパクトのある姿をしておりますな。ここで西岳の勇士を望みながら弁当を広げました。
股峠へ引き返します。当然ながら、下りのほうが高度感があって怖いです。
鎖が取り外されたような跡がありました。なんだってそんな意地悪をするのでしょう。
腰が引けていたらしく、股峠まで下るのに、登りと全く同じ時間を要しました。
4.二子山登山 登頂編 一般コースを通って西岳へ
お次は西岳へと向かいます。こちらも登り始めからいきなりの急坂です。
分岐がわかりにくいですが、上級コースへの取り付きはここのようです。
・・・え?行きませんよ。なにせ私は安全第一をモットーとするセーフ登山家ですからね。自分の分際と言うものを良くわきまえています。こと岩登りに関して言えば、私は決して上級者ではありません。
ちなみに、上級者コースと言うのはここを登ります。・・・まったくヒマラヤのヤギじゃあるまいし、なんて所を登るんだよ。
一般コースと言いつつ、こちらも十分すぎるほどの険路です。手足をフルに使ってよじ登って行きます。
ロッククライミングをする人たちは、どうやらここから登って来るようですね。やってみたいとは思いません。
13時35分 西岳に登頂です。
一般コースで登って来る分には、特に危険を感じる場所はありませんでした。どちらかと言うと、東岳のほうが緊張しました。
前方にこれから歩く岩の尾根が続いています。二子山の真の見所は、この尾根歩きだといっても過言ではありません。ピストンするのはあまりにも勿体なので、必ずこちらへ進むことをオススメします。
5.爽快なる岩の稜線歩き
痩せ尾根を下って行きます。最初の一歩を踏み出すのに少々度胸が必要かもしれませんが、足元は安定しています。自信を持って踏み出しましょう。
小さなアップダウンを繰り返しながら進みます。なお、稜線上に鎖は一切ありません。
中には垂直の壁を下るような場所も。足を乗せられるステップは必ず存在します。慎重に足を置く場所を探して下りましょう。
見た目の恐ろしさとは裏腹に、思いのほかしっかりとした道になっていました。人一人が通行できるだけの幅は、常にキープされています。
振り返ってみた西岳。こうして見ると、まるで屏風のような横幅の狭い山であることが窺えます。
石灰岩の岩肌と言うのは表面がザラザラとしており、摩擦係数が大きく極めて良好なグリップが得られます。スリップの危険は殆どないと言うことです。
眼下に送電鉄塔が見えました。山と高原地図に「二子山の展望がよい」と書かれている場所です。あの場所から二子山の姿を撮影することを、本日の最終ミッションと位置づけます。
こちらは群馬県方面の展望です。まったく馴染みのない一帯なので、見えている山の名前はいっさい分かりませぬ。
稜線歩きで一番緊張したのはここです。左右はどちらも切れ落ちていて逃げられず、正面のこの岩を乗り越えるしかありません。大きな亀裂がいくつか入っていたので、そこにつま先を掛けてよじ登りました。
正面に、武甲山のように石灰の採掘で大きく削られている山の姿が見えてきました。
叶山(かのうやま)と言う名の山です。ナイフで山頂部を切り取ったかの様な姿をしています。全山が関係者以外立ち入り禁止で、登ることは出来ません。
眼下に道が見えます。こちらへ下るようですが、それにしても凄い比高です。どうやってあそこまで下るのでしょう。
そんな疑問に答えるかのように、末端に向かって尾根が大きく高度を落とし始めました。
登山道は、途中で尾根筋を外れて南側に折り返します。折り返し地点には鎖場がありました。
これまたほぼ垂直です。まあ、鎖があるだけまだマシなのかもしれませんが。
下から見るとこんな感じです。足を乗せるステップはあるのですが、足場同士が結構大きく離れていています。
手足の長さに物を言わせたパワープレーで強引に突破しましたが、小柄な人だと難易度が跳ね上がるかもしれません。
グリップの効く岩場よりも、こういう砂利の交じった急坂のほうが恐ろしく感じられます。
最後に岩場のこれまた急な下りが待っていました。申し訳程度にトラロープ張られていますが、鎖場よりもよほど怖い。
やっと岩場の下まで降ってこれました。ここまで来れば、もう危険箇所はありません。一安心です。
取り付き部分を振り返ってみるとこんなです。誰もここが道だとは思わないのではないだろうか。
6.二子山 下山編 見晴らしの良い尾根道を下って坂本へ
先ほどまで歩いていた岩の稜線が一望できます。上から見えていた道は、どうやら今いるあたりのようです。
15時10分 魚尾道峠(よのうとうげ)を通過します。
どこにも書いていませんが、坂本へ向かうのはここを直進です。ローソク岩方面に向かうと股峠に戻ってしまいます。
しばらく進んだ所で、鹿除けの柵をどけて中へ進みます。このまま柵沿いに進んでしまうと、坂本へは戻れませんので要注意です。
この道はあまり踏まれていないらしく、土砂に埋もれて斜めになりつつありました。
二子山の展望がよいと言う鉄塔まで下ってきました。さあ、大いに期待して見てみましょう。
・・・ぜんぜん駄目じゃないですか。
鉄塔からよりも、途中の伐採地からのほうが良く見えます。
鉄塔を過ぎると傾斜が緩み、非常に歩きやすい道になります。快調に飛ばして下っていきます。
道標も何もありませんが、ここが行きに登ってきた坂本への近道です。もと来た道を戻ります。
16時10分 坂本バス停に到着。
帰りのバスは25分発なので、結構ギリギリでした。最終便は18時にもう一本ありますが、ここは自販機すらないような場所なので、長時間待つのは辛いかと思います。
時刻表通りに現れたバスに乗って、長い長い帰宅の途に付きました。
さて、この二子山。クレイジーな山などと呼ばれてはおりますが、一般ルートを歩く限りではそこまで危険な山ではありません。確かに落ちたらただでは済まない様な場所もありますが、それはどこの山であっても同じことです。道はしっかりとしており、ある程度山慣れしている人であれば、なにも難しいことは無いかと思います。
この山の最大のハイライトは、西岳から続く岩の尾根歩きです。北アルプス3,000メートル峰の稜線にも引けをとらないような迫力があり、大いに満足しました。股峠からピストンしてしまうのは非常に勿体の無いので、西岳に登ったからには、是非とも尾根を歩いてみて欲しいです。
交通困難な僻地にある山ですが、その手間に見合うだけの魅力に満ちた良い山だと思います。
<コースタイム>
坂本バス停(10:40)-二子山登山口(10:55)-股峠(11:40)-東岳(12:05~12:30)-股峠(13:05)-西岳(13:35~13:45)-魚尾道峠(15:10)-鉄塔(15:25)-坂本バス停(16:10)
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
コメント
前略、初めて拝見させていただきました、以前、2回ばかり登ったことがある山でした。
こと細かくきれいな写真まで乗せていただき、これから行ってみようと人たちには大変参考になるかと。
また、西岳からの稜線歩きの魅力をお勧めされていましたのは素晴らしいことと思います。
これから行く人たちは、交通が不便かもしれませんが、行ってよかったと思います。
ありがとうございます。
ロリコさま。コメントをありがとうございます。
おっしゃる通り、二子山は遠路はるばる訪問するだけの価値が十分にある山だと思います。物々しい通称に気圧されている人も多いのではないかと思いますが、そこまで極端に危険な山ではない(上級者コースは除く)ので、ぜひとも挑戦してみてほしいです。
はじめまして
二子山に登るにあたって、参考にさせてもらいました。ありがとうございます。
私は東岳の登頂は断念しました。鎖のあるところで死の危険を感じて諦めました。
西岳の一般コースもかなり苦労しました。
こんなに岩肌が飛び出た道をアスレチックのように進むのは初めてで、
とても緊張感のある登山になりました。
匿名さま
コメントを頂きましてありがとうございます。
二子山は過去に死亡事故も発生している山なので、なによりも安全第一です。「危ないからやめよう」と言う決断が出来るのは、登山を趣味として続けるうえでとても大切なことだと思います。
三点支持の基本さえしっかりと押さえていれば登れる山ですので、経験を積んで自信が付いてから再戦してみるのも良いかと思います。